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可愛い妹が出来たので愛でます  作者: Precious Heart
第1章ー可愛い妹が出来ましたー
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秘話〜小鳥遊香恋の独白〜

 



 わたしが5歳の頃、お父さんが事故で亡くなった。


 それからはお母さんとずっと2人暮らし。

 お父さんが事故で亡くなった時に保険金と賠償金が貰えたらしく、わたしが10歳になるまでお母さんは働かずずっと家にいてくれた。

 甘えたがりなわたしを寂しくならないように甘えさせてくれた。


 今にして思えば、その時からお母さんは無理をしていたんだと思う。


 だって、お父さんが亡くなって1番悲しいのはお母さんのはずなのに、わたしには全然そんな顔を見せなかったから。


 そして、わたしが小学5年生になってからお母さんは働き始めた。


 お母さんの前の仕事は忙しくて毎日朝5時には起きて洗濯して、朝ごはんと夕ご飯を作ってから7時には家を出て、帰宅するのは夜の10時を回っていた。

 だから、週に1度の休日でしかお母さんの顔を見てない日々が続いていた。


 正直に言うと、凄い寂しかった。


 1人でご飯なんか食べたくなかった。


 だけど、休日でも疲れた顔をしているお母さんを見ていると甘えられなかった。

 それに……わたしは自分で言うのもあれなぐらい人見知りだ。

 知らない人はもちろん、知っている人でも緊張して上手く話せない時がある。

 虐められることはなかったけど、クラスでは1人浮いていた思い出が多い。


 そんなわたしが、当時唯一甘えられたのは音楽の先生だった。


 先生はトランペットが専門で、わたしにトランペットを教えてくれた。

 先生が傍にいてくれて、トランペットを吹いている時は色んな事を忘れる事ができた。


 そうして、わたしはトランペットに没頭した。


 本当はお母さんに負担をかけたくなかったけど、どうしても自分のトランペットが欲しくなったわたしは我慢しきれずお母さんにお願いしちゃった。

 お母さんは、


「欲しい物があったら素直に言ってくれていいのよ」


 と苦笑して、トランペットを買ってくれた。




 今でもわたしの大事な――大事な宝物。




 少し月日は流れ、わたしは中学生になった。


 中学は公立ではなく私立の女子校。

 人見知りのわたしを心配したお母さんが、


「まずは1人友達を作りなさい」


 と、男の子がいなくて雰囲気のいい学校を選んでくれたから。

 それでも、入学時は(トランペットがあれば、友達なんていらないもん……)と思わないと不安で押しつぶされそうだった。

 けど、それはすぐに杞憂で終わった。


「うわっ、メッチャかわいい!

 香恋ちゃんって言うんだ!

 ねぇ、レンレンって呼んでもいい!?」


 と、なっちゃんが声をかけてくれたから。


 わたしは入学式の日になっちゃんと友達になった。


「レンレンはトランペット吹けるんだ!

 じゃあ、あたしはトロンボーンでも吹こうかなっ!

 2人してラッパーってカッコよくない!?」


 と、なっちゃんはわたしを誘って一緒に吹奏楽部に入部してくれた。

 学校が初めて楽しい場所だと思えた。

 なっちゃんはわたしとは対照的に底抜けに明るい活発な女の子だった。

 そんななっちゃんの唯一の欠点と言えば、


「ねえねえ、レンレン聞いてよー!

