5話〜妹と初めての日曜日①〜
翌日の日曜日。
その日は朝から父さんの言っていた通り、物置部屋を始めとした2階の大片付けとなった。
内容としては2階にある俺と父さんの自室はそのままに、物置部屋を香恋ちゃんの部屋に、母さんが使いそのままにしていた部屋を香澄さんの部屋にすると言った具合だ。
俺はその話を聞いた時、物置部屋はともかく母さんの形見が詰まった部屋を片付けようとしたら1週間あっても終わらないと思っていた。
だが、父さんは1日で終わらせるために、強引な荒業にでた。
それは整理や廃棄――ではなく移動。
具体的には父さんの会社で使っている物流用のコンテナを買い取り、そのコンテナの中に部屋の物を全て移動させ、会社の敷地に再び戻すという荒業だった。
父さんの会社――つまり、父さんが代表取締役社長を務めている正に父さんの、父さんによる、父さんのための会社だからこそできる荒業と言えよう。
「公私混同じゃない?」と、父さんには言ったものの、
「俺の会社だし、金は経費で落としてる訳じゃないから、何の問題はない」と言い切った。
我が父さんながら、流石と思ったね。
そんな訳で朝から我が家の前にはコンテナを積んだ大型トラックが停まり、コンテナに積んであった梱包資材を父さんの会社の人がせっせと降ろしていく。
「前々から話していたとは言え悪いな、斉藤。
終わったら、たっぷり特別手当をつけてやるから、今日は1日頼むな」
父さんが斉藤と言うらしい会社の人に声をかけていた。
「いやぁ、社長のためなら幾らでも喜んでやりますよ!
あっ、勿論特別手当も期待してます!」
俺並みに体格がしっかりした斉藤さんはハキハキ答える。
ふむ、父さんの普段とは違う会社の顔が垣間見えて新鮮である。
「ほら、優も頼むぞ。
梱包のやり方は知ってるだろ?」
「まあね。
じゃあ、降ろした資材から随時上で梱包するわ」
伊達に麗姉から色々やらされた訳ではない。
てか、普段の生活で梱包技術なんて使う訳でもあるまいに、麗姉は俺をどうしたいのかが気になる今日この頃である。
その後は、俺、父さん、斉藤さんの3人で黙々と梱包を行い、終わった物から順次コンテナへの積み込み作業を行なって行く。
斉藤さんの手際が良かった事もあり、昼前には物置部屋と母さんの部屋から物が全くなくなっていた。
この3人なら引越屋になってもすぐに食っていけるんではないかと思う。
なるつもりはないが。
「じゃあ、自分、これで会社に戻って上がります!」
斉藤さんが大型トラックの運転席に座り、窓を開けて去っていく。
去り際に父さんが「これは俺からの気持ちだから、思いっきり使えよ」と茶封筒を渡していたのが印象的であり、
「社長マジで愛してます!」と斉藤さんの言葉に、
「愛は香澄のだけで十分だ」と惚気ていたのも追記しておく。
はいはい、ご馳走様です。
「それで、お昼ご飯はどうする?
今、家にある物なら簡単にチャーハンぐらいは作れるけど」
リビングに戻り、ほっと息をついた所で父さんに聞く。
家事については父さんも一通りは出来るが、料理については俺の方が上手いので、専ら俺が作る事が多い。
「お昼ご飯は香澄が持ってきてくれる予定になっているから、コーヒーだけ頼む」
「りょーかい」
俺はコーヒーを淹れる準備をしながら、ふと昨日の『ライス』を思い出す。
「そういえば、俺は香澄さんの事は母さんって呼んだ方がいいのかな?」
「呼び方は優に任せるよ。
いきなりお母さん呼びも慣れにくいだろうしな。
それに俺だって普段は呼び捨てだが、昨日とかの正式な場ではさん付、会社では苗字で呼ぶ事だってある。
要はケースバイケースだ」
「それもそっか」
俺は納得し、お湯が沸いたのでコーヒーを淹れる。
まあ、息子も欲しかったと昨日言ってたので、いつかは母さんと呼んでみよう。
きっと、喜ぶだろうから。
「はい、コーヒー」
「サンキュー」
父さんがコーヒーを口につけた辺りで、
「こんにちはー」
「こんにちは!」
と、玄関から香澄さんと香恋ちゃんの声が聞こえてきた。
時計を見ると正午ピッタリだったので、時間調整して来たのだろう。
なお、鍵については父さんが昨日香澄さんと香恋ちゃんに渡していた。
流石、仕事が早い。
「「こんにちは」」
香澄さんと香恋ちゃんがリビングに来たタイミングで俺と父さんが声をかける。
香澄さんは料理が入っているだろうバッグを手に持ち、香恋ちゃんは見慣れない形の鞄? を手に持っていた。
なお、2人は夏らしくお揃いのワンピースを着て来ており、可愛いらしい容姿にマッチしていた。
「それじゃあ、お昼の準備しますね」
香澄さんは何度も我が家に来ているので、スムーズにお昼の準備をしていく。
父さんは自然と香澄さんの手伝いを始め、
俺はと言うと、
「とりあえず、座ろうか」
と、初めての訪問で忙しなく部屋を眺めていた香恋ちゃんに椅子を引いてあげる。
「う、うん。ありがとう、お兄ちゃん」
「どう致しまして」
香恋ちゃんの感謝の言葉に自然と顔が綻ぶ。
そして、俺は香澄ちゃんの対面に座り、
借りてきた猫よろしく部屋を眺めている香恋ちゃんを、
昼食が運ばれてくるまでずっと目で愛でていた。
副題 <父さん、マジ半端ないって>