13話〜妹と従姉のファーストコンタクト①〜
「それではまず、小鳥遊香澄さんより皆様に一言ご挨拶致します!」
開会の宣言後、信義伯父さんが司会として会を進行させる。
名前を呼ばれた香澄さんはその場にスッと立ち上がり、軽く一礼する。
「只今、小鳥遊家宗主であります小鳥遊信義様よりご紹介預かりました小鳥遊香澄と申します。
皆様、本日は私共のためにこのような盛大な場を設けて頂きまして、心より御礼申し上げます。
この地に移り住むことになり、まだ右も左もわからぬ新参者ではございますが、皆様とは良き縁を結びさせて頂きたく存じ上げます。
今後、温かいご指導ご鞭撻、ご支援ご協力のほど宜しくお願い申し上げます。
結びに、皆様のより益々のご健康とご多幸を祈願致しまして、甚だ簡単ではございますが、私、小鳥遊香澄のご挨拶と代えさせていただきます。
皆様、よろしくお願い致します」
香澄さんが一礼し、会場中から拍手が響き渡る。
「しっかりしたお嫁さんや」、「仁くんもいい相手を見つけたのぅ」と会場中から聴こえてくる。
そういう俺も、堂の入った香澄さんの挨拶にかなりビックリしていた。
父さんを見ると、ホッとしたように満足していたので、2人で相当練習していたのだろう。
香恋ちゃんはと言うと「えっ、えっ……」と目をパチクリさせながら混乱していた。
あっ、これ全く考えてなかったやつだ。
俺がどうしようかと考えていると、
「続きまして、小鳥遊香恋ちゃんより一言ご挨拶致します!」
と、どうする間もなく、信義伯父さんが香恋ちゃんの名前を呼んでしまう。
名前を呼ばれた香恋ちゃんは「は、はひっ!」と返事をしてビクッと立ち上がる。
「あっ、えっ、あっ……」
だが、会場中からの視線を感じて頭が真っ白になっちゃった香恋ちゃんがオロオロしてしまう。
会場から「頑張れー」と言った声が上がり始める。
俺は小声で「香恋ちゃん、名前とお願いしますだけでいいから!」と促す。
「あっ、か、香恋でしゅ……
ひょ、よろしく、おへがいしましゅ……」
顔を真っ赤にして、嚙み嚙みな上にかなりボソボソとした挨拶になってしまったが、会場から温かい拍手が巻き起こる。
「めんこいのぅ」、「可愛いらしい子じゃ」、「孫に欲しい……」、「孫の嫁に欲しい」と言った話も漏れ始める。
俺はなんとか場を繋げた事にホッとする。
それにしても、孫の嫁に欲しいと言ったやつ。
香恋ちゃんは嫁にはあげないからな?
俺は顔を真っ赤にして座った香恋ちゃんに「よく出来ました」と言い、長机の下で香恋ちゃんの手を握ってあげる。
香恋ちゃんはキュッと握り返してくれ「えへへ」と顔を綻ばせる。
うん、香恋ちゃんはそうしている方が良い。
しばらく、数人の氏子が他の氏子達を代表してお祝いの言葉を送ると、
「それでは、皆様短い時間ですが、ご歓談をお楽しみください」
と、全員で乾杯をした後、信義伯父さんがそう言ってから、一気に酒宴が始まる。
父さんと香澄さんはすぐさま伯父さん達のもとに挨拶に伺い、俺と香恋ちゃんは目の前に出された料理に手をつける。
そうして、父さん達が他の氏子達のもとに伺ったのを見てから、俺と香恋ちゃんも伯父さん達のもとに挨拶に行く。
俺は数本の瓶ビールを手に持ち、伯父さんの席の前に座る。
遅れて香恋ちゃんも俺の隣に座った。
香恋ちゃんは緊張で立ってから座るまでずっと俺の裾を握りしめていたので、俺が香恋ちゃんの代わりにビールを注ぐ事にする。
「伯父さん、今日はありがとうございます」
「いやいや、大した事してないよ。
あっ、香恋ちゃんは麦茶とオレンジどっちがいいかい?」
「えっ、と、じゃあオレンジでお願いします」
「オレンジね、了解、了解」
伯父さんはそういうと、テーブルに置いてあったオレンジを俺と香恋ちゃんに注いでくれてから、
