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崩壊した世界の放課後、〇〇をネタに会話をしてみた  作者: ラノ
放課後、学校の委員会をネタに会話をしてみた
21/24

No.010 Today is the end of one section.

 十七時五分。

 放課後、職員用玄関。

 初口、紬ナオ。

『いいか、六条。僕はヒトミとユナの所へ行って来るから、少しだけ車の中で待ってて。エンジンは掛けずに車の中に居れば、アイツ等でも人が発する音には気付かない。これは保証する、僕がすでに試しているから。それから、万が一……戻れそうにないようなら、連絡をする。六条だけでも次の目的地へ先に行って欲しい。貰ったこのメモがあれば後で追い付く事は可能だからさ』

 そう言って、紬くんは私に拒否の意思を与えずに校舎の中へと戻って行った。

 防火扉も機能しない、念の為に机や椅子で作り上げたバリケードは崩れ去りその役目を果たしていない。

 そして……次々増えて行く死人達。

 どう……甘く見たって、どう……私の良いように考えたって…………無茶が過ぎる、無謀が過ぎる、無駄が……過ぎる。

『心配し過ぎだよ、六条は。とにもかくにも、先ずは逃げに徹しているし、危険だと思ったら近付かない、様子を見に行かない、正義感出して他人を安易に助けない、フラグが立つ前に折ってるから問題無しだ』

 以前、そんな事を言っていたのに……。

「逃げに徹していない、危険だと分かっているのに近付いて、様子を見に行っている、正義感出して他人を安易に助けない…………嘘ばっかり……紬くんは、嘘吐きだよ……」

 でも、分かってる。

 ヒトミ先輩と宮原橋さんは……もう他人じゃ無いから、なんだよね……。

 だから、助けに行ったんだよね……。

 そんな事は分かっている……けれど……。

「私、一人にったら……頑張れないよ…………」

 私は祈る。

 神様なんて曖昧な存在に頼っても意味が無いけれど、それでも、紬くんが二人を連れて戻って来る事を。

 そして……このスマートフォンに連絡が来ない事を。

 十七時十五分。

 放課後、職員用玄関。

 初口、紬ナオ。

「くっ! こ、のおっ!」

 多い多いと思っていたけど、まさかこんなに増えているとは思っても無かった。

 たぶん、今まではあまり無理せずに無効化していたからなんだと思う。

 こうして実際、相手をして、無効化する事を選択すると、その数がどれ程多いのか思い知らされた。

 六条と別れて……十分程経っただろうか。

 目指す家庭科室は……。

「こんなに遠かったのかよっ!」

 まだまだ、まだまだ先だ。

 職員用玄関からすぐ右の通路に入ったばかりなのに、倒しても倒しても全く減っている気にならない。

 右手に日本刀、左手には鉈。

 増えないように……確実に頭を、脳を壊す。

 日本刀で首を落とし、落ちた首を鉈で破壊して、確実に……。

「くっ!」

 僕が通って来た廊下……僕の後方にアイツ等は一体だっているわけが無い。

 何故なら、無事に二人の場所へ辿り着く為、目の前の奴等は全て無効化しているのだから。

 それなのに。

「なんで、後ろにもいるんだよっ!」

 露霧のように超人じゃ無い、極々普通で、更には運動神経が良いとも言えない僕なんかが、後方の奴等を気配でなんて感じる事が出来るわけが無い。

 視界に捉えている前の奴等を気にして、後ろを振り返って対応して、また前を向いて。

 これがどれ程の重荷であるのかなんて、コイツ等は気にもしてくれない。

 ギリギリ、何とか対応してはいるけれど、この状態がいつ波状するのかは、時間の問題だと思う。

 後方にもいる原因は、たぶん、外の奴等が侵入して来ているからだろう。

 だとすると……外にはいったいどれくらいの数がいる事になる?

