19、Q.探し物は何ですか? A.種です。超見つけにくいです。(エピローグ2)
魔族の住み処は、直径数百メートルの比較的広い空間の中に建てられた、小さな町と魔族城から成っていた。
いくつかの秘密の通路に加え、ヘルハウンドには無意味っぽかったがモンスター除けの結界というのもあり、今でも魔力を込めるだけで再起動できるらしい。
モンスターが近寄りにくいというのは、目立つ城というデメリットを帳消しにしてあまりあるメリットだ。
それに、合流場所では会えなかったようだが、避難したというベルフェゴールの仲間が様子をうかがいに来る可能性も高い。
ベルフェゴール曰く燃え残った物資が地下に残っている可能性はかなり高いとのことで、つまり地上部分を掃除さえすれば、あとは快適な迷宮ライフが約束されているということになる。これには思わずガッツポーズが出た。
よっしゃ。
さらばサバイバル。さらば骨ベッド。君たちのことは忘れない。たぶん。
とはいえ――
まずは、いの一番にしないといけないことがある。
死者の弔いである。
「こんなものかな。……いや、もうちょっとかな」
半分になった魔族城のすぐそばで、小瑠璃は埋葬用の穴を掘っていた。
効率は悪いが、道具がないので素手である。ステータスの暴力で固い地面を掘っていく。
灰になるまで燃えてしまっている人も多いだろうけれど、どのくらいかわからないので大きめに掘る。それが終わると、先に骨を拾いに出ているベルフェゴールに続いて集落を回った。
「さっきはゆっくり見てる余裕なかったけど……改めて見ると、ひどいな」
「そうだね。ほとんど焼け野原だ」
小瑠璃が火をつけたからこうなった、というわけでは当然ない。ヘルハウンドの焼き討ちのせいだ。
骨を拾っては穴に収め、また探しに出る。
あらかた終わったかなというところで、しゃがみこんでいるベルフェゴールを見つけた。
「……ベル子ちゃん?」
小さな子どもの頭蓋骨のように、小瑠璃には思えた。
かなり綺麗に燃え残っていて、ユニコーンみたいな一本角がはっきりと見えている。
その頭蓋骨を、しゃがみこみ、拾い上げたままの体勢で、ベルフェゴールは悲しそうに見つめていた。
「弟さんか何か?」
「ぴゅいっ!?」
小瑠璃がすぐ後ろに立っても、声をかけられるまで気がつかないほどである。
ベルフェゴールは慌てた様子で言う。
「ち、ちがうわよっ。ただの上司っ」
「ああ、惚れた相手か」
「なんでそうなるのよっ! この人は、単に……っ、……本っ当に意地の悪い、最低最悪の、ただの上司だったんだから……」
「…………」
「私がちょっと寝坊しただけで枕の中身を石に詰め替えるような、そんな陰湿な人だったの……」
「やり口にシンパシー感じてる」
「なんでよっ!」
しばらく、ベルフェゴールはその亡骸を見つめて、それから二人は広場へと戻った。
すべての骨を収め、土をかぶせる。その上に石のお墓を立てて、黙祷を捧げる。
弔いが終わり、さあ城掃除に取りかかろうとしたところで、ベルフェゴールが小瑠璃を呼び止めた。
「ねえ、これからどうするの?」
小瑠璃はとっさに首を傾げかけ、ああ、と納得する。
魔族城を拠点にするといった当座の目標ではない。
これからの長い人生どう生きていくつもりかと、ベルフェゴールはそう聞いているのだ。
「どうって、迷宮ライフは謳歌しつつ、一応捜し物は探すよ? ブタ神様から頼まれてるし、引き受けちゃったし」
「それ、私は反対なんだけどね」
はあ、とベルフェゴールはため息をついた。
「そもそも、あなた捜し物がなんなのかわかってないでしょ」
「イエス」
あ、またため息つかれた。
「ここからは僕が話すよ! 実は「今真面目な話してるから黙ってて」ひどいや!」
それで? と促す。
ベルフェゴールは大きく息を吸うと、重々しく口を開いた。
「種よ」
「種?」
「ええ。当然だけど、私も見たことはないわ。それが、種と聞いて私たちが想像するものと同じかはわからない」
でも、とベルフェゴールは続ける。
「でも、私たちが何世紀かけても探し出せと言われてきたもの……それは、種なの」
「……」
「理想郷の種と、そう呼ばれているモノよ」
そう言って、ベルフェゴールは簡単に説明した。
――曰く、それは世界の核となるほどの力の結晶。
――曰く、それを手に入れた者は、創造主の資格とその力を得る。
「どう? 自分がどれだけ馬鹿馬鹿しいものを探してるかわかった?」
黙りこくる小瑠璃に聞く。話のスケールに圧倒されている。ベルフェゴールはそう判断した。
そんなもの、本当にあるかどうかもわからない。
あるとしても、ヘルハウンドと同格かそれ以上の化け物がひしめく上層を切り抜けて、形も大きさもわからないそれを探し出さないといけない。
砂漠から砂を一粒見つけ出す方が、まだやさしい。そんな途方もないことを言われたら、普通、気力が萎える。小瑠璃のこの反応もきっとそうなのだと、ベルフェゴールは思った。
だが甘かった。
しばらく黙ったあと、小瑠璃はぽつりと言った。
「理想郷の種と、そう呼ばれているモノよ(キリッ」
へ? とベルフェゴールの表情が変わる。てっきり自分の無謀さを噛みしめているのだと思っていたのに、何のつもりだろう?
