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28、外道の外道による外道のための無意味な作戦

 



「残念ながら私もそんな大技持ってなかったわ」


 引き続き、コケに埋まりながらの会議タイム。

 とりあえず自分たちだけで脱出できないことは判明している。敗因はあれだ、メモリの無駄づかいだ。いや全然無駄じゃないけど。むしろ〈無敵〉を習得したことは誇りのように思ってるけど。


 まあなんにせよ、上への道をこじ開けるのは不可能と、そういうことだろう。

 本当にコケさえ消し飛ばせれば、よじのぼれそうなのだが。

 そうなれば単独での踏破はもちろん、衰弱した魔族の一人や二人やいっぱい持って上ることも、自分やマムやアスモデのステータスならまあ普通に可能だろう。それだけに、天井を塞いでいる分厚いコケの層(こっちに敵意剥き出し)が憎たらしく思えてくる。


「残念だよねぇ、本当ぉ」


「コケさえなければよじ登れるのにね」


 自分一人なら〈無敵〉で突破できるか、とアスモデに言いながら思う。意味ないなと却下した。


緑王苔主(りょくおうたいしゅ)が~、大人しくなってくれればいいんですけどね~」


 ちょっと困った感じの笑顔でマム。全面的に同意だが、期待はできないだろう。


 とりあえず、なんでもいいから進展させないとお話にならない。ここで捕まっているのは何も自分たちばかりではないのだと、小瑠璃はコケに埋まりながら周りを見渡した。

 色々な種類のモンスター……は今は置いておくとして、マムやアスモデの近くには当然、彼女たちの仲間である魔族の生き残りたちが捕まっている。彼らはどうも四天王の二人ほどにはステータスが高くないらしく、コケに生命力を吸われてだいぶ衰弱してしまっていた。

 老若男女が適度に混ざった、総勢五十人ほどの魔族たち。それが個人差はあれど苦しそうな表情で荒い息を吐いているというのは……中々、酷い光景だ。


「そこのお姉さんとか特に酷いな。大丈夫です?」


「えっ、あ、はい。なんとか、大丈夫で……ごふっ!」


「おい何が起こった」


「あーあー、小瑠璃ちゃんが急に声かけるからぁ、魔族病弱な人グランプリ二十二年連続ナンバーワンのサリエルさんがショック吐血しちゃったよぉ」


「悪いの私なんだ」


「衛生兵~、衛生兵~、って、お医者様はそこで倒れてるサリエルちゃんでした~」


「大丈夫? お医者様ってサリエルちゃん割と重要な役どころじゃない?」


 返事はない。気絶してしまったようだ。

 ……まあ、なってしまったものはしかたない。そのお姉さんは誰かに背負ってもらうことにして、小瑠璃はあらためて、コケに捕まっている面々を見回した。


 魔族、魔族、魔族……


 モンスター、モンスター、モンスター……


 魔族、モンスター、魔族…………モンスター。


「あ」


 と、声が出る。


「どうしたのお?」


 と聞いてくるアスモデに、小瑠璃はコケに捕まっているモンスターたちを指で示した。


「ちょっと思ったんだけど、こいつら利用できないかな?」


 指さす先にいるのは、マロククネズミ、ニワトリ(ローランド)竜もどき(ソクシニワトリ)という小瑠璃も知っている面子に加え、マンドリルっぽい猿型モンスター、メガネウラなんて目じゃねーくらいにデカいトンボなど、たくさんのモンスターたち。


