8話〜引越準備と友達と委員長と呼び出し〜
色々と濃密だった土日明けの週。
俺は可愛い妹を中々愛でる事が出来なかった。
今週の土曜日の引越に向け色々準備が忙しかったからだ。
まず、家の簡易的なリフォームが行われた。
門に防犯カメラがつき、インターホンもカメラ付きとなった。
次に玄関のドア鍵の新調を始め、今まで鍵がなかった部屋のドアに鍵がつけられた。
そして、1番大がかりだったのが香恋ちゃんの部屋だ。
部屋の壁やドア、窓ガラスまでもがフルオーダーメイドの防音室になった。
親父曰く「いつでもトランペットを吹けるように引越祝いのプレゼントだ」との事。
普通、引越祝いに防音室はプレゼントしないと思う。
本当父さんの行動力については頭がさがる。
因みに、俺は引越し祝いのプレゼントについて、全く考えていなかった。
そもそも、俺の意見は聞かず事後承諾みたいな形で土日に知らされたばかりなので、すぐに用意出来る訳もない。
香恋ちゃんの好きな物、欲しい物もまだまだ見当がつかなかったので、俺は素直に香恋ちゃんに何か欲しい物がないか『ライス』で聞いてみた。
その結果、日曜日に2人で買い物に出かけることになった。
せっかくだから俺と一緒に買う物を決めたいとの香恋ちゃんの意向だった。
うん、可愛い。
それに兄妹で買い物は俺がしてみたかった事でもあるので、正にウィンウィン。
ちなみに、誤送信だったみたいけど、
『欲しい物ある?』
『お兄ちゃん』
とノータイムで返信が来た時にはビックリした事を付け加えておく。
さて、引越し準備の話に戻そう。
簡易的なリフォームが終わった後、ベッドや本棚等の家具が運び込まれ、エアコンも新しく設置された。
今ある家具は部屋のサイズや雰囲気に合わないとの事でほとんど処分するとの事だった。
後は土曜日に荷物を詰めた段ボールを、斉藤さんがトラックで持ってくるだけで引越しは終了となる。
なお、この引越し準備について、午前中は学校があり、父さんも仕事なので、美華伯母さんが立会い、
午後は半日授業で帰宅した俺が立ち会っていた事を捕捉しておく。
そして、引越し準備を終えて迎えた金曜日の今日。
今日は俺と香恋ちゃんの1学期の終業式だ。
父さん、香澄さん、香恋ちゃんは午後役所で正式な手続きを行い、土曜日のお宮参りの服装を受け取りに行くらしい。
これで法律的にも地域的にも香澄さんが新しい母さんとなり、香恋ちゃんが俺の妹になる。
うむ、何だか感慨深い。
因みに俺の午後の予定だが一旦帰宅した後、クラスでも特に仲が良い立花 春樹と大黒 龍弥の3人で複合アミューズメント施設の『ファイナルラウンド』に遊びに行く予定である。
今はもう終業式と1学期最後のHRが丁度終わったところだ。
「優っち、成績票はどうだったー?」
HRが終了すると同時に春樹が俺の席にやって来る。
俺は「ほい」と面倒なのでもらったばかりの成績票を春樹に手渡す。
「おーっ! オール5! じゃない音楽が2だ!」
と、春樹が俺の成績を口に出し、
「小鳥遊は音痴だからな……」
と、後からやって来た龍弥が眼鏡をクイッとさせる。
「うっせー。音楽については諦めてるわ。
てか、春樹、他人の成績を口に出すんじゃねぇよ」
俺は春樹を睨んで文句を言う。
だが、春樹は頭をかきながら、
「あっはは、悪い、悪い!」
と、笑顔で謝ってくる。
(こいつ、反省してないな……)
春樹はこういうやつなので俺はすでに諦めた。
なので、追撃するのは龍弥の仕事である。
「立花、言っておくが、そういうデリカシーがない所だぞ。
妹君から嫌われているのは」
「うわー! それは言っちゃダメなやつ!
てか、俺は嫌われてない!
ウザがられているだけだー!」
と、春樹は頭を抱えて騒ぎ出す。
龍弥の言った通り、春樹には1個下の実妹がいるらしい。
らしい、というのは実際に会った事がないからだ。
妹が最近構ってくれないと嘆くのをいつも聞かされているだけだ。
なので、もしかしたら春樹の頭の中に存在するエア妹の可能性すらある。
……それは流石にないな。
それにしても、いつもなら『うるせぇ、シスコン野郎が。爆ぜろ』と思うところだが、今は俺にも妹が出来た身。
人のふり見て我がふり直せとも言うから、こうならないようにしようと心に留めておく。
なお、香恋ちゃんの事はこいつらには言っていない。
春樹が面倒になるのが目に見えているからだ。
「ところで、お前らの成績はどうだったんだ」
付き合いきれんと、俺は話題を戻す。
頭を抱えていた春樹は「ふふふ」と素早く切り替え、
「聞いて驚け!
見て驚け!
なんとオール3だ!」
と、成績票をバンッ! という効果音とともに見せつけてくる。
「俺はオール4だ」
と、静かに告げるのは龍弥である。
「何だよー、もう!
優っちがオール5だったら、3、4、5と並んでメッチャ綺麗だったのにー!」
「悪かったな!
てか、オール5よりオール3とかオール4とかの方が難しくないか!?
てか、狙ってんのかよ!」
と、俺は春樹の言葉にキレる。
そうして3人で馬鹿やってると、
「あのっ、小鳥遊くん!」
と、声をかけられた。
声をする方を見ると巨乳眼鏡おさげのみんなの委員長こと佐藤 萌が立っていた。
クラスのあちこちから「おぉ、委員長が行ったぞ!」、「萌ー、頑張っー!」と言った声が聞こえてくる。
「あれ、委員長。どうしたの?」
「えっと、この後時間ある?」
委員長の問いに、俺は春樹と龍弥と目を合わせる。
「午後2時からこいつらとファイナルラウンドで遊ぶ予定だけど、それまでなら大丈夫かな」
俺がそう答えると、委員長は両手を胸に押し当て、
「それなら、この後、私と――」
ピンポンパンポーンっ!
『1年A組、小鳥遊優君。1年A組、小鳥遊優君。
至急、生徒会室にお越し下さい。
繰り返します。
1年A組、小鳥遊優君。1年A組、小鳥遊優君。
至急、生徒会室にお越し下さい』
ピンポンパンポン。
委員長の発言を遮る様に呼び出しのアナウンスが流れた。
「――――」
「――――」
俺と委員長がおし黙る。
俺と委員長だけではなくクラス中がシーンと沈黙する。
かなり気まずい。
「えっ、と、悪い。
少しだけなら話し聞くけど、どうしたの?」
「ううん、もう大丈夫。
また今度ね」
と、委員長がうな垂れた頭を横に振る。
「お、おう、また今度な?」
俺がそう応えると、委員長は肩を落として教室から出て行った。
クラスのあちこちからは「またかよ……」、「委員長可哀想……」、「不憫なり」、「萌……また今度って明日から夏休みだよ?」と言った声が流れる。
俺か?
俺が悪いのか?
教室に居づらくなった俺は、
「じゃあ、また、午後2時ファイナルラウンド前集合で」
と、春樹と龍弥に声をかけた。
「あ、ああ、優っち、また後で」
「うむ、健闘を祈る」
春樹と龍弥からそんな励ましの言葉をもらい、
俺は教室から逃げるようにして出て行った。
副題 <不憫枠な委員長>




