表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

銀を齧る龍は彼方を想う

作者: マルゲリータ
掲載日:2017/10/19

かつて龍は暴龍として畏れられた。

逆鱗に触れずとも、火を吹き森を燃やし、大地を踏みしめ田畑を沈める。

何故怒るのか。

何故荒らすのか。

何故暴れるのか。

人々は知りたかった。

知ればこの理不尽を止められるのでは、と仄かな希望を抱いていた。


だが解らない。

遂には人を喰らうようになった。

もう此の儘ではいけない。

人々は古い伝承に縋った。

村の娘を生贄にすれば龍の怒りは鎮まる。

人々は黴の生えた伝承に頼り、生娘を一人龍に差し出した。


龍はその娘を巣へと持ち帰った。

無論、そんな伝承に何の意味もない。

龍は暴龍であった。

何か理由がある訳ではない。

生まれ持って、荒い気性を待ち合わせていた。

唯、それだけである。

龍は娘を喰らうつもりであった。

巣へと持ち帰ったのは、慈悲などではない。

己の食事を邪魔立てされるのを龍は殊に嫌った。

巣に辿り着く。

山峰の一角。

雲の上にある木と土で築かれた自然の御殿。

龍の寝床。

娘は裸足のまま其処へ降り立つ。

龍は食事を始めようと顎を開いた。


龍には知恵があった。

『文字』『言い伝え』など人が行う方法ではない。

龍の一族としての、本能。

生物の根源に刻まれた警告。


その娘は銀色だった。

眼も、髪も、肌も、霧で濡れた睫毛すらも。

毒々しいほどに、銀色だった。


龍は気付く。

嗚呼、この娘は毒に侵されている。

人に感染する、猛毒に。

人間は謀ったのだ。

この銀の娘を使って龍を殺そうとした。

娘も共に死ぬのだから、人間にとってこれほど良きことはない。


暴龍は怒り狂う。

人間は龍の逆鱗に触れてしまった。

この娘を踏み潰し、人間の村を焼き尽くそう。

そう決心した龍の鱗を、銀の娘の手が触れた。


暴龍は驚愕した。

温かいのだ。

毒々しく、冷たく、無機質な銀色をした娘は。

人のような温かさを持っていた。

まだ生きているのだと、そう叫んでいるような気がした。


気付けば龍は真っ直ぐに銀の娘を見つめていた。

銀の娘もまた龍を真っ直ぐと見つめ返す。

龍が先に視線を外す。

何故かは解らない。


この日から龍が暴れることはなくなった。

幾星霜幾星霜。

暴龍と銀の娘。

一尾と一人の奇妙な生活が続いた。


やがて銀の娘の温かさが薄れていく。

龍はただ寄り添った。

銀の娘はそれだけで儚い笑みを浮かべる。


銀の娘から温かさが失くなった。

龍はそれでも寄り添った。

銀の娘はもう動かない。


ある年の冬を越えた頃だろうか。

龍は巨大な顎を開く。

龍は銀の娘の亡骸を齧り、呑む。


地平線の彼方に、暁の空が広がる。


龍は朱く輝く空を見て、一粒。

泪を零す。


龍は瞳を閉じる。

もう、龍が暴れることはない。

もう、龍が人を喰らうことはない。


古き伝承は真と成った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 連載してほしいです
[良い点] 面白かったです! [一言] 素敵な時間をありがとうございました!
[良い点] あっさりとしてよかったです。 僕的にはバッドエンドというよりトゥルーエンドかな。 龍が恋を知り愛を知り悲しみを知る。 簡潔だけどそれはそれで無駄なくいい話だと思います。 [一言…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