 そう、ここにいるのは、自分たちに勝るとも劣らないステータスを持ち、そんじょそこらのボスなど足下にも及ばない、チート級の雑魚(大嘘)モンスターたちなのだ。


「利用、と言いますと~?」


 そのモンスターたちを見つめ、マムはぴょこんと生えたキツネの耳をぴくぴくと動かしながら聞いた。

 その横でアスモデが「ああ」と呟く。


「つまり、モンスターにコケをどかさせるってことだよねぇ?」


 小瑠璃は頷いた。

 アレーナに棲むモンスターは皆、外のモンスターたちと比べて規格外だと聞く。そんな彼らだ。大技の一つや二つや三つや四つ、持っていて当然だろう。

 それを怒らせるなりなんなりしてぶっ放させれば、コケを突破できるのではないか? 小瑠璃が言いたいのは要するにこれだった。


「でも、天井を突破できるほどのスキルを持っているモンスターなら~、とっくに自力で逃げているのでは~?」


「甘いぞマっさん」


 異論は想定済みなのか、小瑠璃は眉一つ動かさず答える。……元々そんな表情なのは置いておこう。


「確かに1体じゃできない可能性もある。だが束ねればいいだけだとは思わんかね?」


 詳しく、と言うほどでもないが説明をはじめる。


 つまるところ、野良モンスターには不可能だろう『協力』という行為。これこそがコケ突破のキモなのだ。

 並みの大技が一つでは、緑王苔主の再生能力には対抗できないかもしれない。このモンスターの〈超再生〉がかなりの高レベルなのは初めてゴーレムに遭遇したときに確認済みで、たとえばヘルハウンドが使っていた〈黒焔〉のように、強い死の魔力を帯びた攻撃以外で再生を止めることは難しい。


 そこで次善の策として必要になってくるのは、根絶やしにはできずとも、一時的に大穴を開けられるだけの威力を持った攻撃ということになる。

 一つ一つの大技で足りないのなら、重ねる。一つで足りないなら二つ。二つで足りないなら三つ、三つで足りないなら四つと、力を重ねていく。

 それをするために必要なものこそ『協力』である。


 そしてそのために最も必要なものが、信頼――

 なんてことはなかった。


「アスっち、さっき私に〈洗脳魔法(マリオネッテ)〉使ったよね。それこいつらに使おう」


 そうすれば、脱出用の大技を使わせるのみならず、上にうじゃうじゃ歩いているだろうゴーレムの弾避けにも使えるだろうと無表情で考えた小瑠璃は他力本願な上に割と真性の外道だった。


 が、どっかのグータラ魔族と違って高レベルのスルースキルを持つ四天王二人は唐突なニックネームにもめげずこの作戦に難色を示す。


「なんだ、バレてたんだあ。……でも、洗脳はボクも少しだけ考えたんだけど、難しいかもよぉ」


「そうですね~、どのモンスターに〈洗脳魔法〉を使うかっていう問題がありますから~」


「と言うと?」


 こてんと首を傾げる小瑠璃に、二人は続けて言う。


「ここのモンスターたち、ボクらよりずっと前からここで養分にされてるみたいだからねえ。魔力だとかもすっかり吸い取られて、そんな大技撃てるヤツの方が少ないと思うよお」


「私たちはベルフェゴールと違って〈鑑定眼〉を持ってませんから、そういう見極めが難しいんです~。アスモデの魔力も無限ではないですから~、手あたり次第魔法を使うわけにもいきませんし~」


 ああ、なるほど。

 それなら問題ないと、小瑠璃は空気を読んで黙らせていたナヴィを懐から引っ張り出した。


「ようはステータスが見れればいいんでしょ?」


 ナヴィに探させればそんなもの一発である。相手の魔力が高すぎてアスモデの魔法が通じないなんて事態も、それで未然に防ぐことができるだろう。


「あら~、〈鑑定眼〉をお持ちなんですか~? あまり見ない希少(レア)スキルなのに、めずらしいですね~」


「こいつがね」


 と、〈加護EX〉を持つが故に度重なる折檻の中でも無傷なナヴィを指す。ホントに〈鑑定眼〉かは知らないが、少なくとも性能は同じである。


「ああ、そいつが~」


 途端に嫌そうな顔するマム。アスモデも似たような表情だった。


 そんなに嫌かと思いつつ、小瑠璃はナヴィの頭をなでながら、「ドンマイドンマイ気にすんな」と励ました。割と真剣に言ったのだが、適当に聞こえてしまってちょっと後悔。

 まあ、げに人の心は複雑怪奇。ナヴィもナヴィの神様も魔族に直接の関わりはないのだが、割り切って生きていくのが難しいときもあるのだろう。かく言う小瑠璃自身、だいぶ非論理的な思考回路をしている自負があるし。


 で、そんな人の心の綾模様など知ったこっちゃないのがナヴィである。


「ボクの出番だね! 任せて!」


 やる気満々な顔でコケに埋もれたモンスターたちに向き直る。

 鑑定スキルを持っているとカミングアウトしたせいか、今度は堂々とお尻に文字を浮かべはじめた。

 それを見たマムとアスモデの表情が、何とも言えないものに変わる。


「…………お尻に……」


「文字が……」


「気持ちはわかるよ」


 二人はなんというか、ナヴィを嫌うのが馬鹿らしくなった表情をしていた。

 目の前の存在が憎しみを向けるに値しない存在だと気づいたのだ、と言うのは大袈裟だろうか。いや、大袈裟ではない(反語)。小瑠璃はもはや無感動にナヴィの尻を眺め、そこに移り変わるモンスターのステータスを確認していった。


