No.005 I tried to talk with the executive committee.
コチ、コチ、コチ、コチ……十六時三十五分。
放課後、空き教室。
初口、紬ナオ。
「……ホント、増えたよなぁ」
「みんなこの町の人達なんでしょうけれど、こうして外を出歩くようになると、こんなにたくさんの人がこの町にいたんだなぁ、と改めて思います」
「お、ユナ」
「みんな屋内じゃなくて、外に出たくなるんでしょうか?」
「引き籠もりを強制的に治すにはいいかもな」
「そしたら、ナオさんにも打って付け、と言う事ですね」
「ユナって大人しそうな割に何気に毒づくよねぇっ?!」
「思ったままを言っているだけですけれど?」
「それで心が挫ける人もいるから気を付けようなっ……主に僕が……」
「善処はしてみますが、期待はしないでください」
「直す気は無さそうね……」
「仕方が無いです。これが私の性格ですから。ところでナオさん。やっぱりゾンビを倒したりしているんですか?」
「ん? あぁ、まぁ……止むを得ない場合は」
「不思議だったんですけれど、もう死んでいる人間を倒した場合、どうなるんですか?」
「ちょっと……いや、普通にグロテスクな会話になるよ?」
「大丈夫です。問題ありません」
「そうか…………結論から言うと、だな。首と胴体を離せば動かなくなるんだよ」
「と言う事は、それ以外。腕だったり足だったりだと、動き続けると言う事ですね?」
「ま、そう言う事」
「頭を潰した場合はどうなるんですか?」
「あぁ、それでもOK。動かなくなるよ」
「死んでいる相手と言うのは、とても厄介ですね」
「だな。ユナはあんなの相手にする必要無いから、心配するなって」
「後述の為、ですよ。知っているのと知らないのとでは、万が一の場合に対応出来る事も多くなりますから」
「……それは頼もしい限りだけど、ユナの体型からすると、武器っぽいモノ振り回しても、むしろ振り回されそうな感じがする」
「そこは振り回す必要の無い、私に打って付けなのがありますから」
「ほほう。それは一体どんな武器、なんだ?」
「ふふ、ずばり……チェーンソーです」
「見かけに寄らずパワフルだなぁっおいっ!」
「でもあれだぞぉ。チェーンソーは返り血で大惨事になる……」
「フルフェイスのヘルメットを装着して、雨合羽を着るので問題はありませんよ」
「新機軸のライダー現るっ?!」
「思ったのですが、仮面ライダーは変身後もバイクに乗りますよね?」
「ん? あぁ、ライダーだし、乗るだろ?」
「なら、変身後もヘルメットを装着する必要があると思うのですが?」
「なん……だと?!」
「じゃないと警察に捕まって、減点された挙句に罰金も取られてしまいます」
「か、仮面の上にヘルメット……めちゃくちゃ被り辛そうね……」
「それならば、そもそも変身後、仮面では無くてヘルメット姿を維持すればいいんですよ」
「変身前にフルフェイス被ってたら、変身後もそのフルフェイスのままって事?」
「ええ。一応仮面ライダーの体裁は保っていますから、問題はありません」
「ユナ…………天才かっ?!」
コチ、コチ、コチ、コチ……十六時四十分。
放課後、空き教室。
初口、式葉ヒトミ。
「ちぇー、つまんないのぉ。ナオとユナ、二人っきりだからえっちな事でもしてるのかと思って来たってのに」
「お前は口を開くと下ネタが出てくるよな……」
「歩く下ネタ製造機とはあたしの事よっ!」
「式葉先輩、それは威張るところじゃないと思います」
「あー、このままじゃあたし、処女で終わっちゃうかもしれなんですけどぉ?」
「……僕を見ながら言うな」
「終わっちゃうんですけどぉっ?!」
「二度も言うな……」
「終わっっちゃうんですけどっっ?!」
「しつっこいよっ!」
「その潔いアピールは、むしろ清々しさすら感じるよね」
「式葉先輩の場合はただのド変態かと」
「いいじゃないのよぉっ! 二、三発くらいいけるでしょっ?!」
「お前はもっと言葉を選んで発言しろっ!」
「欲求不満なんでしょうか?」
「こんな世界だもんね。満たせる事が他に見当たらないんじゃないかな?」
「もう自慰じゃダメなのっ! 満たされないーっ!」
「ちょっと二人ともっ! 傍観者になってないで助けてっ!」
「この際だから相手をしてあげたらいいんじゃないかな?」
