エメラルド色の髪の少女5
魔導学生徒会の活動には、危険が潜んでいることもある。
商店街で迷子になった子を探して欲しいと言われれば、リスクもなくこなすことができるだろう。
だが、極悪非道な魔導犯罪に巻き込まれてしまうケースも可能性としてはゼロではない。
実際、今回起こった極悪な魔導犯罪に巻き込まれてしまった魔導学生徒会の学生たちはサーシャたちをはじめかなりいたようだ。
そんな中でも、魔導学生徒会メンバーの被害が重軽傷者若干名に留まったのは、こういった事件に巻き込まれる危険性を考慮してか「魔導学生徒会」にはペア制度というものがあるからだろう。
この制度は、活動中に単独行動を取らないように、決められたペアで共に街のパトロールなどを行うといったものだ。
今回も、このペア制度のおかげで、全員が単独行動をすることなく対処に当たることができたのが被害の少なさにつながったといえる。
しかし、ここでサーシャにはある問題が生じてくる。
というのも、サーシャのペアは当然リンだったわけだが、あの怪我ではしばらくは絶対安静というのは聞くまでもない。
つまり、サーシャも魔導学生徒会の活動には参加できないということを意味していた。
(まあ、それはそれで、自分の研究に没頭できるから一向に構わなかったんだが・・・)
だが、魔導学生徒会がそんな休みをくれるはずもなく、本部側からの提案で一時的にペアを交代するということになった。
どうやら、他のにも怪我で一人活動できないといったペアができてしまったらしい。
そんなこんなで、今日も魔術協会支部に呼ばれたサーシャは昨日と同じ部屋で待たされていた。
昨日、リンが破壊した壁はまだ補修させておらず、申し訳程度にビニールシートがかぶせてある。
そして、その部屋で退屈で死にそうになっていたサーシャの前に現れたのは、一人の人・・・ではなく狼のような風貌の獣人だった。
「なるほど、あんたが新しいペアか」
目の前に立つ獣人は、サーシャのよく知る人であった。
「不満か?」
サーシャの言葉に、身長が2メートルに達しようかという大男が低い声で返す。
「いや、そんなことはないさね。ただ・・・」
本当に不満はない。この目の前にいる男の実力は間違いないと、サーシャは断言できる。サーシャと同じ年齢にして管理番号「0056」と上の方まで上り詰めている。
だが、どうしても一つだけ気にかかることがあった。
「・・・?」
「お前、ペアはどうした?」
サーシャの記憶では、この男にはペアがいたはず。
「そうか、アイツがどうなったか知らないのか・・・」
「まさか・・・!?」
「あぁ・・・あいつはいい奴だったよ」
「・・・・」
もうこれ以上は何も聞くまいと思った。
これ以上いってしまえば、彼の心をえぐってしまうだろう。
「勝手に死んだみたいな流れにすんじゃねえええ!!!」
「そう、松葉杖をつきながら遅れてやってきて、なんか気まずい雰囲気の中入れなくなっていたところ、なぜか自分が死んだみたいな会話になって、さらに入りづらくなった彼の心をえぐっ」
「いやいや!?何そのナレーション??それがすでに俺の心をえぐってるからね!?」
「それで、その盛大に骨折したであろう足はどうしたんさね?」
「激しい敵との戦闘で・・・」
「現場に向かう途中に階段から転げ落ちて、足を複雑骨折した。」
彼の言葉を遮って、ウルフマンが簡潔に説明した。
サーシャはそれを聞いて地面を転げ回るほど笑って、彼の心をひとしきりえぐった後。
「じゃあ、しばらくはよろしくさね」
「あぁ」
サーシャの小さな手とウルフマンの獣人特有の大きな手が握手を交わした。