17話〜朝から妹と従姉が修羅場です③〜
「優さん、ありがとうございました」
「にいちゃんまたなー!」
「明日はもっと遊んでなー!」
「おう、気をつけて帰れよ。
それと、帰り道でお菓子食べるなよー」
俺は虹色7人姉妹とギンとゲンを最後に見送った。
後片付けは大人達がしてくれてたようなので、後は帰るだけである。
そのはずなんだけど、
「えっと、香恋ちゃんと麗姉は何してんの?」
気づけば2人はずっと口喧嘩していた。
「だって、お兄ちゃん、お姉ちゃんが酷いんだよっ!
お姉ちゃんが撮ってたお兄ちゃんの写真をちょうだいって言ってもくれないんだよ!」
香恋ちゃんは頬っぺたを膨らまさせて『わたし怒ってますから』とアピールする。
うん、怒った表情も可愛いね。
「何で、私が香恋に優の写真を渡さないといけないのかしら?」
とは、麗姉の言い分である。
うん、口喧嘩と言うよりは香恋ちゃんの我儘を麗姉があしらってる感じかな?
「えーと、そんな事?」
「そんな事じゃないよ、お兄ちゃん!
大事な事だもん!」
「まあまあ、香恋ちゃんは少し落ち着こうか」
「そうよ、香恋。
貴女には落ち着きと誰におねだりしているか自覚した方がいいわね」
「うわーん、お兄ちゃん、お姉ちゃんがいぢめる!」
「おー、よしよし」
香恋ちゃんが俺に抱きついてくるので、頭を撫でてあやしてやる。
それにしても、香恋ちゃんは怖いもの知らずなのかな?
麗姉に物をおねだりするなんて普通は出来ない。
口調もすっかり麗姉に対して砕けているし。
人見知りな気もしてたけど、その分気を許した相手への反動が大きいのかな?
「優、ふざけた茶番は止めなさい。
張り倒すわよ?」
麗姉が腕を前で組んでイライラしていた。
「あっ、はい」
俺は麗姉を刺激しないように香恋ちゃんの頭を撫でるのを止める。
香恋ちゃんは不満気な顔をするが、勘弁して欲しい。
お兄ちゃんだって、怖いものはあるんです。
「てか、何で麗姉は俺の写真を撮ってたの?」
これは素朴な疑問である。
「あら、私が何を撮ろうが私の勝手じゃないかしら?」
「それはそうだろうけど、撮られた身としては理由を聞いていいと思うんだ」
「ふん、優のくせに生意気ね」
「いやいや、麗姉はどこのジ○イアンだよ」
まあ、これ以上麗姉に聞いても時間の無駄だから、聞くのは止めておこう。
「ねぇ、お兄ちゃん。
お姉ちゃんはもうほっといて早く帰ろ?
時間がなくなっちゃうよ」
香恋ちゃんがそう言って、そっと俺の手を引く。
いや、麗姉と揉めてたのは香恋ちゃんなんだけど……
俺はそう思うものの、藪蛇になりかねないので、何も言わない。
さっさと帰って休みたい気持ちが大きかったのもある。
「あら、優。
時間がなくなるって今日はどこかに出かけるのかしら?」
そこに待ったをかけるのは麗姉だ。
「えっ、と。
とりあえず、麗姉。
掴んだその手を離して欲しいんだけど?」
「あら、香恋は良くて私は駄目なのかしら?」
「いや、駄目じゃないけど」
プレッシャーが半端ないんだよっ!
「なら、いいじゃない。
で、優は香恋と、どこに、何時に、何しに行くのかしら?」
「えっと、池袋に朝飯食ったら香恋ちゃんと引越し祝いのプレゼントを買いに行く感じかな」
「あっ、お兄ちゃんのばかっ!」
香恋ちゃんが『何で言っちゃうの!?』って目で訴えてくる。
あっ、普通にこれ言っちゃいけないやつか。
麗姉からの問いに、条件反射で正直に答えてしまったけど、やっちまった感が半端ない。
「ふーん、引越し祝いの買い物ねぇ」
「えっと、麗姉左手が痛いんだけど?」
だから、手を離して欲しい。
「優は香恋と兄妹なのに買い物しにいくのね」
「いやいや、家族で買い物は普通だし、何も悪くないだろ?
てか、麗姉だって、よく荷物持ちとして急に俺を呼び出したりするじゃん……って」
今度は俺の右手を握る圧力が高まる。
「お兄ちゃん、お姉ちゃんとよく買い物行くの?」
「えーと、香恋ちゃん……?」
香恋ちゃんの握力は高くないので、痛くはないけど何故か痛い。
痛むのは手じゃなくて胃か?
「お兄ちゃん、夜、いっぱいお話ししようね?」
「あっ、はい」
香恋ちゃんは可愛いし、言ってる事も可愛いんだけど、
どことなく麗姉の雰囲気が漂ってるのは何故だろう?
朱に交われば赤くなるってやつなのか?
そして、麗姉、
「私も今日は予定空いてるから、香恋のプレゼントを選んであげるわ」
と、爆弾を急にぶち込むのは止めて欲しい。
「お姉ちゃんは来なくてもいいんだよ?」
「あら、私と仲良くしたいって言ったのは香恋じゃなかったかしら?
せっかく仲良くなれる機会だもの。
可愛い妹のプレゼントぐらい私だって選ぶわよ」
「むぅー」
と、香恋ちゃんが頬っぺたを膨らませるが、
俺がゲロっちゃったばかりに麗姉が同行してくるのは確定だろう。
夏休みの朝。
神社でのラジオ体操。
子供達との戯れ。
両手に花。
言葉にするとほのぼのとした雰囲気だが、
何でこんなに胃が痛むのだろう?
答えは朧げに分かってはいるが、
俺はその答えが何なのかハッキリとは分からなかった。
副題 <それは修羅場だ鈍感王。胃薬の貯蔵は十分か?>
溢れ話という名のオマケ①
その頃の父さん
父「いやぁ、倉庫で明日以降のお土産を準備しながら眺めてたけど、本当優はモテるな」
オマケ①副題 <神社に木霊するラジオ体操、楽しむ子供達、いなくなった後に勃発した妹と従姉による修羅場、父親はずっと見ていた>
溢れ話という名のオマケ②
その頃のとある2人の通話内容
冴「今日は勝負服を買いに行く」
萌「勝負服って……」
冴「ん、萌の武器を生かすには欠かせない」
萌「う、うん、そうだよねっ!」
冴「小鳥遊を落とすのに1番いいのを選ぶ」
萌「うん、頑張るよ! 場所は池袋とかが近いかな?」
冴「ん、池袋でいい」
萌「それじゃあ、また後で」
冴「ん、また後で」
オマケ副題② <修羅場は加速する>




