No.004 I tried conversation at the library committee.
コチ、コチ、コチ、コチ……十六時三十二分。
放課後、空き教室。
初口、六条茜。
「はい、スポーツドリンク」
「ありがとう、助かるよ」
「大変だったみたいだね」
「…………はぁ、一息付けたぁ。まったく……他人に渡るのが嫌だからって、誘き寄せる事無いと思うんだよなぁ」
「理性を保てる人が少なくなって来ているんだね」
「そのくせ知性があるから、うろついている死者よりも数倍危険だよ……」
「紬くん、あまり無理な事は」
「六条、ストップだ。その話は最初にみんなで話した事なんだから、気にしなくていいんだよ」
「でも、今は……露霧さんがいなくなったんだよ?」
「露霧の強さにはずっと助けられていたのは事実だけどさ、露霧からそれなりに対人間への戦い方を教えて貰っていたから大丈夫だって」
「それは死亡フラグって言うんじゃないかなぁ」
「心配し過ぎだよ、六条は。とにもかくにも、先ずは逃げに徹しているし、危険だと思ったら近付かない、様子を見に行かない、正義感出して他人を安易に助けない、フラグが立つ前に折ってるから問題無しだ」
「だといいんだけど、紬くんはいまいち不安なんだよ」
「なら、あたしも一緒に行ってあげましょうか?」
「……式葉先輩は大人しくしていてください。先輩とナオさんが一緒だと、それこそ何が起こるか分かりませんから」
「んー、そうだよねぇ。二人が掛け合わさった時の何が起こるのか分からない相乗効果は、宇宙が一つ無くなるくらい大規模な事態になりそうだし」
「……おい、ヒトミ。なんだか酷い言われようだぞ?」
「え? あたしのせいじゃないでしょ?」
「いや、お前が後からやって来たんだから、どっちかって言うとお前だろ?」
「なら、ナオが後から来なさいよっ」
「先にいた人間にどうやって後から来いって言うんだよっ!」
「タイムマシンでも作ればいいでしょっ!」
「作れたらこんな世界が起こる前に戻ってるわっ!」
「じゃあ、ドリャーモンに頼めばいいじゃない。いつもみたいに咽び泣きながら、うえぇぇん、ドリャーモーンって」
「早くもどうでも良さそうな小さい事が起こってしまいましたね」
「なんていうか、期待を裏切らないのはいいけれど、出来れば裏切って欲しいなぁ」
コチ、コチ、コチ、コチ……十六時三十五分。
放課後、空き教室。
初口、紬ナオ。
「集まったところで、今日の委員会は何にする?」
「図書委員なんてどうかしら? 一番活動をしているとこが分かり易いと思わない?」
「確かにそうですね。お昼休みとか放課後は絶対に委員の人がいますからね」
「…………リアル世界の図書委員なんて……認めてたまるかぁっ」
「紬くんは、どうやら二次元の世界の図書委員へ思いを馳せているようだね」
「六条は知ってるだろ? 僕達の学校の図書委員をっ!」
「あーまぁねぇ、どうしてあんな事になったんだろうね」
「なになに、そんなに変わった事があったわけ?」
「どう言う理由があったのかは知らないですけど、私達の学校の図書委員は、ギャルっぽい子達が担当していたんですよ」
「とても不釣り合いですね」
「だろっ?! 図書委員って言えば、本が好きで奥手で大人しくて、女の子らしくて……なのに、なのにぃっ! 本借りに行くと『勝手に判子押してけばぁ』って……そうじゃないだろっ?! そこはほら『あ、このシリーズ……お好きなんですか?』みたいな会話から、出会いに繋がってさぁっ!」
「ナオさん……涙を流さなくても」
「ナオ、リアル女子には興味無かったんじゃないの?」
「リアルだとしても、そのキャラクターに寄るのっ!」
「紬くんは相も変わらず、『時と場合に寄る』だよね」
コチ、コチ、コチ、コチ……十六時三十八分。
放課後、空き教室。
初口、宮原橋ユナ。
「本当にショックだったんですね……」
「くそぉ、ちくしょぉ…………特別好きでも無い本を借りに行ったってのに……」
「それはそれで迷惑な話だよねー」
「委員会なんてさ、結局面倒な事を押し付け合うだけの雑用係じゃない。だから、本が好きだからと言って図書委員になる子なんていないわよ」
