18、ぷりーず・いーと・みー(エピローグ1)
キノコEND2
何故なのか。
黒い霧になって、力尽きたヘルハウンドの体が消えていく……
経験値の光がすうっと胸に染みこんでゆき、そして、小瑠璃はその光に体を押されたみたいに、仰向けになって地面に倒れていた。
「あー、体の底から力が湧いてくるのに、すごい死にそう」
「ヘルハウンドの経験値でステータスは上がったけど、ダメージはそのままだもんね!」
ふよふよとナヴィが飛んできて、お腹の上に乗っかる。
「……ナヴィあんた、私がクライマックスシーンでお腹食いちぎられたところ見てなかったの……」
「見てたよ!」
「見てて臆面もなく乗っちゃうんだ」
そんな訴えは意に介さず、ナヴィは小瑠璃の体の傷をふんふんと嗅いでゆき、
「これは放っておくと死ぬね!」
んなこたぁわかってる。
「ベルフェゴール! 早く治癒魔法を小瑠璃に!」
「…………ごめんなさい。……もう、魔力が残ってない」
小瑠璃と同じく倒れているベルフェゴールが、顔だけ動かして言った。
ここで初めてナヴィがうろたえる。
「そ、そんな」
どうやら今の超ムカつく態度は傷が治ると信じきっていたからこそらしい。そう思うと、なんだか何もかも許せる気になってくるから不思議だ。
子瑠璃は菩薩のような表情で言った。
「いいんだナヴィ。なんかもうどうでもいいというか、やりきった感醸し出てきたし……このままあの世に行って、次の転生を待つことにするわ」
よく考えたらそっちのが勝ち組な気がするし、と思ったのだがナヴィはご不満らしい。
「ダメだよ小瑠璃! そんなことしたら……ブタに転生させちゃうよ!?」
「罰ゲームなの? 君らにとってそれ、罰ゲームなの?」
そんなことを言っているあいだにも、グロいことになっている体からはダラダラと血が出ている。
「ベル子ちゃん……私、そろそろみたい……」
そう言いながら、小瑠璃はベルフェゴールの姿を探した。でも、目がかすんでしまってよく見えない。
あ、ダメだこれ。
どこにベル子ちゃんいるのか、もうわかんないや。
……ああ、死ぬんだな、私。
…………うーん、やばい。全然なんとも思わない。そもそもすでに一回死んでるし、余計に。
でもあれだ。ナヴィはともかく、ベル子ちゃんにはなんか言わないと。そう思って、口を開く。
「ベル子ちゃん。私、短い間だったけど、ベル子ちゃんに会えて嬉しかっ――」
「馬鹿っっっ!!」
うお、びっくりした。
一気に目が覚めた。寿命が縮んだ……いや、延びたのかな?
わからないけど、とりあえずわかってるのは、ベル子ちゃんの話を聞きましょうということだ。
「私だって、みんなとはぐれてアビスをさ迷っていたとき、あなたを見つけてどれだけ救われたか! なのに……あんまりよ、こんなのって!」
さりげにナヴィ除外したな、と小瑠璃は思った。
ずり、ずりと、這いずる音が聞こえる。向こうもひどい傷を負っているはずなのに、かまわず近づいてくる。近づいてきてくれる。
「最後のファイアボール、私が魔力を温存して出してれば……」
「殺しきれずに、みんなやられてたって」
そう、これは必然なのだ。
そう思い、小瑠璃はそっと目を閉じた。
「待って! 置いてかないで!」
ベルフェゴールが、小瑠璃の服を握って叫んだ。
約一週間。
それが、小瑠璃がここアレーナのアビスに来てから経った時間であり、二人が出会ってから今まで経過した時間だ。
それは、決して長い時間とは言えない。けれど、ヘルハウンドとの戦いを通して、二人の心には十年来の親友にも負けない本物の友情が根を張っていたのである。
なのに、その相手が、こんなにあっさり目の前からいなくなってしまう……
あのときのリーダーみたいに――その思いがぼろぼろとベルフェゴールの目から流れ出て、小瑠璃の頬に落ちる。
ナヴィが、静かに小瑠璃を呼んだ。
「小瑠璃……」
しかし、小瑠璃は目を開けない。
二人の前で、やすらかな表情をさらしている。
そう、彼女はやりきったのだ。
――転生少女in裏ダン、これにて完k
「待っテっっ!!」
そのとき、唐突な第三者の声が、三人のあいだに割って入ってきた。
「だ、誰っ?」
振り向いたベルフェゴールが、声の主を見て首を傾げる。
なんだなんだ、せっかくいい感じに終わりそうだったのに……と小瑠璃はぼやきながら目を開けて、驚きの声を上げた。
「君は……マンドラゴラちゃん!」
そこに立っているのは、半分かじられた巨大キノコを頭から生やした、少女、というか幼女である。
「ええっと、これってマンドラゴラよね? 歩いてるなんてめずらしい……じゃなくて、どうしてここに?」
と、ベルフェゴール。それにナヴィが答える。
「ヘルハウンドとの戦闘に入る前に出会ってね、ボクたちで捕まえて食べたんだ! でも、途中でお腹いっぱいになったから放置してきたんだよ!」
「そ、そうなの」
そのマンドラゴラちゃんが、アンバランスに大きな頭のキノコを揺らして言った。
「私ヲ食べて! そうすれば、ケガは治るはずだヨ!」
「へっ?」
と、またベルフェゴール。ベルフェゴールは、おかしなものを見る目でマンドラゴラちゃんを見た。
普通、マンドラゴラは誰かに自分の体を食べさせたりはしないからだ。ありえないと言ってもいい。
しかし、現にマンドラゴラちゃんはベルフェゴールを押しのけると、頭のキノコを一欠片もぎ取って、小瑠璃の口に押しこんだ。