 この前アニキがさー!」


 と、よくお兄さんの悪口をわたしに言ってくるのだ。

 お兄ちゃんがいないわたしからしたら、なっちゃんが羨ましくて仕方なかった。

 わたしにお兄ちゃんがいたらいっぱい甘えてるのに……とその都度思った。

 それに、なっちゃんはよくお兄さんの悪口を言っているけど、はたから見たらブラコンそのものだった。

 だから、そんななっちゃんを毎日見て、


『わたしにもしお兄ちゃんがいたら』


 という思いが日に日に強くなるのは当然の成り行きだった。





 大きな転機を迎えたのは去年の夏。


 お母さんが仕事を辞め、仁さんの会社に転職した。

 その時、色々あったんだけど、お母さんの名誉のためにこれは秘密。

 ただ、お母さんといる時間が圧倒的に増え、お母さんに昔の笑顔が戻った。

 その笑顔にわたしも笑顔になれた。


 それから、仁さんは時間があればお母さんをデートに誘い、3人で遊びに行く機会が増えた。

 その時のお母さんは本当に幸せそうで、わたしも幸せのお裾分けをもらった。

 何度かお母さんに「再婚しないの?」と訊いたことがあったけど、お母さんはその度に困った顔をしていたのが不思議だった。




 その困った顔の理由がわかったのは去年の秋。


「あのね、仁さんもお母さんと一緒で奥さんはいないけど、香恋の1つ上になる息子さんがいるの」


 と、とうとうお母さんが打ち明けてくれた。

 その時のわたしの気持ちは、お兄ちゃんが出来るかもと言う嬉しさと、見知らぬ男の子と一緒に過ごす事への不安が入り混じっていた。

 どちらかと言えば、不安の方の割合が大きく占めていたと思う。

 そんなわたしの心情を読み取ったのか、


「ねっ、香恋には無理でしょ?

 それに香恋といられる今の生活がとても幸せだから、このままでいいの」


 と、お母さんは微笑んでわたしを諭してくれる。


 だけど、このままでいいなんて嘘だ。


 だって、お母さんが仁さんと一緒にいる時の笑顔をわたしは知ってる。

 再婚して、夫婦になった方がもっと幸せになれるに決まってる。

 お母さんからいっぱい色んな物をもらってるのに、わたしの気持ち1つでお母さんから幸せを奪うなんてしたくない!