 毎日目にしていていたのに、増えているのは気付いていたのに、僕は心の何処かで勝手に”そこまで増えてないはずだ”と考えていたのかもしれない。

 僕が思っている認識は、今すぐ改め直さなければ。

 その認識の中には”車の中なら気付かれない”と言う事も含まれている。

 だから、今すぐに六条をここから遠ざけなければ。

「くそっ! これじゃあ、連絡すら取れない、ってのっ!」

 焦るな。

 焦らず、コイツ等をじっくり無効化しろ。

 どこかに必ず間が空くはずだ。

 僕だってまだ諦めたわけでは無い。

 最後の最後まで生き延びる意思を捨ててはダメだ。

 彩瀬名、リカ、露霧に生き延びるって約束したんだから。

 十七時四十分。

 放課後、職員用玄関。

 初口、紬ナオ。

『六条っ?! 僕、紬だよっ! 聞こえるかっ!』

「え、あ、うん。ちゃんと聞こえているけど、少し遠い……かな」

 そして、紬くんの声に交ざって聞こえている沢山の呻き声。

 事情はだいたい理解出来た。

 紬くんは、死人の対処をしながら私へ連絡を入れている。

 どうして、そんな事を……。

 どうして……どうして……。

 そんな事はこうして連絡が来てしまった時点で、分かっている。

 でも……分かりたくない、受け入れたくないから、私はわざと”どうして”と分からない振りを続けている。

『車の中なら安心だって、言った、けれどさっ! くっこのぉっ! 悪いっそれが当てにならないかもしれないんだよっ! だからっ!』

「私、それでも待つから。紬くんを待っているよ」

『そう言うと思ってたっ! でも、頼むっ! 先に次の場所へ向かってくれっ! 必ずヒトミとユナを連れて追い付くからっ!』

「信じられないよ、そんなの」

『頼むっ頼むからっ! これは無理だから連絡をしたんじゃ無いんだよっ! 僕達みんなが、生き延びてまた会う為の最善手だと考えたからだっ!」

「そんなの違うよ……。みんなが揃ってここを出る。それが最善手なんじゃないの?」

 スピーカーの向こうからは、紬くんの返事は無く、しばらくの間、呻き声と金属がぶつかり合う音が鳴り響く。

 その音だけで想像が付いた。

 紬くんの置かれている状況が、どれ程過酷であるのかを。

『ヒトミとユナを助けた後、六条の所まで戻る事がっ! このおっ!! 容易く無いんだよっ! だから、先に行って欲しいって行ってるんだっ!』

「じゃあ、私がその場所まで車を動かすから、それならみんなでここを出る事が出来るよ?」

『それも考えたけどっ! でも、それはそれでリスクがあるんだよっ! 車に乗り込もうとする時が一番危険だって事のリスクがっ! それに、さっきも言ったけれど、六条だって安全だとは限らないんだってっ! だから頼むよっ! 先に行ってくれっその方が僕もこっちの対処に集中出来るからっ!』

「…………前の学校を出る時、二人で生き延びようって言ったのに。どうしてそんな事を言うの? 酷いよ、紬くんは」

『それは今だって変わってないっ! 生き延びるんだよっ! みんなでっ!』

 そうじゃない……そうじゃないよ紬くん。

 私は…………二人でって言ってるの、どうして”みんな”になってるの?

 少しだけ、本当に少しだけ、正直な気持ちとして思っている事。

 それを紬くんに、私は……伝えられない。

 こんな事を言えば、きっと嫌われてしまうだろうから……それが怖くて言い出せない。

『二人だけでも構わないさ、でもっ! やっぱり信頼出来る仲間がいた方が心強いだろっ? 協力して助け合う事が増えるじゃないかっ! だからみんなで生き延びるんだよっ!』

