No.006 I tried to talk with the Health committee.
コチ、コチ、コチ、コチ……十六時四十分。
放課後、空き教室。
初口、式葉ヒトミ。
「お、いたいた。骨董屋、ちゃんと見付かったかしら?」
「ヒトミのおかげで無事に見付かったよ。言ってた通り、十本以上あったから、全部持って来た」
「でしょ? あのお店の店主、絶対いつか人斬るよね、なんて噂があった程だし」
「……確かに、あの数は異常だわ。まぁ、でもおかげでこっちは助かったけど」
「ナオに頼ってるあたしが言うのもなんだけど、外にいるあれ、斬って平気なわけ? その、精神的にさ」
「あぁ、うーん、刀に変えてからは大分楽にはなったんだよ。それまでは、バットとかシャベルとかモップだったからさ、その伝わって来る衝撃って言うか……感触は、さすがに慣れなかった……」
「そっか。刀だったら、あたしでも手伝えるんじゃない?」
「いや、止めておいた方がいい。人間とは別物だけどさ、気分の良いものじゃないって」
「なら、どうしてナオは頑張っているわけ?」
「消去法だよ。一応男だから、力が一番あるわけだし、別に率先してやってるってわけじゃないんだよ」
「ナオって、考えているようで考えていないようで、それでいて正直もので、結局のところバカよねぇ。あたしも大概おバカだけど」
「普段の言動見てれば、それは確かにそうだな、うん」
「うっわ、ハッキリ言うわねぇ」
「…………わざとやってるくせによく言うよ」
「……あの時はありがとね。ちゃんと意思が伝わってくれて助かったわ。それは本当に感謝してる」
「今更だけどあれで良かったのか? 正直、物凄く不謹慎な事を僕は言ったんだぞ? ユナにヒトミはこの世界を楽しんでいる、なんてさ」
「あれでいいのよ。ううん、あれが正解。ユナはね、本当に気にし過ぎだと思う。楽しんでいるかって言われると、ちょっと微妙だけど、それでもあたしはユナの足が不自由なせいで、あたし自身の自由が奪われている、なんて思ってはいない。けど、あたしがそれを言ったところで、信じ切るのは難しいじゃない? だからね、ナオの言った事は正解であって、間違っていなくて、やっぱりあたしは本当に感謝しているのよ」
「……楽しんでいる、ってのは言い過ぎたかも、だな」
「いいんだって。あたしは周りから見ると何時でも、どんな時でも、物事を楽しむ性格だって思われているからさ」
「辛くないわけ? ある程度、そのキャラクターを作っているだろ?」
「はは、バレた? そうねぇ……ちょっとは…………辛い、かな。知り合い、いーっぱい外のあれになっちゃったから」
「ヒトミの性格を考えると、人望、ありそうだもんな」
「そう言うナオはどうなのよ?」
「辛いかって?」
「うん、そう」
「今更だろ? 僕は極端に友達や知り合いがいなかったから、平気だよ」
「でも、両親や、前の学校にも知り合いがいたって話してくれたじゃない」
「それでも……平気なんだよ、僕は」
「嘘が下手ね」
「ほっとけ」
「ま、辛い時はあたしが慰めてあげるわよ。これでも年上だから」
「そうっすか、それはありがたい事で」
「……絶対、あたしに頼ろうとしない気がするんだけど?」
「僕が頼るのは二次元美少女だけだからなっ……そう言うヒトミだって無理すんなよ」
「バカねぇ。あたしが頼るとでも思ったわけ?」
「……」
「と言いたいけど…………たまには、そうさせて貰えると……助かる、かも」
「あぁ、そうしたらいいよ……そうすればいいさ。こんな世界で、辛くないなんてヤツ、いるわけが無いんだから……」
コチ、コチ、コチ、コチ……十六時四十四分。
放課後、空き教室。
初口、六条茜。
「それじゃあ、今日は保健委員会ね」
「授業中、体調不良を訴えると付き添いで指名される係ですね」
「それさ、ほっとんど会話もした事無い相手だとしたら、どっちも気まずいわよねー。体調が悪いってのに、要らない気遣いして余計体調悪くしそう」
「……体調が悪いんだから、そんな事考えちゃいないだろ?」
「でも、紬くん。もし付き添いの保健委員会の子が、すっごい美少女だったらどうする?」
「どんなに体調が悪くたって、是が非でも話し掛けるぜっ!」
「ま、その子にしてみたら『あー、メンドくさ。勝手に一人で行けばいいのに』と、思っているわよ。相手がナオだと」