 不安なのは知らないからだ。

 知らないなら、これからいっぱい知ればいい。


「ねぇ、お母さん、仁さんの息子さんの事、もっといっぱい教えて」


 わたしは勇気を振り絞って、お母さんにそう言った。




 お母さんはそれからお兄ちゃんや仁さんの事について、わたしが知らなかった事を全部教えてくれた。


 お兄ちゃんの名前が優さんだって事。


 お兄ちゃんが中学3年生で私立高校では有名な西高校を志望している事。


 仁さんが地元で起業し、見事成功した事。


 小鳥遊家は由緒ある大地主の宗家であった事。


 仁さんはその宗家の次男なので、分家筆頭に当たる事。


 仁さんのお兄さん――信義(のぶよし)さんが宗家であり、麗華さんという名前の1人娘がいる事。


 地元のお祭りや神事、イベント等で代々小鳥遊家が総代長を務め、運営に大きく関わっている事。


 今は信義さんが総代長を務め、仁さんが副総代長であること。


 そして、信義さんは男の子に恵まれなかったため、将来的にお兄ちゃんが信義さんの養子となり次期総代長になるのを周囲から期待されている事。


 また、その辺の事情については、お兄ちゃんの負担になるから、周囲は期待しててもお兄ちゃんには伝わらないよう箝口令が敷かれているとの事。


 色々な話を聞いたけど、わたしには全然理解出来なかった。


 だって、お兄ちゃんがどんな人か知るのにいっぱいいっぱいなのに、宗家とか分家とか漫画でしか出てこないような単語を並べられてもムリがある。


「時代錯誤に思うかもしれないけど、神事において伝統やしきたりはとても重要な事なんだよ」


 と、理解できないわたしに仁さんが笑って教えてくれた。


 また、その時に「今度、秋の収穫を祝う大祭があるから香澄と一緒に遊びにおいで。優も子供神輿の責任者として手伝いに出すから」と誘ってくれた。


 お兄ちゃんを一目見れるかもしれないと思い、わたしは頷いた。





 そして、迎えた大祭の日。


 その日は雲ひとつない快晴だった。

 お母さんとわたしは予定通り大祭を見に行くと、大きな神輿を大人達が『わっしょい、わっしょい!』と担ぎ、大太鼓をバンバン鳴らしながら町中を練り歩いていた。

 その神輿と大太鼓の後ろにはびっくりするほどの人が行列を作っている。

 そうやって、秋の収穫を神さまに感謝し、町民全員で祝ってきたのだという。

 わたしは見たことない光景に目をパチクリさせていると、


「ほら、優君が来るわよ」


 お母さんがそう教えてくれた。

 お母さんの言葉通り、列の後方から、


「わっしょい!!」


 という一際大きな掛け声が響き渡り、


「「「「「わっしょい!」」」」」


 という子供達の元気な掛け声がそれに続く。

 列が近づくにつれ、その掛け声も大きくなってくる。

 わたしの心臓の鼓動も緊張でバクバクと大きくなっていく。




 そうして、わたしはお兄ちゃんを初めて見た。




 お兄ちゃんは小さい神輿の花棒に手を添え、笑顔で掛け声を出して子供達を先導していた。

 ただ掛け声を出すだけじゃなくて、元気のない子には目を合わせて声を張り上げて励まし、よく声を出す子にはOKマークを出してウインクしてあげる。

 わたしは子供神輿の周りで写真を撮るお母さん達に紛れるようにしてついて行った。


 それからはずっとお兄ちゃんに目が釘付けだった。


 神酒所に入り、休憩に入る間も無くお兄ちゃんは子供達にお菓子を配ってあげていた。

 配る時も膝を地面につけ、子供の目線に合わせてから「よく頑張ったね! これはご褒美だから、次も頑張ってね!」と、片手でお菓子を渡し、もう片方の手で子供達の頭を撫でてあげていた。

 その度に子供達は「お兄ちゃん、ありがとー!」と笑顔で答えてお母さん達のもとに走っていく。

 お菓子を配り終えると、休まずに子供達の様子を見て回っていた。

 はしゃぎ過ぎる子がいたら注意しつつ遊び相手になってあげたり、

 ぐずる子がいたら頭を撫でながら慰め、

「お兄ちゃん高い高いしてー!」と抱きついてきた子を笑顔で高い高いし、

 その高い高いに興味を示した子供達が列になって並び、


 それでも終始お兄ちゃんは笑顔で全員を相手して、

 子供達全員が笑顔になっていた。


 わたしはその光景を見ていいなぁって思った。

 その和むような光景そのものに対してではなく、

 子供達に対していいなぁと思ってしまったのだ。




 わたしも元気がなかったら励まして欲しい。


 わたしにもお兄ちゃんの笑顔を見せて欲しい。


 わたしもお兄ちゃんから頭を撫でられてみたい。


 わたしもお兄ちゃんと遊びたい。


 わたしも泣きそうになったら慰めて欲しい。


 わたしもお兄ちゃんに抱きついてみたい。


 わたしもお兄ちゃんに思いっきり甘えたい。


 わたしもお兄ちゃんをお兄ちゃんと呼んでみたい。




 わたしだけのお兄ちゃんになって欲しい――




 ――そう強く思ってしまったのだ。




 それから数日。


 わたしはずっとうわの空だった。

 気づけばお兄ちゃんの姿を思い浮かべてしまう。

 気づけばお兄ちゃんと色々したい事が浮かんでくる。

 お兄ちゃんと思うだけで、何故か胸が熱くなり顔が朱く染まってしまう。


「レンレン、どったのー?

 季節の変わり目で風邪でも引いちゃった?」


 わたしの様子を見てなっちゃんが心配してくれる。


「風邪じゃないから大丈夫」


「風邪じゃないなら、なおさらどったの?