「委員会に取られる時間を、読書の時間に充てる事も出来ますからね」
「僕の思う理想の図書委員は、そんな打算的な考えを持ってなんていないんだよっ」
「それは勘違いで思い過ごしだよ、紬くん。本が好きで本を良く読む子であれば、尚更の事利己的に考えられるんじゃないかな」
「そんな夢も希望も無い事を言わないでくれぇっ!」
「リアル女子に興味が無いって言いながら、リアル女子に自分の理想を求める……ナオ、面倒くさい生き方してるわねぇ」
「ほっといてっ!」
コチ、コチ、コチ、コチ……十六時四十分。
放課後、空き教室。
初口、六条茜。
「それじゃあ、斬新な図書委員を考えてみようか」
「例えば本を借りに行くと、いくらかの寿命を吸い取られてしまう」
「命掛け過ぎるだろ……」
「織田信長を借りると五十年程かしら?」
「取り過ぎだってっ! いや、そもそも織田信長なんて借りるヤツいる?!」
「いるよー。中身はイケメンBLものだからね」
「ぶふっ! そんな本、学校の図書室に置いちゃダメだってっ!」
「私達の学校で、年間借用率のトップだったんだよ?」
「……僕の学校、どれだけBL好きがいたんだよ」
「じゃ、次あたし! 本を借りに行くと、全校生徒に放送で伝わっちゃう」
「借り辛ぇぇえっ!」
「二年C組、紬ナオくんが借りた本は『お兄ちゃん、大好き』になります、とか? うっわ、ナオの変態っ!」
「僕は二年A組だし、そんな本置いて無いよっ!」
「放送されるのに借りるって、物凄い勇者ですねナオさん」
「だから借りて無いし、そんな本も無いからっ!」
「次は私かな。えっと、本を借りるには図書委員の人を倒さないといけない」
「どうやって手を出せとっ?!」
「無抵抗だとぼこぼこにされちゃうから、ちゃんと戦った方がいいよ?」
「……何、その屈強な図書委員さん」
「あぁーっと、ナオ選手の肩に、モンゴリアンチョップが刺さったーっ!」
「ヒトミ、チョップ好き過ぎだろ……」
「そしてふら付いているのを逃さず…………高角度ジャーッマンッ! からの、ワン、ツー、二・九っ! 二・九で返したーっ!」
「人間がフォール取ってるのに、二・九なんて数値出るかよっ」
「両者立ち上がり……ジャーマンのダメージによって足がおぼつかないナオに…………シャイニングウィザードが炸裂ぅっ! 沈んだぁっ! ここでタオルが投げ込まれましたっ! 残念無念、ナオ選手、『お兄ちゃん、大好き』を借りられませんっ!」
「やっぱりその本が借りたいんだね」
「そのタイトルから離れようねぇっ! にしても、僕……マジでぼっこぼこじゃんよ……。高角度ジャーマンとかシャイニングウィザードとか、図書委員じゃなくてレスラー志望でもした方がいいっての……」
「こんなのはどうでしょう? とっても不愛想な図書委員がいて、その人を一発芸で笑わせないと借りられない」
「途轍もなく難易度高そうだな……」
「コミュ障のナオにはキツイでしょうね」
「ちょっと待て。友達は確かにいなかったけど、コミュ障とは違うっ。そこ、大切だからなっ!」
「ほほう、なら笑わせてみなさいよ」
「よし、じゃあ、まずは両腕を上げて貰おうか。とびっきりの奴をお見舞いしてやんよ。一年分くらいの笑いをヒトミにプレゼントしてやる」
「それはそれは期待させて貰いましょー。はい、上げたわよ? で、どうすればいいのかしら?」
「そのまま…………そして、こうだっ!」
「ぷっ、うはっ、うははははっ! あはっ、止めっ! 止めてぇぇっ! 腰は、こっ、腰は弱いのよぉっ!」
「ほほう、こっすぃが弱いのかっ! ここかっ、ここがいいのんかっ?!」
「ここ、こっすぃって! ぷーくすくすくすっ! うひゃひゃひゃぁっ! やっ、やめれぇっ! もう許してぇっ!」
「美少女の欠片も無い顔の崩れっぷりですね」
「そうだね。ファンがいたらがっかりするレベルだね」
「らめぇっ! ホント、らめなんらからぁっ! あふぅ、あふふふ、あはっ! はぁっはあっ!」
「何だか呼吸が嫌らしくありません?」
「ヒトミ先輩、感じ始めているのかもだね。紬くん、なかなかのテクニシャン?」