「それじゃあ、改めて乾杯」
と、コツンと乾杯してくれた。
今の流れでわかったかと思うけど、伯父さんは特に宗家とか分家とか、堅苦しい付き合いは好んではいない。
むしろ、堅苦しい言葉遣いをすると注意するぐらいだ。
麗姉を思うと意外に感じるかもしれないが、どちらかと言うと麗姉が特殊なのである。
「いやぁ、そう言えば優くん、昨日麗華が変なこと言ったんだって?」
「ああ、はい」
俺はちらりと麗姉を見ると、麗姉は不機嫌そうに唇を尖らせている。
「全く麗華も旅行に行きたいなら、素直に合宿なんて言わずに素直に誘えばいいのに、全く誰に似たんだが」
「お父様?」
ため息をつく伯父さんに、麗姉がキッと睨む。
「おっと、怖い、怖い」
おちゃらけた様子で誤魔化す伯父さんに俺と香恋ちゃんが首を傾げる。
「えっ、と、伯父さん?」
話の流れがわからず俺は伯父さんに説明を求める。
「いや、単純に今年は家族旅行で海に行こうって言う話だ。
麗華の合宿云々は昨日、麗華によく言い聞かせたから、優くんも安心してくれていい。
香恋ちゃんも優くんと海に遊びに行きたいだろう?」
伯父さんがウインクして香恋ちゃんに訊ねる。
「えっ、と、信義様がご迷惑でなければお兄ちゃんと旅行してみたいです」
香恋ちゃんはおずおずとそう嬉しい事を言ってくれる。
「あはは、固い、固い。
もっと楽に行こうよ。
せっかく親戚になったんだから、俺の事は気軽におじさん、妻の事はおばさん、麗華の事はお姉ちゃんと気軽に呼べばいい」
「貴方?」
「お父様?」
そこで黙っていた美華伯母さんと麗姉が口を挟む。
「貴女が香恋ちゃんね。
私の事はおばさんではなく、美華姉と呼びなさい」
「ちょっと、お母様まで?」
と、伯母さんがキリッと言うと、麗姉がまた呆れる。
「えっ、と、美華姉さん?」
恐る恐る香恋ちゃんがそう名前を呼ぶと、
「ああ、いいわ。こんな子が欲しかったわ」
と、伯母さんはうっとりとする。
頭が痛くなったのか、麗姉はこめかみをそっと抑える。
「えっと、伯父さん、香恋ちゃんは今年受験生なんですけど?」
話が進まないので、伯父さんにそう心配事を告げると、
「あはは、優くんも本当固いなぁ。
受験生だって、息抜きは大切だよ?
それにメリハリをつける事で良くなる事もある」
「それは確かにそうだけど」
「それにそんな顔をした香恋ちゃんを優くんはどう思うんだい?」
「へっ?」
伯父さんの言葉に俺は香恋ちゃんを見ると『お兄ちゃんはわたしと旅行に行きたくないの?』とうるうるした目が、そう力強く物語っていた。
「いやぁ、冗談ですよ!
旅行メッチャ楽しみだなぁ!」
俺、呆気なく陥落。
「はあぁぁ……」
そんな今までのやり取りを見ていた麗姉が深いため息をつく。
「せっかく気持ちを高めていたのに、お父様のせいで台無しだわ。
優、ここは一旦いいから、他の皆様への挨拶をさっさと済まして来なさい。
その後、ここに戻って来て3人で話しましょう。
お父様もそれで良いですわね?」
麗姉は『これ以上余計な事するな』と伯父さんをキッと睨んでそう告げる。
「ああ、子供達の時間も大事だろうから、そうするといい。
さて、俺も他の皆様に挨拶しに行くか」
伯父さんはそう言ってさっさと席を立つ。
娘に嫌われたくない伯父さんが弱すぎる……
「ほら、優もボサッとしてないで、さっさと行きなさい」
「あ、あぁ、そうするよ」
副音声の『後で覚えておきなさい』との麗姉の言葉に頷き、俺は香恋ちゃんを連れて皆さんの挨拶周りに行くことにした。
この後の麗姉の反動がマジで怖いんだけど、と心に思っていたのは香恋ちゃんにはバレたくない秘密である。
副題 <シリアスブレーカー信義>




