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可愛い妹が出来たので愛でます  作者: Precious Heart
第3章ー池袋ラプソディー
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秘話〜佐藤萌のプレリュード〜

 



「はあー」


 1学期の終業式の日。


 私――佐藤萌は学校の屋上でため息をつく。


「また、失敗しちゃった……」


 失敗と言うのは、告白の呼び出しに失敗したと言う事である。


 お相手は小鳥遊優くん。


 いつも小鳥遊くんって呼んでいる。


 小鳥遊くんは高校で初めて知り合ったクラスメート。


 だから、私には幼馴染とか家が近所とか深い背景がない。


 むしろ、好きになった理由にすら深い理由はない。


 クラスが偶々一緒だったとか、


 学級委員の仕事を手伝ってくれたとか、


 体育の授業で活躍する小鳥遊くんがかっこよかったとか、


 そう言うのが塵に積もっていつの間にか好きになり、大好きになっていた。


『好きになるのに理由は要らない』


 とは、私の親友の佐藤(さえ)ちゃんの言葉。


 ちなみに、同じ佐藤でも彼女とは類縁という訳ではない。


 単純に佐藤という名前が今年の1年生には何故か多かっただけの事。


 だから、クラスで私の事は委員長か萌と呼ばれ、


 冴ちゃんの事は佐藤や冴、不思議ちゃん、参謀、委員長の頭脳と呼ばれている。


 うん、納得できない。


 いや、まあ、確かに冴ちゃんの方が頭いいのは確かだけど……


「ん、やっぱりここにいた」


「冴ちゃん……」


 噂をすればなんとやら。


 屋上に冴ちゃんが来てくれた。


「萌、また今度って明日から夏休み」


「うっ」


 冴ちゃんが痛い所を突いてくる。


「少しだけでも時間もらえたんだから、連絡先だけでも聞いとくべきだった」


「うう〜」


 冴ちゃんが私を甘やかしてくれない。


 そう、私は小鳥遊くんの連絡先を知らない。


 連絡先を聞けそうな時に限って、スマホを家に忘れてたり、充電が切れたり、フリーズしてしまうのだ。


 ふう、と冴ちゃんが軽いため息をつく。


「それにしてもクラスにまだユダがいたなんて誤算だった」


「ユダって?」


「萌は気にしなくていい。

 萌の告白の邪魔をするものは私が排除する」


「よく分からないけど、いつもありがとう」


「ん、私が好きでしてる事だから感謝しなくていい」


 冴ちゃんはこうしてよく意味のわからない発言をする。

 その上、普段から眠たげにしていて、表情が分かりづらい。


 故に、不思議ちゃん。


「ねえ、冴ちゃん」


「ん、何?」


「やっぱり小鳥遊くんは生徒会長と付き合ってるのかな?」


 馬鹿な私でもいい加減生徒会長から邪魔されてるのはわかってる。


 いや、まあ、告白する日に限って風邪引いて早退したり、

 間違ってラブレターを小鳥遊くんとは別の下駄箱に入れちゃったり、

 その他諸々盛大にやらかしたけど、

 生徒会長からの横槍があるのは確かなのだ。


 まるで私の優に手を出すなんてどういうつもり? と言わんばかりに。


 私の弱気な問いに、


「それはない」


 と、冴ちゃんがキッパリと断言した。


 その物言いに私は目をパチクリさせる。


「何で、そう言い切れるの?」


「小鳥遊と生徒会長が仲良くしているのを見た事がない。

 萌はある?」


「そういえば、ないかも」


「ん」


「でも、私が偶々見てないだけかもしれないし、人目を忍んでいるだけかもしれないし」


「それもない。

 人目を忍ぶ人は校内アナウンスを使わない。

 そもそも忍ぶ必要がない」


「へっ?」


「生徒会長に逆らえる人は校内にいない。

 例え校内でキスやセックスをしても誰も注意出来ない」


「せ、セックスって……」


 あまりに直情的な表現に私の顔が熱くなる。


「ん、萌は純情。

 やっぱり可愛い」


 と、相変わらず眠そうな顔で冴ちゃんが私を褒める。


「ん、話をまとめる。

