No.003 I tried to talk with the broadcast committee.
コチ、コチ、コチ、コチ……十六時二十五分。
放課後、空き教室。
初口、宮原橋ユナ。
「あ、ナオさん。帰って来ていたんですね」
「うん、ついさっき」
「お疲れ様でした。外の様子はどうでしたか?」
「相変わらずだよ。死者のゾンビの方が怖いのか、それとも、生きている人間の方がよっぽど脅威なのか。訳が分からなくなって来る」
「そうですか。私はこんな事態になってから、ほとんど外には出ていませんから、実の所、状況があまり分からないんですよ。食料や水分は式葉先輩が何とかしてくれていたので」
「そっか。あんな性格だけど、案外面倒見がいいヤツなんだなぁ」
「私の足がちゃんと動けば、式葉先輩の事も手伝えるんですが…………」
「仕方ないって。足が不自由なのは、ずっと前からって事なんだしさ」
「それは分かっているんですが……もし、私がいなければ式葉先輩はもっと自由に動けるはずなんですよ」
「そうでもないさ。こんな世界で独りで生きて行くなんて事をしたら、気が狂ってしまう。その末路が、外で生きた人間同士、争いをしている奴らなんだよ。独りだからさ、自分さえ生きていければそれでいい、そんな結論に至ったんだと思うよ。僕だって、六条や、前の学校で一緒だった知り合いがいなければ、きっと、一線を越えているはず。まぁ、それにさ、ヒトミの場合、案外こんな世界であっても、不謹慎だろうけど、楽しんでいるんじゃないか?」
「おほー、ナオの癖に良く分かっているじゃない」
「式葉先輩」
「よく分からないけど、ユナは気にし過ぎなのよ。悔やんだってこの世界が救われるわけじゃないんだから、この世界を面白おかしく生き抜いていかないと、ねぇ、ナオ」
「だな。知り合いがあのゾンビの中にいる事もあるだろうけど、悔やむくらいなら、前向きに生きた方がいいって」
「宮原橋さん。二人の話しは、話半分で聞いておいてね。何よりこの二人は変人さんの部類だから」
「こんなのと一緒にするなっ!」
「これと一緒にしないでっ!」
「お二人とも、素晴らしいくらいのシンクロです」
コチ、コチ、コチ、コチ……十六時二十八分。
放課後、空き教室。
初口、六条茜。
「今日は放送委員会で会話をしてみようかなって思うんだけど、どうかな?」
「放送委員ってアクシデント多いよなぁ。マイクOFFにしないまま会話して、それ、マズイだろうって内容の物が全校生徒に知れ渡ったりさ……」
「紬くんはそのアクシデントに巻き込まれたもんね」
「あぁ……あれは酷かった…………」
「楽しそうな話じゃないっ何があったの?!」
「同じクラスの放送委員の子だったんだけど、紬くんの事が気になって仕方が無い、そんな会話が漏れていたんです」
「ほほう、それはそれはっ! で、その後、どう続くのかしらっ?!」
「お前……楽しそうだな……こっちは散々だったんだぞ」
「だから楽しいんじゃないのっ! ナオの会話をしているって時点で、ぜぇぇぇったい良い事じゃないものねー」
「そのねじ曲がった性格っ今直ぐ直せっ!」
「無理無理っ! 女子は年齢関係無く、他人の不幸話しが大好きだからねっ!」
「それで、六条先輩、ナオさんはどうなったんですか?」
「別にどうもなってないから……」
「それでね、何故気になるのかって確信なんですけど、その子水泳部に所属していて『二次元オタクって水着好きなんでしょ? 狙われていそうで怖いんだよね』と」
「今思い出しても、腹が立って来るっ! くあぁぁあっ! お前の水着なんてこれっぽちも興味ないわぁっ! オタク舐めるんじゃねぇっ! リアルの人間に興味何て無いんだよぉぉっ!」
「あっはははははっ! あんたらしいオチじゃないのよっ!」