 まずは……全長8メートルくらいありそうな、やたらかっこいい名前の化け物トンボのステータス。


 エントマ・ドラグーン

 LV48

 力:832

 耐久:821

 器用:1054

 敏捷:1553

 魔力:1223

 総合闘級:竜級

 称号:なし

 アクティブスキル:〈ドラゴンブレス・炎LV7〉〈ドラゴンブレス・氷LV7〉〈共振探査LV5〉〈高速移動LV2〉〈風鳴りの刃LV1〉

 パッシブスキル:〈蟲の複眼LV5〉〈炎熱耐性LV7〉〈氷結耐性LV7〉〈加速LV6〉〈不協和音の羽音LV3〉


 パッと見たところ、スピード特化のようだ。

 確かマロククネズミもスピード特化のモンスターだったが、こっちは宙に浮くだろう点が厄介。

 立派な羽をお持ちだし、高速で飛び回られながらブレスを吐かれたらちょっとどうしようもない。ていうかクソゲー一直線である。


 まあでも。


「アスっちより魔力低いし、今なら洗脳できそうじゃない?」


「そうだねぇ、じゃあキープで」


「扱いがひどい~」


 次は……ものすごく、マッチョで、そしてマッチョな猿型の魔物。


 ゲェーマンドリル

 LV45

 力:1512

 耐久:1576

 器用:897

 敏捷:935

 魔力:793

 総合闘級:竜級

 称号:なし

 アクティブスキル:〈仲間を呼ぶLV10〉〈タイラント・ラリアットLV10〉

 パッシブスキル:〈一族の結束LV10〉〈被ダメージ軽減LV7〉〈超再生LV2〉〈眠り耐性弱化LV3〉〈混乱耐性弱化LV3〉〈クリティカルヒットLV5〉


 わかりやすいパワー&タフネス。しかも仲間を呼ぶ。


「一発で洗脳できそう」


「ラリアットも強いですしね~」


「前に鎧魚が何匹か粉砕されてたの見たことあるよぉ」


 鎧魚ってあの硬い魚か。マジか。こいつは戦力になりそうだぜと思いつつ次行ってみようとしたところで、ん? と首を傾げる。


 次のって……


 赤いマロククネズミ

 LV53

 力:1342

 耐久:1231

 器用:1023

 敏捷:2007

 魔力:1423

 総合闘級:竜級

 称号:赤い彗星

 アクティブスキル:〈サンダーLV10〉〈赤い閃光LV7〉〈高速移動ソニックムーブLV7〉〈赤の限定解除LV5〉〈オーバーセンスLV4〉

 パッシブスキル:〈韋駄天LV5〉〈希少種LV7〉〈逃亡者の嗅覚LV6〉〈雷撃耐性LV10〉〈炎熱耐性LV8〉〈転身LV2〉〈残像分身LV2〉


 おいなんだこいつの称号、誰か伏せ字しろよ。

 かなり高水準なステータスは見事なスピード特化。かつ魔力も高い。トンボがスピード特化(笑)に見えてきて可哀想になった小瑠璃だったが、かくいう自分の平均ステータスが1000に達してないことを思い出してちょっと惨めな気持ちになった。


 まあ、そんなことは置いといて。


「ていうかこいつ、さんざん私に嫌がらせしてきた赤ネズミだ」


 そう、小瑠璃はこのネズミのせいでここに落ちるはめになったのだった。

 自分も相手を付け狙っていたことはさらっと棚に上げたが、そのくらい許されると思う。

 

「マロククネズミの『希少種ユニークモンスター』かぁ。めずらしいねぇ」


「ユニークモンスターに狙われるなんて~、よく生きてましたね~」


「自分で言うのもなんだがゴキブリよりしぶとい自負がある」


 そして自分で言ってなんだがゴキブリという単語で地味に傷ついたところで、もっと言えばゴキブリってこの世界にいるのだろうか、いないといいなと思ったところで、小瑠璃ははたと首を傾げる。


(希少種……ん? こいつの赤色って……)