「僕限定にしないでくれるかなぁっ?!」
「ですが、その通りですよ。実際、私はそう思っていましたから」
「宮原橋さん、保健委員会だったの?」
「はい、不本意でしたが、推薦と言う押し付け合いの学級裁判により」
「ここに犠牲者がいたか……」
「外見が良くて、スポーツが得意で、頭脳明晰でそしてどこぞの御曹司、だったりしたらユナだってさすがにそは思わないでしょ?」
「まずそんな人間はいないでしょうけれど、別に誰が相手でも私は変わりませんよ。そもそもどうして保健委員が付き添う必要があるんでしょうね? 先生が行くべきでは無いでしょうか?」
「んー、教科担当の先生が付き添ったら、残った生徒達が騒ぎ出す、かもしれないからなんじゃないかなぁ?」
「確かにそれは一理ありますね」
「そしたらユナはどんな人がタイプなのよ?」
「え? それ、今関係あります?」
「いいじゃなーい、会話の流れってやつよー」
「誠実であればそれでいいです」
「えー、それだけぇ? ユナせっかく可愛いんだから、もっと高望みしなってー」
「いいんです。身の丈にそぐわず、付き合っているのに疲れてしまう、そんな話をよく聞くじゃないですか? 私は付き合って疲れない関係であれば、それでいいですよ」
「こんなのとか?」
「僕を指差してこんなの言うなっ!」
「んー、すいません。私にも選ぶ権利くらいはあると思いますが?」
「だよねー?」
「そう言う会話は僕のいないとこでしてくれないっ?! 傷付くからっ!」
コチ、コチ、コチ、コチ……十六時四十八分。
放課後、空き教室。
初口、宮原橋ユナ。
「結局、保健委員の仕事って、付き添い以外無いようなものなんですよね」
「うーん……そう、だなぁ。それ以外思い当たらないし……」
「処置は保健医の先生がするもんね」
「じゃあ、添い寝付き。一回三万っならどうかしらっ!」
「どう考えてもいかがわしい店と同じだろっ!」
「え? 全然違うわよ。いかがわしい事しないから。ただ添い寝、ただし、隣の空いているベッドで」
「添い寝じゃないわっ!」
「こんなのはどうでしょう? いつもより過度に治療を施してくれる。消毒液三倍サービスとか、飲み薬三倍サービスとか」
「用法用量は守ろうねぇっ!」
「粉薬の三倍サービスは辛そうだね」
「って事は水も三倍かしら?」
「…………お前ら、病人を殺す気か」
「授業中に体調不良を先生に訴えると、その先生では無くて保健委員に『あ、それたぶん気のせいだから』と一蹴されちゃう、と言うのはどうかな?」
「付き添うのが面倒なだけじゃんっ!」
「でも、好みのタイプが相手だと喜んで付き添うのよ」
「そんな保健委員だったら一人で行った方がマシだわ……こっちから願い下げてやる」
「何かと『点滴すれば大丈夫』とアドバイスをする、なんてのはどうでしょう」
「……いや、まぁ、確かに効くけどさ。もっとこう心配してくれてもいいんじゃないか?」
「仕方ないわね。それなら、スポーツドリンクくらいは差し入れしてあげるけれど、料金はちゃんとちょうだいね」
「全っ然嬉しさなんて無いっ!」
「えー、だってさ、学生は百円だって惜しいんだから」
「病人はもっと労わってあげようねぇっ!」
「そんな事言ったら、紬くん。世の中の病院と言う病院は破綻しちゃうよ?」
「六条さん……その通りなんだけどさ、見も蓋も無い事言わないでください」
コチ、コチ、コチ、コチ……十六時五十一分。
放課後、空き教室。
初口、六条茜。
「体調不良を訴えて、保健委員の子が付き添い教室を出ようとしたところで『自分も体調が悪い』と訴える人が現れる」
「何その俺も立候補します的なノリ……」
「そして更に俺も俺もと次から次へと立候補して、全員教室に残るように言われちゃうのよね」
「最初に体調不良したヤツだけでも保健室へ行かせてやれよ……」
「ナオさん達の学校にも、保健委員って二人いませんでしたか?」
「あー、いたねー」
「どちらも女子生徒でした?」
「うん、そうだったよ」
「ちょっとした賭け、ですよね。自分の好みの子が付き添いをしてくれるのか、それとは別に全く好みじゃない子が付き添いをしてくれるのか」
「先生が曖昧に『保健委員、保健室へ連れて行って』と名指しをせず読んだらさ、その保健委員二人の間で、視線の会話が繰り広げられそうよね。そっちが行きなさいよ、とか、あんたが行けばいいでしょ、とか」
「どっちでもいいから連れて行ってやれよっ!」
