秘話〜佐藤冴の独白〜
佐藤冴。
それが私の名前。
ん、家族の話をする。
私が肉親と呼べるのは母のみ。
父だった男は離婚して別の女と暮らしてる。
あの男は糞だった。
母はずっと変わらずあの男を愛してた。
私も父としてそれなりにあの男を慕ってた。
それなのにあの男はよく浮気をしては母を悲しませた。
終いには、家に寄り付かなくなり他所に子供を作って離婚。
絵に描いたようなクズ。
居なくなってせいせいした。
けど、母は悲しみにくれ、心労で倒れた。
今も入院している。
母の介護は伯母がしてくれている。
伯母は法的制度も使い、私と母の財産管理をしてくれている。
そこに不正はない。
むしろ、『一緒に住む?』と言ってくれるぐらいの善人。
それを断ったのは私だ。
1人の方が気楽だからだ。
だから、私は中学、高校と寮がある私立を選んだ。
基本、寮は遠方の特待生のみが使う事が多い。
私の場合、学校側が私の家庭事情を考慮し、入寮を許可してくれた。
ん、私の性格の話をする。
私は感情を出すのが苦手だ。
元々感情の起伏が大きくない。
また、他人と話すのも面倒になる。
優しい伯母ですらそう思う時がある。
そんな私を私は嫌いだ。
自分が嫌いなのに、誰かを好きになる気もない。
そんな、私の趣味は人間観察。
付け加えると恋愛してる男女を見る事が1番好き。
矛盾?
そんな事はない。
例え矛盾しててもおかしくない。
二律背反、心の中の天使と悪魔、人間は矛盾を抱える者だ。
気にする必要はない。
話がちょっと逸れた。
男女が恋愛し、
時に喧嘩し、
時に別れたりするけど、
それでも前向きである姿が好ましい。
同時に、救われた気がする。
父と母にも別の道があったんじゃないかと。
私は高校生になり萌と友達になった。
萌は私とは真逆の人間だ。
だから、仲良くなれたのかもしれない。
萌は思ってる事がすぐ顔に出る。
その上、ビックリするほど真っ直ぐだ。
私には少し眩しい。
そんな萌が小鳥遊に恋をした。
私はすぐにそれがわかった。
そして、私は萌の恋を応援した。
私のたった1人の親友と呼べる存在。
母のように不幸になって欲しくない。
それなのに。
だからこそ。
私は今日大失敗した。
小鳥遊の傍に2人の女がいた。
1人は妹になったばかりの可愛い少女。
もう1人はずっと萌の邪魔をしていた生徒会長。
今まで何も行動してなかったのに、急に恋する乙女になっていた。
正直、この時点で頭に来ていた。
けど、生徒会長が恋する乙女になったのは私としては好ましい。
だから、この時点では我慢出来た。
我慢出来なくなったのはサイザで小鳥遊を尋問した時。
明らかに3人が小鳥遊を好きなのに小鳥遊は気づく様子がない。
その姿が私と母を無視し続けたあの男と被った。
私が口を出す事ではない。
それはただの八つ当たり。
そう頭で分かっていても私は止まらなかった。
言っている内に本当に小鳥遊を殺したくなってきた。
これは本当にマズイ。
私は慌ててサイザを後にした。
そのまま電車に乗り寮の自室へと戻った。
冷静になってから私を襲ったのは後悔と驚きだ。
後悔は全てを駄目にした事。
萌の応援も、
今までしてきた事も、
夏休みの計画も、
3人の恋心も全てがパー。
私が小鳥遊から距離を置かれるのはいい。
自業自得だから。
けど、萌まで距離を置かれたらやるせない。
萌を不幸にさせたくなかったのに、私自身の手で不幸にさせてしまう。
そうならないように、私はまた睡眠時間を削って考えなければならない。
私は私に出来る事をしないといけない。
驚きは私にあそこまでの感情があった事。
頭でわかってるのに体が心に従った事は初めて。
本当なら喜ぶべき事。
私も同級生みたいに普通の人間になれる。
自分の事を好きになれる事のはず。
だけど、怒りで我を忘れたのは喜ぶべき事ではない。
そう、1人で思考を巡らせていると、スマホが鳴った。
電話だった。
珍しい。
スマホを見れば萌からだった。
そのスマホを取るのは怖い。
けれど、取らない訳にはいかない。
「ん、もしもし」
『もしもし、冴ちゃん。
大丈夫?』
萌は甘い。
あんな事したのに私を気遣う。
でも、そこが萌のいい所。
「ん、大丈夫。
冷静になった。
後、ごめん。
つい頭に血がのぼった。
小鳥遊を殺す気なんてないから安心していい」
『あっ、麗華さんの言う通りだったんだ……』
「生徒会長?」
生徒会長がどうかしたのだろうか。
『ううん、気にしないで』
一体なんなんだろう?
「萌、あの後どうなった?」
聞きたくないけど聞かなばいけない。
『えーとね、うん、何て言えばいいんだろう?』
「ん、正直に言っていい。
私のせいであの場でみんなの関係は壊れた」
『あー、壊れたけど、壊れてないって言うのかな?』
「ん、よくわからない。
端的に言って」
『端的に言ったら、ゆ、優くんのハーレムが出来ました』
「ん、意味がわからない」
本当に意味がわからない。
あの状況からどうすればそうなる?
『だよね、私も不思議に思う』
電話口で萌がカラカラと笑う。
どうやら悪い方向にはならなかったみたいだ。
『だから、冴ちゃん。
明日また会おう?
会って今日の事話すから。
その時は冴ちゃんの事も聞かせてね』
「ん、わかった」
『それじゃあ、また後で『ライス』送るからよろしくね』
「ん、また『ライス』で」
そう言って、通話を切る。
さて、不安はなくなった。
私の想定とは外れた形で。
ただ、悪い事はなかったようだ。
萌が小鳥遊を名前で呼んだ。
萌が生徒会長を名前で呼んだ。
その事からみんな仲良くなった事は確か。
萌や生徒会長の案じゃない。
小鳥遊だとも思わない。
なら、あの場にいたのは小鳥遊妹。
あの可愛いらしい少女があの場をひっくり返したのか?
私の視線から目を背けたあの子が?
これは明日、萌に確認しないといけない。
それと同時に私も自分の事を萌に伝えよう。
私の話は重い。
だから、萌には伝えなかった。
萌から引かれたり嫌われたくなかった。
けど、あんな事をした私を萌は態度で許していた。
なら、萌をもっと信用しよう。
私が私の事を少しでも好きになれるよう。
これから頑張ろう。
副題 <裏魔王は迷える子羊でした>