すると、あれだけひどかった小瑠璃の傷が、見る見るうちに治っていくではないか。
「おお、〈キノコ大好き〉も付けてないのに全回復した」
「小瑠璃! この世界にそんなスキルはないよ!」
むくりと起き上がった小瑠璃は、無言でマンドラゴラちゃんのキノコをむしり取って、「あんっ!」と若干エロい声を出す彼女を無視してベルフェゴールの口につっこんだ。
「おいしい……けど」
それで本調子に戻ったベルフェゴールは、激闘の傷跡と涙の別れがあっさり消え去ったことに釈然としないものを感じながら、何故かもじもじしているマンドラゴラちゃんに聞いた。
「どうして私たちを助けてくれたの? あなたたちは自分のキノコを食べさせるなんて普通しないでしょう。それも、この子たちには一度食べられてるのに」
小瑠璃とナヴィは理由がわかっているようで、意味ありげに視線を交わして、やれやれと肩をすくめる。そんな二人を見てベルフェゴールが首を傾げていると、マンドラゴラちゃんはぽっと頬を赤らめて言った。
「私、キノコ食べられルのくせになっちゃったノ……」
「は?」
素でそんな声が出た。
「え? ど、どういうこと?」
「私が説明しよう、ベル子ちゃんよ」
小瑠璃は混乱しているベルフェゴールに言った。
「マンドラゴラちゃんはね、つい先日、主に私に無理やり食べられることによってとある特殊な性癖に目覚めてしまったの」
「……」
「そう、ドMだ」
「……」
「気をつけて。へたにそんな目で見ると悦ぶぞ」
「……」
「特に、自分のキノコが咀嚼されて呑みこまれるのを眺めてるのがイイらしいよ」
「教えないでよそんなこと!」
ベルフェゴールは叫んだ。小瑠璃は言った。
「ちなみに、キノコって菌類だけど、このニョキッて生えてるのは胞子をばらまくためにあるんだって。つまりこれは――」
「すとぉぉっっっぷっ!!」
「キノコ(意味深)ってわけだ」
「ストップって言ったわよね!?」
怒鳴るベルフェゴールに向かって、
「大丈夫だベル子ちゃん。この小説にr18タグはついてないし、健全の範囲に留まると信じよう」
意味不明なことを言う小瑠璃。
「さっすが小瑠璃! 何言ってるのか全然わかんないや!」
そして、その小瑠璃の周りをぱたぱたと飛びながら言うナヴィ。
さらには、驚異的な早さで一行に馴染みはじめ、顔を赤らめつつ小瑠璃にキノコを食べてもらおうとしているマンドラゴラちゃん。
数分前との落差に、ベルフェゴールは泣いた。違う意味で泣いた。
「……ねえ、こんなのでいいの?」
「ワタシを食べテ! もっト食べて!」
「はいはいもう用事は済んだからマンドラゴラちゃんは地面に帰ろうね……って、ベル子ちゃん今何か言った?」
きょとんとして聞く小瑠璃に、ベルフェゴールは言った。
「ううん、なんでもない……」
魔族城を追われたときと同じくらい、いや、もしかしたらそれ以上の哀愁が、その背中には漂っていたとか、いなかったとか。
○
「で、これからどうするよベル子ちゃん」
と、小瑠璃はうっとおしくなってきたマンドラゴラちゃんを地面に埋めながらベルフェゴールに尋ねる。
「なんでそんなこと私に聞くのよ」
「なんでって、ベル子ちゃんはもう私のパーティの一員だよ?」
どことなく拗ねた様子のベルフェゴールを見て、首を傾げながら言う。ついでに、「放置プレイ、そレもまタよし!」と顔だけ出して言うマンドラゴラちゃんをぐいっと地面に押しこんだ。もう出てこなくていいよ。
「異論は認めないわ。命を救ってやって、仇まで取ってやったんだ。仲間に入れてください(はあと)ってお願いした上で靴を舐めてもバチは当たるまいよ」
「……でも」
ベルフェゴールはちらりとナヴィを見た。
代々のわだかまりというか恨みというか、そういうのは簡単には解けないらしい。
だが、
「悪いやつじゃないよ。クズで無能だけど」
「ひどいや!」
「ホントのことだろうが」
そんなやりとりを聞きながら、しばらく悩んだ末の答えはイエスだった。
「いいわ。わかったわよ。あなたの仲間になったげる」
「マジか」
「マジよ。どうせ、他の仲間と合流できる当てもないしね」
城から逃げ出すとき、離れ離れになってしまった場合の合流場所というのも決まってはいた。だが、あとから行けば、そこには破壊の跡がいくつか残っていただけ。仲間の死体がないのがせめてもの救いだったけれど、そのときのベルフェゴールは途方に暮れていた。
小瑠璃に出会ったのは、そんなときだ。
「いえーす」
と喜びのピースサイン(無表情)を決める小瑠璃を見て、ベルフェゴールは自分でも気がつかないうちに笑っていた。
「じゃあ、これからどうしましょうか?」
と、今度はベルフェゴールから聞く。
そうだなと考えて、結論はすぐに出た。
なんだかんだ騒動で忘れていたけど、小瑠璃とナヴィは安定した衣食住を求めて、このアビスの探索をはじめたのだった。
ならば話は早い。
小瑠璃はぽんと手を叩き、半壊の魔族城を指さして言った。
「あのお城、掃除しよっか」
エピローグ的な話ですが、長くて読みづらいかな?ということで二話に分割しています。
前話は一応山場なので分割はしなかったのですが、今回はまあいいだろうということで。エピローグくらい短くまとめろよというツッコミは謹んでお受けいたします。