「その間が、暗にお互い付き添いたくない、と言っているようなものだよね」
「六条さん……もう一度言うけどね、その通りなんだけどさ……見も蓋も無い事をさらーっと言わないでくれるかな……?」
「でも、本当の事だと思うよ? 宮原橋さんはどうだったの?」
「私は、お互いに誰の時にどちらが連れて行くかを事前に、クジで決めていましたから」
「うわぁ……なんて知りたくない事実なんだろうな、それ……」
「明らかに嫌そーにされないだけマシじゃない。ナオは辛い事実を突き付けられないだけ安心するべきよ」
「もう保健委員になんて頼まねぇっ!」
「仕方ないわねぇ。あたしが連れて行ってあげるわよ。その代わり、あんたはあたしにされるがまま。ふふ、うえへへへ、ぐふふふっ…………」
「女子高生がする笑いとは思えないくらい、えろい顔して笑ってるぞ……」
「男子でもこれ程変態な表情は出来ないのでは無いでしょうか」
「手取り~足取り~……そして、ナニ取ぎゃうんっ! ユナっ、脳天直撃は痛いのよ?!」
「言うと思っていたので待機していました」
「ナイスチョップだっ、ユナっ」
「これ以上おバカになったら誰が責任取ってくれるわけ?!」
「大丈夫ですよ。すでに一番底ですから」
「全くその通りだな、うん」
「嘘っ?! 嘘よっ! あたしはまだ底辺じゃないっ! 底辺なものですかっ! まだきっと見込みはあるんだからっ! ねぇ、あたしっまだ大丈夫よねっ?! 大丈夫でしょっ?! 大丈夫だと言いなさいよぉっ!」
「ちょっ、身体を揺さぶるなっ!」
「ねぇったらねぇっ!」
「うっざっ!」
「先輩…………」
「生暖かい笑顔でそっとあたしの肩に手を置くの、止めてくれないっ?!」
「同じ学校の後輩に心配される生徒会長、か……」
「なんだかとても不憫だね」
コチ、コチ、コチ、コチ……十六時五十四分。
放課後、空き教室。
初口、紬ナオ。
「…………」
いつものように窓の向こう、外の世界にはそこかしこにウロウロと死人がゆったりとした動作でフラフラしている。
「……早く帰らないと、雨が降るぞ」
雲行きが悪い。
夕日の光さえ遮るくらいどんよりとした灰色の雲が広がり、強い雨が降り出しそうな空模様をしている。
「…………」
考えても全く分からない。
天気の事では無くて、どうして大部分の人間が死人化してしまったのに、僕や六条、ヒトミにユナと全く平気な人間がいるのだろう。
…………いや、平気ってわけでも無いか。
いつ変化の兆しが見えて死人化するのか分からないのだから、もしかしたらすでにアイツ等と同じ、なのかもしれない。
それでも崩壊して数カ月が経過してもまだ、人間をしていると言う事を考えれば、死人化した人間とは何か別の行動を取った、と考えられる。
でも、全く思い当たる節は無い。
崩壊してから死人化する期間だってまちまちなのだから、いつどんな状況において、別の行動をしたのかすら絞る事すら不可能に近い。
「まぁ、分かったところで……変化を防げるってわけじゃないし……」
考えるだけ無駄、なのかも。
「ナオさん、ご飯の用意がそろそろ出来るそうです」
「あぁ、分かった…………って、どうした? なんだか、辛そうに見えるけど」
「外、天気が悪いですよね? そうすると足が、痛むんです」
「それなら無理しないで、六条かヒトミに頼むとか、まだスマートフォンは使えるんだし、メッセージするとかで良かったのに」
「いえ、いいんです。何もしないより動いていた方が気が楽ですし、いつ、私達は普通の人と会話が出来なくなるのか分からないので」
「……まぁ、でも、無理はするって。病院、機能していないんだしさ」
「大丈夫ですよ。この痛みは病院に行っても治療出来るわけでは無いんです。せいぜい鎮静剤を貰って帰るくらいでしたから。それに、天気が回復すれば良くなりますよ」
「んー、そうは言うけど……」
「ナオさん、あまり心配されるのは、式葉先輩くらい鬱陶しいので止めてください」
「よし、ユナは大丈夫っ! 僕はもう心配しないからっ! だから、ヒトミの鬱陶しさと同等にするのは止めてくれ……」
次回予告 サイカイ
「親しい人とのサイカイ。それがもし、ヒトでは無くなっていたとしても、あなたはその人を過去のように迎え入れる事が出来ますか? と言う話ではないけれど、未定」
「それでは次回も、崩壊した世界の放課後に会いましょう」