No.007 Let's play with the situation of the cultural festival.
コチ、コチ、コチ、コチ……十六時三十二分。
放課後、空き教室。
初口、紬ナオ。
「今回は彩瀬名と露霧ね。で、これが指令。文化祭イベントで会話をしよう、だそうだ」
「毎年毎年あるけれど、ハッキリ言って面倒なのよね」
「…………キャラのイメージを裏切らないと言うか、らしいと言うか」
「しかも週末にするでしょう? せめて平日にするべきだわ」
「それ…………採算が取れないから」
「別にいいじゃない。売り上げが悪くたって、どうせ学校側が何となするのだから。そもそも、そう言う事も含めて入学金やら学費やらで搾取されているのを知らないの?」
「リアルな話は止めて上げてっ! みんなの夢が覚めちゃうからっ!」
「――」
「おーい、露霧さーん、目が半分座ってますよー、起きてますかー?」
「――これは元から」
「うん、そうだな、うん……それは知ってたよ。介入する意思が感じられなかったから振ってみたんだよ」
コチ、コチ、コチ、コチ……十六時三十四分。
放課後、空き教室。
初口、紬ナオ。
「参考に彩瀬名は去年、何したん?」
「お化け屋敷よ」
「定番か……。で、どうだった?」
「どうだったも何も無いわよ。私は壁の裏に隠れて、音楽を流すだけだったのだから」
「え? それってもしかして……」
「ええ。音楽と一緒に、胸にMのマークをあしらった黄色が眩しい服を着ている、顔が白塗りの赤いアフロヘア―キャラが飛び出して行くのよ」
「――タラッタッタ」
「ストップストップ! 最近、音楽のJASなんたら機構が目を光らせているから、それ以上はダメだっ!」
「――あの人、最近出番が無いから残念」
「そう言えばテレビですら見掛けなくなったよな…………」
「文化祭では、来る客へ笑顔を向けながらバーガーを無理やり口に捩じ込んでいたわ」
「お前のクラスだったのかっ! 僕もその被害に遭ったんだぞっ! めっちゃこえーし、バーガー無駄にでかいしっ! 捩じ込みながら『i'm lovin' it』って言うしさぁっ! おかげでしばらくバーガー恐怖症になったわっ!」
「あら、楽しんで貰えたようで何よりね。わざわざオファーした甲斐があったわ」
「ホンモノかいっ!」
コチ、コチ、コチ、コチ……十六時三十八分。
放課後、空き教室。
初口、紬ナオ。
「露霧は? 去年は中学生だからその時の文化祭で」
「――私のところも、お化け屋敷」
「人気だな……お化け屋敷」
「――彩瀬名先輩とは違って、私の所には、サンダースがいた」
「……マジか?」
「――うん」
「嫌な予感しかしないんだけど……」
「――『美味しいね、ケンタ〇キー』と言いながら、骨付き肉を捩じ込むの」
「お前のクラスかーっ! たまたま行っただけなのに、にっこにこ顔で捩じ込まれたわっ!」
「そのお化け屋敷、なんて恐ろしいのかしら」
「彩瀬名のとこも充分怖ぇよっ!」
コチ、コチ、コチ、コチ……十六時四十分。
放課後、空き教室。
初口、彩瀬名愛結。
「そう言う紬くんのところは、何をしたの?」
「僕のところは、ホットケーキに大量の生クリームを乗せた出店だよ……それ一種類のみ」
「いまいち理解に苦しむわね」
「そう思うだろ? でも、思った以上に人は入ったんだよ。ひたすら生クリームを手動で泡立てて……ひたすらホットケーキを焼いてさ…………腕が限界近くになってようやく休憩出来たから、何となく立ち寄った先でバーガーを捩じ込まれたんだよ……」
「捩じ込むだなんて、酷い出し物もあったものね」
「涼しい顔で言ってるけど、あなたのところの赤アフロの人ですからねぇっ!」
「――怖いね」
「君のところのサンダースだって同じような事したでしょっ?!」
コチ、コチ、コチ、コチ……十六時四十二分。
放課後、空き教室。
初口、紬ナオ。
「今度文化祭するとしたら、どんな物を開催したい?」
「盆栽教室」