「そうですよ。頭はお花畑ですけど、式葉先輩、見た目はいいですし」
「見捨て無いでくれるかなぁっ?! こうなったら、奥の手っ! 場面チェンジっ!!」
コチ、コチ、コチ、コチ……十六時四十四分。
放課後、空き教室。
初口、六条茜。
「絶好のフラグを自ら折るなんて。意気地無しと言うか」
「ただの馬鹿なのでしょう」
「君達ねぇっ! 二次元世界の卑猥なシーンは色々問題になるんだからっ! 何処かの厳しい機関が今か今かとネタに出来るようなコンテンツを待ち構えているんだよっ!」
「ここはリアルで現実の世界ですよ?」
「紬くん、二次元世界が大好きだからと言って、妄想を現実と変えちゃダメだよ?」
「ある意味せっかく、厳しい機関からこの世界を救ったってのにぃっ!」
「実は場面チェンジの間に一悶着ありましたっ! てへっ!」
「じゃねぇよっ! 事の発端はヒトミ、お前のせいだろっ!」
「二悶着目が始まりそうだから、六条先輩、さっさと今日のお題をお願いします」
「そうだね、そうしようか。じゃあ今回は選挙管理委員会、ではどうかな?」
「あぁ、あの極めて鬱陶しい委員会の人達の事ね」
「……ホントに生徒会長だったのか? ヒトミだって生徒会長になる時、選挙管理委員会にお世話になったんだろ?」
「んーまぁ、そうだけどさぁ」
「けど、私たちの選挙管理委員会は多少異常でしたよね?」
「そうよねー。ほら、投票なんて各自の自由でしょ? 投票するにしたって、しないにしたって、個人の問題じゃない? それなのに、投票しないと何処までも追い掛けて来るのよ」
「しつこい、なんてものじゃなかったですよね」
「そうなの?」
「はい。ホラー映画の追跡者の如くしつこいんです」
「確かにそれは異常だな……」
「でも、不愛想だけど、結構美少女だったわよ」
「追い掛けられたいっ!」
「それがストーカー紛いの事でも紬くんなら喜んで受け入れそうだよね」
「さすが可愛いは正義、ですね。どんな危ない行動でも受け入れてくれるおかしな人もいるんですね」
「ユナ、ちくっと僕の事ディスってるよねぇっ!」
「例えばさ、ダイオウイカの着ぐるみを被った可愛い子が追い掛けて来る、だったらどうなのかしら?」
「何故そうなったっ?!」
「ダイオウイカが好きなのよ」
「だからって被らないだろっ!」
「しかもヌメヌメして、ダイオウイカ感がよく出ているんです」
「……え、やだな。さすがにそんなヌメヌメした人には追い掛けられたく無いんだけど」
「じゃあ、タコならどうかな?」
「ほぼ一緒だっ」
「ナオは贅沢ねぇ。そしたら、鎧武者姿ならいいかしら?」
「いや……良く無いだろ?」
「ナオさんの為に、落ち武者でお願いします」
「お願いされませんから……」
「あ、紬くん、どんなに期待してもメイドや魔法少女姿では出て来ないからね」
「それが重要なのにぃっ!」
「こんなのはどうでしょう? メイド服は着ていますが、着ている人が超強力で特別体質のゾンビとか」
「別の意味で怖ぇぇよっ!」
「スタぁぁぁズ!!」
「傘の組織の奴は凶悪過ぎっ!」
「なら魔法少女の服を着ているならいいわけ?」
「服だけ良ければいいってわけじゃないんだってっ!」
「スタぁぁぁズ(ハート)」
「言い方を変えたって絶っっ対捕まりたくないっ!」
コチ、コチ、コチ、コチ……十六時四十七分。
放課後、空き教室。
初口、紬ナオ。
「選挙管理委員会って、その場限りの委員会だろ? 文化祭実行委員とか体育祭実行委員とかと同じで」
「雑用の押し付け合いだよね。立候補なんて絶対有り得ないし」
「そうしてクラスメイト同士の裏切りが始まるわけだよね」
「学級裁判ですね」
「そんな物騒な奴とは違うからっ!」
「いや、でも、似たようなものなんじゃないかな? あの人が良い、この人が良い、自分は理由があるからダメ、じゃあ何も無いあの人なら、とみんなで押し付けあうわけでしょ?」
「目的が物騒じゃないってだけで、いかに自分が逃れるかを、出来る限りの知識を使って回避する。確かに学級裁判と類は同じですね」
「…………僕達はリアルの中で、知らず知らず学級裁判をしていたってわけか」
「先生達はそれをネタに楽しんでいるんですね。あいつがあいつを落としに掛かったとか、あいつは裏切り始めた、とか」