 私の抱いた思いに気付いているの、全く気付いていないのかは分からない。

 それなのに紬くんは、私の思いを読み取ったような返事を返してくる。

 いつもはそんなに鋭く無いのに、こう言う時だけ紬くんは、他の誰よりも、納得せざるを得ない返答を返してくる。

『約束するっ後で絶対、また会おうっ! そしたら今までみたいに、どうでもいい話をしながら、面白おかしく…………やばっ! しまっ』

「紬くんっ?! ねぇっ紬くんっ?!」

 通話が途切れてしまった。

 私は急いで紬くんへ掛け直す。

『お掛けになった電話番号は……』

 流れたコールを途中で止めて、再度掛け直す。

 でも……。

『お掛けになった電話番号は……』

 繋がらない。

 バッテリーが無くなった、なんて事は考えられない。

 常日頃から充電については、みんなで気を遣っていた。

 連絡が途絶える事が無いように、と。

 じゃあ、何が……。

「行かなくちゃ」

 車のドアノブへ手を掛ける……けれど、そこで私は、ある日の言葉を思い出した。

『六条さん、これが最後の言葉になるけれど。紬くんはきっと、いえ、必ず無理な事をすると思わ。私達を助けた時だって、そうだったのだから。でもね、あなたが絶対無理だと思う事を、彼がしていたとしても、紬くんが言った言葉は信じてあげなさい』

 以前の学校で過ごした彩瀬名さん。

『六条先輩。こんな世界での一カ月でしたけど、楽しかったです。まぁ、ナオ繋がりで知り合いになったってのが癪に障りますけど、なんだかんだ言って、アイツ、そこそこ役に立ちますから。それに……昔から、約束した事に対しては律儀に守るヤツだったので、引き籠もり体質のナオと一緒ってのは不安でしょうけれど、でも、ちょっとだけでいいので、頼りにしてみてくださいね』

 紬くんと昔から知り合いだったと言う、緋内さん。

『――先輩。ナオちゃん、思ったよりも運動神経は良かったから、ナオちゃんが自分で言ってる程、弱いなんて事は無かったよ。私もナオちゃんと一緒だったから、アイツ等を相手にしていても不安はほとんど無かったくらいだから。私がいなくなった後は、私の分まで、ナオちゃんを信じて上げて欲しい。彩瀬名先輩と、リカと六条先輩と、ナオちゃん。みんなで過ごした一カ月は本当に充実していました』

 紬くんの事が大好きだった、露霧さん。

 みんな、自分からいなくなる事を選び、その最後に、私へと告げて行った事。

 これから”あっち側”の世界の住人になってしまうのに、二人だけになる私の事を気遣って残してくれた言葉。

 そのどれもが、紬くんなら大丈夫、そう伝えている事。

 ここで私が車から飛び出してしまったら、みんなの思いを踏み躙るばかりか、紬くん本人の言葉をも疑う事になってしまう。

「…………バカ、バカだよ……紬くんは」

 そしてそれは、私自身に対しても言える事。

 あの時とは状況が大分変っているのに……目を疑う様な数の死人が蔓延るこの世界を目の前にして、紬くんが無事でいられる事なんて…………考えられないのに。

 それなのに私は……。

「ごめんね、紬くん……私、君を……見捨てる事に、するね……」

 運転は、大丈夫。

 紬くんに教えて貰って、実際自分でも動かしていたから。

 車のドアノブから手を引いて、エンジンを掛ける。

 周囲を当ても無くウロウロしていた死人達が一斉に、車のエンジン音を聞き分け、私の方へと歩みを変えて来た。

『避ける必要なんて無いんだよ。この車、アニマルガードってヤツが付いているからさ。ま、今となっては違法アイテムだけど』

 紬くんが言っていた事を、今ようやく理解出来た。

「行こう……次の場所へ…………何がなんでも生き延びる為に」

 そして、分かっている事なのに……紬くんとはもうたぶん、きっと会えないと理解出来ているのに、その事に気付かない振りをして、彼を待とう。

 それを理由に……私は、この世界を生き延びる事にする。

「だって、そうでもしなければ……生きる事が辛いでしょ? ね、紬くん……」

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