 今週ずっと変な調子じゃん」


「うん、えっとね――」


 なっちゃんにここ最近の事を伝えた。

 もちろん、要所要所はぼかしたけど。

 なっちゃんは腕を組んでふむふむと頷くと、


「そっかー、レンレンはその人に一目惚れしちゃったのかー。

 レンレンが恋するなんて、あたしも友達として嬉しいよ」


 ホロリとなっちゃんが目元を拭う仕草をする。


「こい?」


 わたしはなっちゃんの言葉の意味がわからず目をパチクリさせてしまう。


「恋は恋だよー

 もしかして、レンレンにとっては初恋なん?」


 初恋――


 なっちゃんの言葉の意味がわかると顔がボンってなり耳まで熱くなってくる。


「レンレンはやっぱ可愛いなー

 メッチャわっかりやすー」


 なっちゃんがそう茶化してくるけど、わたしにはそれに応える余裕はなかった。

 胸の高まる鼓動がなっちゃんの言葉を全力で肯定してくるからだ。




 わたしはお兄ちゃんになるかも知れない人に恋心を抱いてしまった。





 それからというもの。


 わたしは勉強や色々な事に身が入らなくなってしまった。

 トランペットは集中すれば出来たけど、他の事は全然ダメ。

 何もしてないのにお兄ちゃんが好きって気持ちが溢れて止まらないのだ。

 意識しないようにしなきゃと思う度に余計に意識しちゃって悪化しちゃう。

 この気持ちは抱いちゃいけないのに、それでも自分の気持ちが止められなくて、


「お母さん、わたし優さんのことが大好きみたい。

 好きって気持ちが溢れて止まらないの。

 ねえ、どうすればいいのかなぁ」


 と、お母さんには絶対秘密にしなきゃと思ってたのに、とうとう相談してしまった。


 言葉にしてる途中から涙が溢れてくる。


 好きなのに、


 大好きなのに、


 大好きだからなのか、


 苦しくて、


 苦しくて、


 涙が止まらない。


「大祭の時にもしかしたらとは思ってたけど、そこまで好きになっちゃってたのね」


「うん」


 お母さんは薄々察していたみたいだけど、

 それでもここまでになるとは思ってなかったみたい。


「香恋、おいで」


 お母さんはそう言うとわたしを近くに呼んで、

 優しく抱きしめてくれた。

 そして、


「ごめんね、香恋」


「えっ、、?」


 何故かお母さんがわたしに謝ったのだ。


「優君を好きになって、

 好きなのに泣いて、

 それでもここまで相談しなかったのは、

 お母さんのためでしょ?」


 わたしは首を横に振る。


「う、ううん、違うよ?

 お母さんのためとかじゃないよ?」


 わたしは言葉にもして否定する。

 その先は言っちゃダメな気がしたから。

 それでもお母さんは続ける。


「私が仁さんと再婚したら優君はお兄さんになる。

 けど、兄と妹で恋愛しちゃ駄目だし結婚もできない。

 香恋はそう考えたんでしょ?」


 わたしは一生懸命首を横に振りお母さんの言葉を否定する。


「ちがうの、そうじゃないの」


 あっ、ダメ、声が震えちゃう。


「香恋が優君に告白して、

 お互い好きになって、

 恋人になって、

 結婚するのに、


 私と仁さんが再婚するのはやめて欲しい。


 そう思っちゃったんでしょ」


「ちが、ちがうの……」


 涙を流しすぎてお母さんの顔をきちんと見れないけど、それでもわたしは違うと否定する。


「でも、香恋は優しいからそんな事を思った事に自己嫌悪をしちゃったんだよね?」


 わたしは首をふるふると横に振る。


「だから、香恋は自分の恋心に蓋をしようと思った。

 自分の恋を諦めようと思ったんでしょ?」


 その言葉にわたしはとうとう否定することを諦めた。


「優君が大好きだって意識しないように、

 してはいけない恋だから意識しないように、

 他の事が何もできなくなるぐらい意識しないようにして、

 意識しないようにする事が1番意識しちゃって、

 大好きって気持ちが止められないんだよね?」


 お母さんの言葉は違ってなんかない。

 ここ最近意識したり無意識に思ってた事を全部お母さんが言ってくれたから。


「ねぇ、香恋。

 香恋はどうしたらいいって聞いてきたけど、香恋はどうしたい?

 私の事は気にしないで、香恋が本当に思ってる事を教えて?」


「わたしは……」


 大祭の時に抱いた思いを思い出す。


「うん」


「わたしは優さんの傍にいたい」


「うん」


「優さんの笑顔をずっと見ていたい」


「うん」


「優さんとデートして抱きついたり、

 頭を撫でられたりして、

 いっぱい、いっぱい甘えたい」


「うん」


「優さんをお兄ちゃんと呼びたい」


「うん」


「優さんと早く家族になりたい」


「うん」


「優さんにいつかこの気持ちを伝えて、優さんのお嫁さんになりたい」


「うん」


「それで、それで……」


「うん、それで?」




「それで、優さんといつか本当の家族になって、死ぬまで幸せに暮らしたい」




「うん、じゃあ、香恋は今言ったやりたい事をやりなさい」


 わたしが言い切ると、お母さんが全てを肯定してくれる。


「で、でも、それじゃあお母さんが……」


「香恋。

 香恋はお母さんが駄目って言ったら、今言った事を本当に全部諦められるの?」


「ううん」


「なら、香恋の好きなようにしなさい」


「本当にいいの?