そんな疑問の表情が、得心がいって、すうっと無表情になる。
「……一応、聞いてあげる。なにしてるの?」
「何って、さっきのベル子ちゃんのまね」
小瑠璃は臆面もなく言った。
「ではもう一度……理想郷の種(キリッ」
「」
ごっちん! と小瑠璃の頭に拳骨が激突した。
「今、真面目な話をしてるのよね?」
「空気をなごませようと思って……いや、うん、ごめん」
へたなこと言ったら二発目が来るなと察した小瑠璃は反射的に頭を下げた。どさくさで忘れていたが、ベルフェゴールのステータスは小瑠璃より上なのだった。
「まったく。話聞いてた?」
「ようは神様になれるんでしょ。また中二ぶっこんできたなーと思いました」
そんな神様パワーをすでに神様な人(?)たちが探しているとは、力とはなかなか罪深いものである。
ベルフェゴールはナヴィを見て、
「神の格は、管理している世界の数に比例するそうよ。ようするにこいつらは陣取りゲームに私たちを利用してるってわけね」
「ちょっと待って! 確かに大多数の神はそうかもしれない! でも僕らの「ふーん、あのイカれたブタさんがそんなまともな動機を持っているとは思わんけど」ひどいや!」
「あれ、でも弁護になってなくもないよ小瑠璃!」
そう言うナヴィにサムズアップを返しつつ、小瑠璃はベルフェゴールを見た。
まあ、怒りたくなる気持ちはわからなくもない。そんなくだらないことに命賭けさせられたら誰だって怒る。小瑠璃だって怒る。
でも、むしろ、それで決心が固まった。
「今決めたんだけどさ、ベル子ちゃん」
「なによ」
「私、神様になることにしたよ」
「は?」
信じられないものを見るようなベルフェゴールの視線を、小瑠璃は平然と受け止める。それはもう、「株はじめます」並みにあっさり風味な言葉ではあったが、本気だった。
「いや、いるよ? 偉大な魔法少女の先輩方の中には、ガチの神様になったお方もいらっしゃるよ? なら私にもチャンスありそうじゃない?」
などとわけのわからないことを言う小瑠璃を、ベルフェゴールは呆気に取られて見つめていた。
「つまりだね――世界いっこ、私のものにしてベル子ちゃんとお仲間を招待したげる。こんなじめじめした洞窟じゃなくてね」
魔族には、そんなことを考える者はもう一人もいない。
無謀だとはわかっていたが、そう思うと、少しだけ眩しかった。
「……ほんと、頭おかしいわ、あなたって」
くすりと笑って、ベルフェゴールは言った。
「いいわ。そういうことなら、あなたの馬鹿に付き合ってあげる」
「それは困るよ! 僕はナビゲーターとして断固「ブタ神様とは同盟を結んであげるから」なら大丈夫だね!」
それでいいのかナヴィよ。そう思わなくもなかったが、
「じゃ、掃除するとしますか」
そう言って、小瑠璃はベルフェゴールに手を差し出す。
「そうね。でも、最後にひとつだけいい?」
なあに、と首を傾げる小瑠璃へと、ベルフェゴールはびしっと人差し指を突きつけた。
「私の名前はベルフェゴール・メラン・ディー! 誇り高き魔族の四天王! いつまでベル子ちゃんなのよ!」
「メラン・ディーって?」
「幼名よ! ベルフェゴールは先代から継いだ名前で、メラン・ディーはその前の……って、そんな話は今どうでもいいでしょ!」
「そうだね、どうでもいいね、ベル子ちゃん」
「ベ、ル、フェ、ゴぉールよっ!」
「だって、その名前長いんだよ」
やれやれだぜ、と小瑠璃は肩をすくめた。
「……じゃあ、せめてベルって呼びなさいよ。これなら短いでしょう?」
と、少々顔を赤らめながら、ベルフェゴールは言った。
というのも、これはリーダーがつけた彼女の愛称で、思い入れのある呼び方なのである。
つまり、それが彼女なりの親愛の証であることを、小瑠璃はきちんと察した。
「……そうだね」
にこりと笑って、改めて手を差し伸べる。
めったに見せない小瑠璃の笑顔に、ベルフェゴールあらため、ベルはちょっとびっくりしたようだった。
そんな彼女に小瑠璃は、
「じゃあ行こっか! ベル子ちゃん!」
「ファイアぁぁぁぁボぉぉぉーっルっっ!!!!」
魔力切れで不発じゃなきゃ死んでいた、それほどの気迫だった、と小瑠璃はのちに語り、ナヴィは全力でうなずいた。
ひとまずこの話で一区切りとなります。
設定もキャラも展開も本当に好き放題してきたので、ここまでお付き合いいただいた方には感謝に堪えません。
改まったせいで打ち切りっぽい雰囲気ばしばし出てますが、続きます。