 忍ぶ必要がないのに仲の良い姿を見ない。

 アナウンスなんて使ったりして邪魔をする。

 付き合ってるなら『付き合ってるんだから手を出さないで』と言えばいい。


 結論、生徒会長は小鳥遊と付き合ってない。


 生徒会長は独占欲が強い。

 けど、恋人になろうとする度胸がない。

 ただの卑怯者」


「生徒会長を卑怯者って、冴ちゃんは生徒会長が嫌いなの?」


「ん、嫌い、大っ嫌い。

 見てると虫酸が走る。

 恋人でもないくせに、萌の恋の邪魔をしないで欲しい」


 さ、冴ちゃんが怖い。

 生徒会長なんて目じゃないかも。


「生徒会長は無視していい。

 これが正解。

 萌のやる事はただ一つ。

 小鳥遊と恋人になればいい」


「そ、それが一番難しいんだけど……」


「ん、小鳥遊と恋人になるのなんて簡単。

 キスして、おっぱい揉ませて、告白すればいい」


「キスって、揉ませるって、なんで告白が最後なの?」


 私の頭がぐるぐる回る。


「小鳥遊は鈍感。

 なら、疑いようのないアプローチをかける。

 恋愛に慣れてない小鳥遊は断る事は出来ない」


「でも、私には、ム、ムリ!!」


 私は全力で否定する。


 だって、それは、あまりにも恥ずかし過ぎる。


「むー」


 冴ちゃんは唸り声をあげると、


「えい」


「きゃっ!」


 私の胸を鷲掴みにした。

 思わず、悲鳴が漏れる。


「もみもみ」


「ちょっ、やめ」


「ふにふに」


「やっ、あっ」


「ちょんちょん」


「あ、あっ、あん♡」


「ちゅー」


「やっ、止めてってば!」


 私は冴ちゃんを思いっきり突き飛ばす。


 急に意味がわからない!


「はぁ、はぁ」


 私が荒い息をついてると、冴ちゃんは自分の手をにぎにぎし、


「ん、気持ちよかった」


 と、呟く。


「私は良くないよっ!」


 本当、冴ちゃんの事がよくわからない!


「萌のおっぱいは凶器。

 小鳥遊もそれでイチコロ」


「なんでよっ!」


「巨乳が嫌いな男はいない」


「そうかもしれないけどっ!」


 普段、異性からは顔より胸を見られる事が多いので否定出来ない!


「でしょ?」


「でも、萌が揉む必要ないよね!?」


「ん、今のは対価」


「一体何の!?」


 荒れ狂う私に、冴ちゃんは自分のスマホを取り出す。


「立花、大黒と『ライス』を交換した」


「えっ?」


「2人から協力の約束も得た」


「えっ、何で?」


「これで夏休みの小鳥遊の予定もわかる」


「えーと?」


「2人が小鳥遊と遊ぶ約束をして、当日ドタキャン。

 代わりに萌が小鳥遊とデートする段取りも整えた」


「冴様!」


 私は冴ちゃんに抱きついた。

 やっぱり持つべき物は頼れる親友だよね!


「うむ、苦しゅうない」


 冴ちゃんは私の胸に顔を埋め満足そうな声を出す。


「ん、後は萌がデート中に胸を揉ませれば万事解決」


「だから、それはしないからねっ!?」


「本当にしないの?」


「勿論だよっ!?」


「小鳥遊を誰かに取られてもいいの?」


「えっ……」


 思わず頭の中が空っぽになる。


「小鳥遊に好きな人が出来たら?

 小鳥遊に他の女が熱烈なアプローチをかけたら?

 ないと思うけど生徒会長が本気で小鳥遊にアプローチをかけ始めたら?

 小鳥遊に恋人が出来たら?

 萌はそれでいいの?」


 それはもしもの話。

 だけど、可能性はゼロじゃない。


「よくない……」


「ん」


「そんなの嫌」


「ん、ならやる事は?」


 冴ちゃんのその問いに私は覚悟を決める。






「わかったわ、冴ちゃん。

 私はこの夏に小鳥遊くんを押し倒してでも彼女になってみせるわ!」






「ん、その粋」


 冴ちゃんはやっぱりどこか眠そうで、


 それでも私を応援してくれた。





 この夏、私は女になります!





 副題 <残念委員長と読者の代弁者が本気を出すそうです>





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