「二次元好きであるイメージトレーニングの賜物、なんでしょうか」
「たぶんね。妄想力だけは、普通の人を遥かに凌駕するだろうから」
「コラーっ! 本人目の前にして言わないでくれるかなぁっ?!」
「はぁ、ふぅ……はぁ……。危うく笑い死ぬ所だったじゃないのよぉ」
「笑って死ねるなら幸せじゃないか」
「まったく……腰は弱いって言ってるのに…………。パンツ変えなくちゃいけなくなったじゃないのよぉっ!」
「何っ、ヒトミ……お前まさか、漏らしたのかっ?!」
「違うわよっ!」
「式葉先輩はシモネタを平気で言うくせに、濡れ易い、と言う事でしょうね」
「意外だね」
「なんだかんだ言いながらも、まだまだヒトミは子供って事だな」
「うるっさいわねっ! あんたなんか、あたしのパンツ被ってはぁはぁ言ってればいいのよっ!」
「ふぐぐぐっ…………そう言いながら脱いだパンツを被せるヤツがいるかよっ!」
「ナオのへんたーいっ!」
「目の前でパンツ脱いでるヤツに言われる筋合いは無いっ!」
「何ぉぅっ! あんたなんかには一生本を貸して上げないんだから。借りたければ、お金を払ってでも借りに来なさいよっ」
「料金取るなら書店で買うわっ!」
「どうせエロ本でしょー?」
「買わねぇよっ!」
「図書室には置いていないわよ?」
「当たり前だっ!」
「…………」
「…………」
「六条さんっ! そしてユナさんっ! 二人揃ってそんな疑う様な視線を向けないでくれるかなぁっ?!」
コチ、コチ、コチ、コチ……十六時四十六分。
放課後、空き教室。
初口、紬ナオ。
「…………」
今日も外の風景は相も変わらず。
人が…………減る事は無い。
それはそうだ。
死んでも動き出すのだから、数が減るなんて事は起こり得ない。
きっと何処か違う場所でも、僕達のようにこうして籠城して生き永らえている人もいるだろう。
けど、それだって何時まで続くのかどうか……。
それに……なんなんだろうな、あのゾンビって呼ばれる奴ら。
生きている人間を襲うわけだろ?
それはまぁ、そういう習性だからって事なんだろうけれど、襲われた後の人間って思ったよりも痛んでないって言うか、傷付いていないって言うか。
一噛みしたら終わり、なのか?
そもそも噛んでいるのか?
傷付けたらそれで終わり、だとか?
ホント、分からない。
僕が知ってるゾンビってのは、食欲を満たす為に、生きている人間を襲うってのがセオリーだ。
そのセオリー通りなら、襲われた人間は相当痛んで五体満足でなんていられない。
だって、あれだけのゾンビがいるんだぞ?
人間一人くらい……食べ切る事だって、簡単なはず……それなのに。
「ったく、ゾンビって曖昧過ぎるっての……」
さすがに相手がゾンビだからと言っても、殴り倒すのは抵抗があった……。
感触だって…………とても、気持ちが悪かった……。
ゾンビ……元人間を殴った時の感触って分かるか?
”ぐしゃ”
これ以上無いくらい適切な言葉。
そして、分かるんだよ……最近ゾンビになったのか、それとも、もう随分経っているのか。
ゾンビ化して間もない場合は、ぐしゃ、の感覚が全く違うんだよ……。
金属バットやシャベル、モップ……アイツ等を撃退する為、殴打する武器として選んでいた最初の頃は……よく吐いたっけ。
今はもう撃退する武器が”刀”になったから、あの感触を感じる事は無くなったけれど、それでもまだ鮮明に記憶として残っている。
いつか……いつの日か、僕は…………顔見知りや知り合い、もしかしたらその中に、彩瀬名、リカ、露霧が入っているのかもしれない……。
僕はその時、何の戸惑いも無く…………退ける事が出来るだろうか……。
前の学校で『もし、お互いを傷付ける存在になってしまったら、その時は、遠慮するな』と話し合って決めた。
全くさ……どっちが楽なんだろうなぁ。そっち側の住人になった方が、何も考えずに済むから、楽……になるのかな……。
「僕には、分からないよ……」
次回予告 ケツベツ
「相手が望む中にケツベツの選択があるとしたら、あなたはそれを叶えて上げる事ができますか? と言う話ではないけれど、未定」
「それでは次回も、崩壊した世界の放課後に会いましょう」