No.008 I played with situations in a crisis situation.
コチ、コチ、コチ、コチ……十六時三十一分。
放課後、空き教室。
初口、式葉ヒトミ。
「おっかえりー、ナオ」
「ふぅ、ただいま。ちょうど良かった。ヒトミ、防火扉の電子ロック見たけど、確かにロックされない場合はあったよ。でも、原因はサッパリ……あれはもう専門業者に頼まないとどうにもならないと思う」
「そうよねー」
「一応何度か閉め直せばロックされるし、後、バリケードをもっと厚くして来たから、たぶん大丈夫だと思う。絶対大丈夫だとは言い切れないから、今までより見回る回数を増やして出来るだけ近付けないようにするよ」
「ねぇ、ナオ。ナオって結構アイツ等を無効化しているわけよね?」
「そう、だなぁ。学校に入って来てるヤツはなるべくそうしてる。けどなんで?」
「いやね、数が……全く減らない? 増えてる? ような気がして」
「……それ、なんだけどさ。僕もそう思ってちょっと観察してみたんだよ。そしたら……ちょっと過激な話になるけど、ヒトミは大丈夫?」
「ええ、問題無いわよ。そしたら?」
「例えば腕を落としたとするだろ? そっから、さ……出来上がって来るんだよ……人が」
「……え、それ、本気なの?」
「あぁ、僕だってそれ見た時、自分がおかしくなったのかって思った……でも、もう何度も目にして来ているから事実、なんだよ」
「何よ、それ……そんなの有り得ないでしょ……?」
「……ホントさ、何なんだよ、あれ」
「人型になると、その、落とした人物そのものになるわけ?」
「分っかんない……出来上がっても見た目はゾンビそのもので、ボロっボロで」
「じゃあ、出来上がった先で同じように腕を落とすとどうなるの……?」
「それもまた人型になる……」
「なら、どうやったら減らせるわけ……?」
「ここ……頭、だよ。頭……脳に重大なダメージを与えると増える事が無い」
「でも、ちょっと待って。頭と胴体を切り離せば無効化出来るって、ユナから聞いたわよ?」
「確かに無効化は出来る……でも、それは一時的だったんだよ。まさか、その後で人が出来上がって行くなんて思っても無かった……。確認なんていちいちして無かったから」
「そ、そりゃぁ…………誰だって気付かないって……人知を超え過ぎているわよ……。細菌兵器同士の化学反応で、人が生える……? アハ、ハハ…………さすがに、脳が理解してくれないわ……」
「だろうな……二次元の世界だって、ゾンビからゾンビが出来上がるシチュエーションなんか無かったくらいだし……まったく、僕は知らず知らずアイツ等を増やしていたって事になるんだよな」
「ナオのせいじゃないでしょ? それにあの人達、死んでいるじゃない? 腐敗して腕やら足が自然と取れちゃうわけだから……」
「…………」
「な、なによ、その顔……」
「そうか……だから、アイツ等日を追う毎に増えていたのか……」
「気付かなったの……?」
「あ、あぁ、うん……ごめん、その考えに思い至らなかった……」
「それも仕方ない、か…………冷静に考えられる状況じゃないものね……」
コチ、コチ、コチ、コチ……十六時三十四分。
放課後、空き教室。
初口、宮原橋ユナ。
「ところで六条先輩やナオさんは、前の学校でどんな事を話して過ごしていたんですか?」
「あれ? 言っていなかったかな? 前の学校では”二次元世界でよくあるシチュエーション”をネタにして会話をしていたんだよ」
「へぇ、何だか面白そうねっ! 例えばどんな内容なの?」
「あーえっと、遅刻遅刻ーの朝の場面とか、よくある死亡フラグとか、だな」
「ほほーう、あ、じゃあ、今日はそれにしてみないっ!」
「ヒロインの危機的状況を助けに来るシチュエーションとか、どうですか?」
「お、それいいかも。僕達が会話した中には無かったネタだよ」
「それじゃ、決まりだね。今回のネタは”ヒロインの危機的状況を助けるシチュエーション”で会話をしてみよー」
「やっぱりギリギリに到着するのがいいわよね」
「あのタイミング、絶対何処かでこっそり見ていて、ここだって時に出て来ていますよね?」
「いいんだよ、それでっ! そこが大切なんだからっ!」
「分かり切っているシチュエーションでも心から感動出来る紬くん」
「安いわねー」
「安くねぇっ! そこで感動出来なきゃ二次元好きだなんて言う資格は無いんだよ!」
「いや、私、別に二次元好きじゃないし」
「なん、だと?! お前はてっきり隠れてコスプレしている派だとばかり思ってたのにっ! この裏切り者っ!」
「裏切って無いし、勝手な妄想しないでくれるっ?!」
「そんな紬くんは置いといて、ホントにタイミング良過ぎるシチュエーションは多いよね」
「例えば、高所から落ちそうな状況の時に現れる、とか」
「手を離した瞬間、ですよね」
「そんな間一髪のタイミングを見計らう必要は無いから、さっさと来なさいよって感じよねー」
「見計らって無いんだって! ホントギリギリで到着したんだってっ!」