 お母さんはそれでいいの?」


「ええ、勿論。

 それに香恋は1つだけ勘違いしてるわよ?」


「えっ、何を?」


 そこで、お母さんは悪戯っぽく微笑み、


「お母さんと仁さんが再婚して、

 香恋が仁さんの養子縁組に入ると、

 優君と香恋は兄と妹になるけどね、


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 と、今までの会話やわたしの涙を台無しにするような事実を教えてくれた。


 それはもっと早く教えてよっ!


 その後、わたしは生まれて初めてお母さんと親子喧嘩をした。






 それからの日々はあっという間だった。


 仁さんとお母さんと今後について何度も何度も話し合った。

 わたしがお兄ちゃんを好きな事について、仁さんは基本的に肯定的だったけど、いくつか約束をさせられた。

 その中の1つが勉学に支障をきたさない事。

 当然と言えば当然の事だけど、1人で悩んでいた時には何も手につかなくなっていたので馬鹿には出来ない。

 ちなみに、それらの約束が守れなかった時にはお兄ちゃんを養子に出す予定を切り上げて家から叩き出すとの事だった。

 好きな人と一緒に住めなくなるんて、わたしにとってはかなりの罰だ。

 わたしは絶対に約束を守ろう心に決めた。

 その他には再婚や養子縁組、その他諸々の手続きの準備をして、家の間取り図を基に色んな家具の配置を決めていった。

 その時、仁さんがわたしのためにある物をプレゼントしてくれると言ってくれた。

 わたしとお母さんは流石にそれは……と断ったけど、翌日には契約書を持ってきて本当に驚いた。

 新しく引っ越す楽しみがまた1つ増えた。





 そうして、全ての準備が整い顔合わせの日を迎えた。


 わたしは久しぶりにお兄ちゃんを見た事になるけど、お兄ちゃんは相変わらず素敵だった。

 会食中、仁さんはお兄ちゃんに対してある事ない事を織り交ぜつつ話していたけど、急にわたしにも釘を刺してきた時にはちょっと焦ったのは内緒。

 だけど、会食自体はとても楽しかった。


 そして、今日お兄ちゃんの家に初めてお邪魔したけど、お母さんが話していた以上の豪邸に感じた。

 自室に至っては、今住んでいる部屋の2倍以上広かった。

 ついついテンションが上がったわたしはためにためていたお兄ちゃんへの気持ちを爆発させてしまった。

 大祭の時の子供の真似なんかしたりしてみて、自分の欲望のままに甘えちゃった。


 今、冷静になって振り返ると顔から火が出るほど恥ずかしい。


 わたしだけどわたしじゃなかったみたいだ。


 それに加え、間接キスを狙ってやっちゃった日には、自分で穴を掘って埋まりたい。

 そうそう、それと私はお兄ちゃんのために練習をしていたアイーダ凱旋行進曲を演奏した。

 アイーダ凱旋行進曲はサッカーの応援曲で有名だけど、それにつけ加えて昔先生が教えてくれた事があった。

 アイーダはオペラとしても有名なのだそうだ。

 内容はファラオ時代の身分差の恋愛を描いた悲恋物で、最後は恋人同士牢獄で天国へと向かうのだと言う。

 それで、先生は中途半端な知識のまま、若い頃に付き合い始めた彼氏との初めてのお家デートの時に、波乱万丈の人生でも、貴方と死んでも一緒にいたいと願をかけて演奏したそうだ。

 そして、願かけが叶ったのか、先生はその後その人と結婚し子供も出来て幸せになった。

 その話を教え子に面白おかしく話したところ、その教え子も実践して結婚したと言う。

 それからは『初めてのお家デートの時にアイーダ凱旋行進曲を吹くと必ずその人と結婚できる』というジンクスが出来たのよ、と先生が教えてくれた。

「香恋ちゃんもいつかこの曲を吹く時が来ると良いわね」と、先生は笑って言ってくれたけど、こんなに早く吹く機会が巡ってくるとは思ってもみなかった。

 ただ、お兄ちゃんに曲名を教えなかったのは、中途半端に調べられるとわたしがお兄ちゃんが好きみたいに捉える事も出来ちゃうからだ。


 お兄ちゃんのことはもちろん大好きだけど、それを言うにはまだまだ心の準備が出来ていない。




 いつか来るその日と来週から始まるお兄ちゃんとの生活に想いを馳せ、わたしはその日床についたのだった。





 副題 <可愛すぎる妹の初恋>




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