「それは自分の趣味だろ…………」
「とてもいいわよ? 盆栽」
「わ、分からん……女子高生の趣味とは思えないわ……」
「――格闘教室」
「教室にならんだろっ?! 露霧相手じゃ、みんな三秒もしないうちに沈黙するわっ!」
「――楽しいのに」
「二人とも……ホント、女子高生なのか? 趣味や特技が、なんかもう二次元世界の住人っぽいわ…………」
「目薬教室」
「なにすんのっ?!」
「刺激の強い目薬をひたすらさし合うの」
「キターーーーーー連呼しちゃうでしょっ!」
「――七味教室」
「それもいったい何すんのっ?!」
「――振り掛けあうの」
「目とか鼻とか口とか大変な事になっちゃうっ!」
コチ、コチ、コチ、コチ……十六時四十四分。
放課後、空き教室。
初口、紬ナオ。
「いいか、二人とも。文化祭ってのは、クラスのみんなと協力して行う事に意義があるんだよ」
「友達がいない紬くんが言う程、白々しいものは無いわね」
「気にしてるんだから抉らないでくれるかなぁっ?!」
「わざと抉っているのよ」
「ええ、そうだと思ってましたよっ! 僕の事はいいから、文化祭だよっ、文化祭!」
「――みんなで樹海を探索しようツアー」
「文化祭なのにツアーってっ?! しかも帰る時に何人か減っていそうで怖いよっ!」
「紬くん、友達がいないからって樹海で死ぬ事は無いわ」
「参加しねぇからっ!」
「そうやって積極的に行事へ参加しないから、友達が出来ないのよ?」
「参加しないのは樹海ツアーだけだよっ」
「――曰く付き物件で、怪談をする」
「…………どうしてわざわざ場所を変えようとするわけ? 文化祭は学校内で行うものだ」
「――じゃあ、学校のとある教室を曰く付きにしてしまう」
「物騒だわっ!」
「何人程やればいいかしらね?」
「……彩瀬名が言うと冗談に聞こえないんだけど?」
「あら? 誰がいつ冗談を言ったのかしら?」
コチ、コチ、コチ、コチ……十六時四十七分。
放課後、空き教室。
初口、露霧風華。
「――新しい催し物を考えるのは難しい」
「んー、確かになぁ。少し他と違うにしても、全員参加の演劇くらいだろ?」
「私が中学の頃の話しだけれど、三十分ただひたすら寝るだけの催し物をした事があったわよ」
「え? そんなんでよくオーケー出たな……?」
「みんな楽をしたい、そう言う事でしょう? でも、思ったよりは失敗した、感じはしなかったわね。三十分五百円、総額十万くらいになったもの」
「寝るだけならどこでだって出来るのにっ?!」
「――みんな、お疲れ」
「生き辛いものね、今の世界。苦しい事や辛い事ばかりが目立って、楽しい事なんて、ほんの一瞬だもの」
「テンション下がるから、そう言うの止めようねぇっ!」
「――この世界を見限れたら、どんなに楽なのかな」
「止めて止めてっ! 感化されて、ぽいっと投げ出しちゃう人がいるかもだからっ! 文化祭の話なのにどうしてこんな事になっちゃったのっ?!」
「艱難辛苦なこの世界が悪いのよ」
「寂しくなるから軌道修正しようっ! なっ?」
コチ、コチ、コチ、コチ……十六時五十分。
放課後、空き教室。
初口、紬ナオ。
「さて、二人とも、そろそろこれだっ! ってヤツを頼む」
「仕方ないわね。お化け屋敷で決定にしましょう」
「――うん」
「……結局それに落ち着くと」
「ただのお化け屋敷じゃないわよ。赤アフロと白スーツの競演」
「――怖さも二倍」
「なんだろう……微妙に入って見たいような気がする」
「バーガーと骨付き肉の同時責め。なんてイヤラシイのかしら」
「どこがっ?!」
「――食事代が浮く」
「ゆっくり味わいたいっ!」
「――嫌いじゃないの?」
「i'm lovin' it!」
「オチはついたようね」
次回予告 ホウカイ
「壊れてしまったあなたの大切な人。もう戻らないと理解している時、あなたはその人を楽にしてあげられますか、と言う話では無いけれど、未定」
「それでは次回も、崩壊した世界の放課後に会いましょう」