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25話〜従姉とマッチポンプ〜

 



 俺が香恋ちゃんの勉強のために麗姉に『ライス』を送った後、


「それで、話を詳しく聞かせなさい」


 しばらくしてから部屋にやって来た麗姉が俺に話しかける。


 軽く『ライス』で事情は伝えていたけど、要点を絞って改めて説明する。


 大前提として、香恋ちゃんが西高を志望している事。


 次に現在の模試の結果が芳しくない事を模試の結果を見せて説明する。


 椅子に腰掛け、脚を組んだ麗姉のこめかみがピクピクしていた。


 うん、気持ちわかるわ。


 けど、それは口にしない。


 俺は正座状態のまま現状を伝えるのみ。


 なお、香恋ちゃんも自主的に正座しているが、元気がない事を付け加えておく。


 夏休みに香恋ちゃんの勉強を見てある程度形にしたい俺の希望や、

 トランペットの練習時間を確保したい香恋ちゃんの希望を伝える。


「それで、麗姉にも香恋ちゃんの勉強を手伝って――」


「嫌よ」


「――うん、せめて最後まで言わせて欲しかった」


 えっ、てか断られると思ってなかった。


 意気揚々と麗姉も香恋ちゃんの勉強計画に付き合うかと思ってた。


「えーと、断る理由を聞いてもいい?」


「むしろ、何で私が香恋を手伝うと決めつけていた理由を言いなさい」


 俺の質問に麗姉がきっと睨み返してくる。


 俺が麗姉が手伝ってくれると思ってた根拠か……


「麗姉なら主席に出来るって、前に生徒会室で言ってたから」


「出来るとは言ったけど、してあげるとは言ってないわね」


「……いつもなら小鳥遊家とか体裁を気にしてるし」


「それは優を手に入れるための手段ね。

 段取りが変わった今、気にする必要はないわ」


「………………去年、俺の勉強見てくれてたじゃん?」


「それは私が優と一緒にいたいし、優が私のいる高校に入学して欲しかったからね。

 香恋とは関係ないじゃない」


「……………………え〜と、可愛がるとか仲良くするんじゃなかったっけ?」


「あら、優は私が恋敵に塩を送るような人間に見えるのかしら?」


「見えないです」


「そう、分かってもらえたならいいわ」


 満足げに麗姉が微笑む。


 うん、香恋ちゃんごめん。


 麗姉を巻き込むのはお兄ちゃんには無理だったわ。


 麗姉抜きで香恋ちゃんの勉強を見るしかないか。


 俺がそう考えていると、麗姉の怒りの矛先が香恋ちゃんに向かう。


「それと、香恋。

 貴女、よくその成績で西高に行きたいと言えるわね?」


「うぅ、だってお兄ちゃんが通ってるんだもん」


「なら、死ぬ気でやりなさい。

 トランペットの練習時間を確保したいなんてよく言えたわね」


「っ……」


 香恋ちゃんが言葉に詰まる。


「麗姉、それは言い過ぎ。

 趣味の時間はあっていいだろ。

 そもそも、去年受験生の俺にベンチプレスを始め、色々な事をさせてたじゃん」


 俺は香恋ちゃんを庇う。


 香恋ちゃんにとってトランペットはもう自分の一部だ。


 切り離していい訳がない。


「何回か言った気もするけど、優は香恋に甘すぎよ。

 優と香恋とでは体力も集中力も全然違うわ。

 それに、私がしてるのは覚悟の話よ」


「覚悟?」


「ええ、目的のためなら他の全てを捨てられる覚悟よ」


「えーと、そんな重く考える必要ある?」


「あら、生半可な気持ちで勉強したって身につく訳ないじゃない。

 トランペットの方が優先順位高いなら西高は諦めた方が香恋のためよ。

 最悪、中途半端になるだけね」


 それは、一理あるか。


 香恋ちゃんと一緒に高校に通ってみたい気持ちはあるけど、香恋ちゃんが駄目になるぐらいだったら、そうした方がいい。


 俺がそう考えていると、




「わ、わたし……と、トランペット、やめる……」




 香恋ちゃんが嗚咽にまみれた言葉を出した。


 俺がギョッとして香恋ちゃんを見ると、目からはポロポロと涙が溢れていた。


「あら、いいのかしら?」


 麗姉はと言うと……何だか楽しそうだ。


「いいわけないもん……


 だけど、お兄ちゃんと、お姉ちゃんと一緒の高校にやっぱり行きたいから……


 仲間外れは寂しいもん……」


 と、香恋ちゃんが言葉を紡ぐ。


 香恋ちゃんの涙は止まる事を知らないように流れ続ける。


 麗姉はそんな香恋ちゃんを見て、




「そう、なら、香恋の勉強を見てあげるわ」




 と、今までの発言を麗姉がひっくり返した。


「えっ、と、麗姉?」


「あら、優、何かしら?」


「いや、言ってる事が変わったなって」


「別に、私は中途半端なのが嫌いなだけよ。

 良いものも見れたから協力してあげるわ。

 優のご希望通りでしょ?

 喜びなさい」


「あぁ、うん、そうなんだけど」


 何だか腑に落ちない。


「とりあえず、これが明日からの大まかなタイムスケジュールよ。

 異論は認めないわ」


 そう言って、麗姉がA4用紙を1枚俺に手渡してきた。


 えっと、準備よくない?


 てか、最初から引き受ける気あったんじゃん。


 俺は内心愚痴を漏らし、タイムスケジュールを見て目をパチクリさせる。


 俺は驚きのまま香恋ちゃんにも見せてあげると、香恋ちゃんも目をパチクリさせた。


「いーい、香恋、よく聞きなさい。

 貴女は大好きなトランペットよりも西高を選んだわ。

 その覚悟、努努忘れないように。

 そして、貴女は今まで勉強をやってこなかっただけよ。

 私と優が勉強を見て、解けない問題はないわ。

 だから、安心して明日から勉強しなさい」


 麗姉がそう話をまとめた。


 香恋ちゃんはその言葉に感激したのか、


「うん、わかった!

 お姉ちゃん、ありがとう!」


 と、目をキラキラさせて、麗姉に抱きついた。


 俺はその光景をどこか冷めた目線で見てしまう。


 どん底に突き落としてから持ち上げる。


 完璧なマッチポンプ。


 麗姉に信者が出来る方法を垣間見た気がする。


 まあ、過程はともかく麗姉が香恋ちゃんの勉強を手伝ってくれるのは心強いことに変わりない。


 俺は明日からのタイムスケジュールを見て、頑張ろうと思う。


 ちなみに、タイムスケジュールにはしっかりとトランペットの練習時間が確保されていた。





 副題 <魔王様には詐欺師の才能がありました>






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