16話〜朝から妹と従姉が修羅場です②〜
俺が香恋ちゃんの手を引いて東護稲荷神社に着いた時には人がもう大分集まっていた。
時計を確認すれば6:25を少し回ったところ。
なんとか5分前に着けた事にホッとすると、
「優、遅いわよ」
俺達に気づいた麗姉が近寄ってきていた。
「お手伝いだからって弛んでるんじゃないかしら?
叔父様は6時には来てもう準備されてたそうよ?
というより、私より後に来るなんてどういう了見なのかしら?
香恋と手を繋いで来る暇があるなら、香恋をおいてさっさと来なさい」
そして、始まるマシンガントークのような説教。
弛んでる事については否定出来ない。
父さんの件については何とも言えない。
今日の夏のラジオ体操会は町内会主催である。
夏休みになり小学生の生活がリズムが崩れないようにと昔から行われている。
で、父さんは一応町内会長を務めている。
そこは伯父さんじゃないの? て、思う人がいるかもしれないが、総代長と町内会長が同時にいないといけない集会もあるらしく、物理的に分けているらしいが、
『総代長に町内会長まで兼任したら、忙しくて俺死んじゃうよ』
と、以前伯父さんが言っていたので、それが本音だろう。
でだ、父さんは責任者であり、当然早い。
俺も最初は父さんと一緒に行こうとしたが、香恋ちゃんも参加したいと言い出したので、
『優は香恋ちゃんとゆっくり来い。
準備はこっちでやっとくから』
と、父さんがそう言ってくれていたので、麗姉から怒られる謂れはない。
ついでに言うと、麗姉より遅い事については知らんし、香恋ちゃんを置いてくるなんて俺には出来ん。
ただ、それを正直に言えば火に油を注ぐだけなので言ってはいけない。
「うん、ごめん。次から気をつける」
余計なことは言わない。
そして、気をつけるとは言ったけど、やらないとは言っていない。
うん。
麗姉からのお説教を適度に切り抜け、境内を見回すと30人ぐらいの小学生がまばらに散らばっている。
それ以外にも中学生や幼稚園児がいる。
よく子供神輿に参加してくれてる子達がほとんどで、みんなの顔に見覚えがあり、特徴のある子達は名前も覚えてる。
それと、社務所の前に大人が数人固まっていた。
「おはようございます。
父さん、今日のお土産はそれ?」
俺は大人達に挨拶し、父さんに確認する。
「おう、おはよう。
1人1袋ずつ用意しといたから、後で頼むわ。
それと、音源も準備出来たから子供達を円にしてくれ」
「別に俺じゃなくてもよくない?」
「優が言うのが子供達も一番素直に聞くだろう」
「そりゃあ、そうかもしれないけどさ」
いつも子供神輿に来てる連中だから、扱い方は心得ている。
けど、単純に面倒くさがってるようにしか思えないのは気のせいではないはず。
まあ、いいや。
俺は手をパンパン叩いて、
「はーい、みんな輪を作れー
んで、両手を広げて隣の子とぶつからないようになー
てか、ギンとゲンは鬼ごっこ止めぃ!
いい子にしないとお土産ないからなー!
それと、紫織ちゃんは妹ちゃん達の面倒よろしく!」
俺はみんなに声をかけ、問題児や虹色7人姉妹の長女(中学生)に指示を出し手際良く円にさせる。
俺は円の中心に立ち、問題がないかを確認してから父さんに親指と人差し指でOKマークを作り、音楽が流れ始める。
なお、ラジオ体操と言っても、ラジオではなくCD音源を使ってる。
6:30ピッタリに子供達の準備が出来ない事が多かったので、数年前に購入したらしい。
まあ、町内会の夏のラジオ体操会なんてそんなもんだろう。
前奏が終わり、体操の部分に移る。
俺は音源に合わせて真ん中で見本を見せる。
子供達には笑顔で楽しそうにやるのがポイントだ。
そうしたら子供達は真似してみんなやってくれる。
注意してもいいのだが言われた方はつまらないし、
ここに来て体を動かすだけで目的は達成してるので細かいことは言わない。
因みに、香恋ちゃんは円の外で不器用に俺の真似をして、体を動かしている。
うん、初々しくていいね。
麗姉も見習って欲しい。
麗姉はと言うと、大人達に混ざって遠目に見守っていた。
てか、スマホで写真を撮るんじゃない!
さて、何だかんだで体操が終わった。
大変なのはこれからだ。
麗姉が子供達が持ってきたスタンプカードにスタンプを押して、もらった子から俺が菓子を渡し始める。
てか、麗姉、面倒くさそうに片手でスタンプを押すんじゃない。
藍ちゃんが泣きそうになってんだろうが。
「今日は来てくれてありがとねっ!
また明日も来てねっ!
いっぱい貯まったら豪華景品があるからね!」
と、頭を撫でてあやしてあげる。
うん、疲れる。
「香恋ちゃん、ごめん、麗姉と代わって」
なので、開始早々、選手交代のお知らせを告げる。
「う、うん!」
香恋ちゃんは麗姉からスタンプを受け取る。
そして、子供達の目線に合わせて、
「よく出来ました♪」
と、微笑んでスタンプを押してあげる。
子供達も、
「お姉ちゃん、ありがとー!」
と、笑顔で俺の元に来る。
うんうん、これこれ。
最初からこうしておけば良かった。
ほっこりするわ。
だから、麗姉、俺をつまらなさそうに見るんじゃない。
麗姉が悪いんでしょうが。
てか、
「えーい、ギンとゲンは背中に引っ付くな!
やり辛いだろうが!」
と、背中にまとわりつくギンとゲンに怒る。
「えー、別にいいじゃん!」
と、ギンが、
「そうだ、そうだ!
てか、藍だって膝の上にいるじゃん!」
と、ゲンが虹色7人姉妹の下から2番目の子(6歳)の名前を呼んで不満を告げる。
藍ちゃんはお菓子を片手に俺の膝の上でじゃれている。
遠くからは紫織ちゃんがハラハラと見守っていた。
「藍ちゃんは別にいいんだよっ!」
「おーぼーだー!」
「男女差別だー!」
「うっせー!
後で遊んでやるから大人しくしてろ!」
と、やり取りをしつつ、全員にお土産を渡し終える。
すると、すぐに、
「兄ちゃん、ジャイアントスイング!」
「おれ、飛行機っ!」
「お兄ちゃん、かたぐるまー」
「じゃあ、俺高い高い!」
「ブランコブランコがいいー」
と、俺に群がり始める。
「はい、一斉に言わないのー!
ちっちゃい子から1列に並んでっ!
ギンとゲンは最後な!」
俺はそうして怒涛の様に子供達と遊んであげ、
終わった頃には7時を軽く回っていた。
その間ずっと香恋ちゃんと麗姉は口喧嘩をしていた。
副題 <優って子供好き過ぎじゃね?>