 コケの色じゃないのか。まあ今はいいか。


「とにかく、こんな感じでどんどんステータス教えていって」


 とナヴィに指示を出しつつ、


「アスっちは〈洗脳魔法〉って何発使えるの? 洗脳する順番とか考慮した方がいい感じ?」


 アスモデやマムと相談して話を詰めていく。

 そんなこんなでなんとか方針が固まり、まだ頑張れる組三人(+ブタ一匹)で頑張っていこうぜと心が一つになったりならなかったりした、そのとき――




 ――コケに埋もれた赤色(マロククネズミ)が、爆ぜた。




 閃光――そして轟音。


「あー、何事?」


 と小瑠璃が音のした方を見たのは、爆発するように赤いマロククネズミの全身から放たれた紫電が、赤いネズミとその周囲に捕まっていたネズミたちをコケの拘束から解き放った、一瞬あとだった。


 ――〈サンダー〉


 普通のマロククネズミが使うそれとは明らかに別格な威力に、アスモデが「わーお」、マムが「あら~」とそれぞれ反応を返す。〈サンダー〉とわかって、小瑠璃はひゅーと口笛を吹いた。

 驚くべきは、それほど威力の高い攻撃がネズミたちには傷一つつけていなかったということだ。赤いマロククネズミは雷撃をほぼ完全にコントロールしており、やはり、他のネズミより頭いくつ分か抜けていた。


 それだけではなく、ネズミたちのボスとしても慕われているようだった。拘束から解き放たれたネズミたちは皆、寄りそうように赤いマロククネズミの周りに集まっている。

 まだ小さなマロククネズミが、一匹、ちゅうちゅうと鳴きながら赤いネズミにすり寄っていた。


(かわいい)


 小瑠璃は無表情で思った。


(ひょっとして……ずっと苔エリアを走り回ってたのは、捕まった仲間を探してたから?)


 そして野生の勘か、臭いか音か、何らかの方法でここだと突き止めたのだ。やってきた小瑠璃までもを利用して、緑王苔主を激怒させ、口を開けさせたのである。

 かっけーネズミだなと小瑠璃が独りごちたとき――〈サンダー〉の第二波が、天井に向かって放たれていた。


 雷撃の筋がいくつも束ねられたそれは、雷というよりもはやビーム。荷電粒子砲を彷彿とさせる馬鹿げた攻撃だった。転生してから見た生き物で、あれをまともに食らって死なないヤツはいないと断言できるほどの。

 それが天井にぶち当たり、あっさりとぶち破る。

 周囲を囲むコケの壁が、驚愕し、怒っているかのように波立った。

 それには目もくれない赤いネズミの号令で、ネズミたちが上を目指して上っていく。コケの壁がそれを逃すまいと蠢きはじめる。


 激動。

 状況も、周囲の景色も、先ほどまで沈黙を保っていた全てが、ここに来て一気に、めまぐるしく動きはじめる。


 ――そんな中。


「…………これは、なんというか、あれだね」

 

 本来なら自分たちで起こすはずだったそれを見て、小瑠璃は一言、


「私の作戦いらなかったね」

 

 ドンマイドンマイ気にすんなと、ムカつく顔で励ましてきたナヴィは無表情で握りつぶしておいた。





●心底どうでもいいスキル紹介欄


〈高速移動〉:魔力を使って加速し、瞬間的に移動速度を大きく上昇させる。

〈残像分身〉:一定以上の速度で移動したとき、残像が質量を持つ。

〈転身〉:回避行動に無敵時間が発生する。

〈逃亡者の嗅覚〉:敵意をもって自分に攻撃してきた者の情報を、一定時間のあいだ知ることができる。

〈オーバーセンス〉:一時的に感覚領域を拡張することによって周囲を探る探査スキル。

〈希少種〉:ユニークモンスターが持つパッシブスキル。ステータス、取得スキルに上昇補正

〈共振探査〉:音波による探査スキル。

〈風鳴りの刃〉:強力な真空の刃を発生させるスキル。グラ●ドクロス。

〈加速〉:移動を続ける限り敏捷に上昇補正。一定時間静止してしまうと効果はリセットされる。上昇補正と静止の判定時間はスキルレベルによって変化する。

〈不協和音の羽音〉:微弱な混乱・混乱耐性低下の効果を羽音に付与する。

〈タイラント・ラリアット〉:何の変哲もないラリアット。相手は死ぬ。


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