「そんな裏切り合う世界の中で、私達は一年を共にしているんだよね」
「他愛の無い話をしながら、次はどう裏切って貶めようかって、虎視眈々と授業中に考えているのよ」
「授業ちゃんと受けろっ! 普通に有り得そうで怖いからっ!!」
「男子のナオさんには分からない事でしょうけれど、女子なんてだいたいみんなそんな事を考えているんですよ」
「リアル女子怖過ぎだろ……」
「外でたくさんウロウロしている女子だったら、何も考えていないから可愛いものですよ」
「い、いやぁ……さすがにお外の女子は遠慮したいなぁ……」
「ちょー肉食系女子っ」
「それはお前もだろっ! 僕を見る目が完全にハンターなんだけどっ?! と言うか、お前、彼氏の一人くらいいなかったのか?」
「外見は、とてもいいですもんね。式葉先輩」
「ユナ、外見はって何かしら……? なんだか引っ掛かるんですけど……」
「そのままの意味ですよ」
「ヒトミは話すと残念だもんなぁ」
「あたし、話しても素敵女子でしょっ?!」
「素敵女子は、二、三発なんて言わねぇからっ!」
「ま、まかさ……あたしがモテ無い理由って、喋りのせい……だった、の?!」
「気付くの遅っ」
コチ、コチ、コチ、コチ……十六時四十九分。
放課後、空き教室。
初口、紬ナオ。
「あぁ~、疲れたぁ~」
学校は侵入する所が沢山あり過ぎる。
ここの区間は防火扉で防いでいるから侵入される事は無いけれど、侵入を放置させておくわけにも行かない(まぁ、防火扉が電子ロックだった時は驚いた。こんなん使えるかよっ、と焦ったけど、電子ロックの暗証番号をヒトミが知っていた助かった。さすが生徒会長ってとこか)。
だから定期的に”ここから先”の校舎内、移動に使う通路を確保する為、アイツ等を無効化させている。
露霧といた時は、露霧自身が有り得ない強さを発揮してくれていた事もあり、前の学校では大変には大変だったけれど、だいぶ楽ではあった。
でも、今はその露霧はいない。
全面的に僕が一人でどうにかこうにか対応している状況。
格好付けているわけじゃないけれど、やっぱり男である僕がやらなければいけないと思っている。
もし、この場に他の男子がいればきっとこの役目は放棄していたはず……。
今だって正直…………怖い気持ちは変わりないのだから。
「刀……後で研いでおかないと……」
さすがにずっと使っているだけあって、切れ味が何となくだけれど、落ちている事を感じている。
探せば案外、刀って物はあるもので、骨董屋とか博物館とか、それっぽい所からだいぶ搔き集めて予備は思っているよりも大分ある。
それでも、出来るだけ長く使っておかないといけない。
「後でヒトミに、この地域の骨董屋の場所を聞いておくか……」
「紬くん。ご飯だよー」
「ん、分かった」
「何だか疲れてる?」
「運動は得意じゃ無いし、体力も多く無いし、さすがになぁ……」
「夕飯、大丈夫?」
「あぁ、大丈夫……無理してでも食べないと」
「そっか…………」
「言いたい事は分かってるって」
「それならいいんだけど……。でもね、理解は出来ていても、それをしっかりと守って貰わないと……」
「……分かってるよ、大丈夫、ちゃんと分かってるから。生きるってさ、みんなと約束したんだから、僕はやられないって」
「それでも……根拠が無いから心配なんだよ」
「根拠はあるって。みんなと”死亡フラグ”の話しをした時あっただろ?」
「うん、あったね」
「その時、話したじゃないか。僕はギャグ専だからしぶとく生き残るって」
「それが根拠?」
「そそ」
「あーなるほどー」
「ちょっ、ええっ! 納得しちゃうのぉっ?! そこはほらっ、主人公っぽいから信じられないとかさぁっ?!」
「んー、やっぱり紬くんはギャグ専かなぁ。あ、ちなみに今日のご飯は、カツカレーライス」
「マジでっ?! いやぁっほーいっ! カレーの上に、カツ……なんて贅沢なっ! 食欲湧いて来たぁぁああっ! 六条っ僕は先に行くからっ!」
「あの様子だと紬くんは、食いしん坊キャラも含めているから、きっと大丈夫、だよね」
次回予告 キザシ
「それは災いへの合図。親しい人にそのキザシが見えた時、あたなは今まで通り、同じ関係で付き合う事が出来ますか? と言う話ではないけれど、未定」
「それでは次回も、崩壊した世界の放課後に会いましょう」