「怪物的なモノに成す術が無くなってしまい、もうダメだって時にも来ますよね」
「目の前に飛び出してザクザクーってやっつけるヤツよね」
「武器でも投げた方が早いよね」
「あれは最悪でも自分を盾にしようって考えがあっての事なんだよっ!」
「現代モノで言えば、ガラの悪い人に絡まれている時かな」
「『おいおい、女の子一人に寄ってたかって』みたいな台詞を言いながらですね」
「ベタ過ぎてきゅんともしないわよ」
「するのっ! しちゃうのっ! しなくちゃダメなんだよっ! そこから出会いになって、仲良くなって、恋が芽生えるっ!」
「あーまぁ、助けに来たのがナオじゃなければ、ねぇ?」
「ですねー?」
「だよねー」
「僕、泣いちゃうぞっ!」
コチ、コチ、コチ、コチ……十六時三十七分。
放課後、空き教室。
初口、六条茜。
「みんなはどんな時に助けに来て欲しいかな?」
「あと十円足りない時に『おっと、十円が空から降って来たぜ』みたいな感じであたしにくれる。キュンキュン来るわねっ」
「来ねぇよっ!」
「重い物を持ち上げようとしている時でしょうか。『ここは俺にまかせろ』と言って持ち上げたら実は相当重くて持ち上がらないとか」
「それ、助けに来たのに役に立ってないでしょっ?! 意味無いじゃんよっ!」
「お昼を忘れた時に『パンとコーヒー牛乳と、デザートだ。良かったら食べな』と言って全部譲ってくれる。紬くんが」
「僕のささやかな楽しみを取らないでっ!」
「そうだよねー、友達いなかったから、楽しみがお昼くらいだったもんね。ごめんね、お昼貰っちゃって」
「それだけは上げないよっ!」
「仕方ないですね。ナオさんに取って置きなシチュエーションにしてあげましょう。ゲーム内通貨で百万貯める為に、百回同じクエストを延々として欲しい時に来てくれる。『百回と言わず千回でもしてやろうか』と」
「1クエ何分なんよ?」
「少なくても三十分です」
「五百時間かかるね」
「うおぉいっ、千回前提になってんよーうっ!」
「ふーん、そう言うのならいいのね」
「いやいや、良く無いしっ」
「それなら、十連ガチャで最高レアを五つ以上引いて貰う」
「確率的に無理だからっ!」
「どこぞのモンスターを捕まえる時のように、『リセマラなんて、何十時間だって余裕だぜっ!』みたいな感じでヨロシクー」
「リセマラなんて不毛な時間過ごしたく無いよっ!」
「やりまくってるくせにー、や、り、ま、く、って、るくせにーっ」
「二回言わなくていいからっ!」
「大事な事だから」
「全然大事じゃない! それに、あいにくだけど、僕はスマートフォンゲームはプレイしないんだよっ」
「二次元好きなのにしないの?」
「しないっ! 金の力でどうとでもなるものに興味は無いっ! 自分の力でっ努力でっ経験で困難を乗り越えてこそだろっ! 金の力であっと言う間に強くなったって、そこに充実感や満足感なんて皆無っ!」
「言っている事は分かるけれど、詰まりは悔しいって事なんだよね」
「ぐぬぬぬ、くく……悔しくなんて無いんだからっ!」
コチ、コチ、コチ、コチ……十六時四十分分。
放課後、空き教室。
初口、紬ナオ。
「…………」
正直困った……。
このままだと電子ロックは確実に作用しなくなるはず。
僕の学校のようにアナログ方式の、手動でロックが掛かる防火扉の方がまだずっと良かっただろう。
電子ロック式防火扉のマニュアルを読んだところ『継続的に不具合が発生した場合、防火扉は自動的に開錠され、扉が開いた状態になります』と記載されていた。
手動で閉める事は不可能との追記もされていて、近いうちに必ず防火扉は開いた状態のまま動かせなくなってしまう。
何でもかんでも楽にしようとするべきじゃないな、と改めて思ったけれど、何か対策を考えない事には…………。
「ヒトミとユナを連れて場所を移動するか……」
それが最善。
防火扉の電子ロックが機能している内に、乗って来た車の荷物を少し減らして別の場所を目指した方が良いと思う。
車のバッテリーも充電しに行かないと……確か半分を切っていたはずだ。
ガソリンが尽きても電気で動くあの車は、とても便利だから、別の車に乗り換えるのは極力避けたいところ。
「この辺りでバッテリーステーションがある所も見付けないと……」
荷物の整理、バッテリーステーションの確保、車のバッテリー充電、そして脱出。
よし……行動すべき事はこれで充分。
次の目的地は六条に聞けば大丈夫だろうから、何よりも先ず、脱出する事を考えて行動を起こそう。
それなら夕飯前に、まだ外は明るいから車の荷物を整理して来るか。
「アイツ等……日が沈み始めると狂暴性が増すから、気を付けないと……」
次回予告 シッパイ
「他者のシッパイを責めるあなた。それなら、あなたは生きて来た中でシッパイはしなかったのですか? 他人のシッパイを責めて、自分のシッパイを棚に上げる。そんな汚い心の持ち主であるアナタはきっと必要の無い存在。と言う話ではないけれど、未定」
「それでは次回も、崩壊した世界の放課後に会いましょう」