「何て言うか……まぁ、ナオさん、お察し致します」
「うはははっ! あはっ、あーっははははっ! ウケるっ! ちょーウケるんですけどおぉっ!」
「ヒトミっ、お前は笑い過ぎだっ!」
「いや、だってさ、あっははははっ! あまりにもそれっぽいオチだったからっ! それが全校生徒にっうひー、お腹痛いんですけどぉっ!」
「ヒトミなんて……笑い死んでしまえぇぇぇっ!」
コチ、コチ、コチ、コチ……十六時三十二分。
放課後、空き教室。
初口、式葉ヒトミ。
「あは、ははははっ! あー、お腹痛い、うひひひ、死ぬぅ、死んじゃうぅっ!」
「おい……コイツ、一発やっちゃっていい?」
「い、いい一発、なんて……あははっ! ナオの、うひひひ、すけべー!」
「何だか私も式葉先輩にお見舞いしたくなって来ました」
「オッケー、同性でも、あたしは受けるわよっ!」
「……よし、もうヒトミは無視して話を続けよう」
「でも、私達の学校では、放送委員会はありましたけど、大した事はしていませんでしたよ? 本当、定期連絡程度の事しか、活動をしているところを見た事が無かったですから」
「んー、それが普通なのかもね。うちが特殊だったってだけ、なんだよね」
「どういった内容の放送をしていたんですか?」
「大好きなUMAを熱く語るコーナーとか」
「あれ、なんだったんだろうなぁ……」
「結構人気だったんだけどね。語る人があまりにも熱いから、お昼休みに放送するなーって苦情が入ったらしいの」
「……お昼休み中に未確認生物の話しをされても、なんだか食欲が失せそうです」
「後は、チョップの種類コーナーもおかしな企画だったよね」
「ちょっぷ、ですか? プロレス技の?」
「そうそう、袈裟切りチョップとか、水平チョップとか」
「くらえーっ、モンゴリアーン……ちょっぷっ!」
「ぐえっ! 普通に痛えぇよっ!」
「笑いは収まったんですか?」
「ええ、復活よっ!」
「永劫的に復活しなくていいからっ! 復活の呪文、間違えろっ!」
「脳天直撃……セガサターン!」
「くっ! 二度も食らうかぁぁっ!」
「と見せ掛けて、逆水平っ!」
コチ、コチ、コチ、コチ……十六時三十五分。
放課後、空き教室。
初口、紬ナオ。
「くっそ…………普通に食らってしまった……」
「チョップリアンのあたしに、避けられるようなチョップ技なんて持ち合わせていないのよ」
「…………さて、放送委員会だったな」
「ちょ、ちょっとぉ、スルーだけは止めてよっ! 悲しいでしょっ! 寂しいでしょっ! 寒いでしょっ!」
「お前一人だけな」
「みんなでさむーい思いしましょうよっ! ねぇったらねぇっ!」
「あぁっ、うぜぇぇっ!」
「掛かったわねっ! うざいと思わせてかまわせる作戦にっ!」
「なん……だと?! なんて高度なテクニックなんだっ?!」
「式葉先輩一人でも鬱陶しいのに、ナオさんが参加しただけで、その鬱陶しさが目に余る程になりますね」
「この二人は出会ったらダメだったのかもだね。もしかしたら、この出会いがあったからこそ、世界は滅びたのかも」
「滅びたのは前からだっ!」
「予定調和ってやつかな」
「その使い方間違ってるからっ」
「そんな事無いよ。宇宙は互いに独立したモナドからなり、宇宙が統一的な秩序状態にあるのは、神によってモナド間に調和関係が生じるようにあらかじめ定められているからなんだよ?」
「…………全然意味が分からないんだけど」
「え? ナオ、分からないのー? そんな事も知らないなんて、ぷーくすくすくすっ!」
「……絶対解ってないよな?」
「でしょうね。場当たり的に生きているような式葉先輩に、哲学を解いても時間の無駄ですから、いちいち突っ込むのは止めておきましょう」
「その行動こそ、予定されていた予想通りの結果、予定調和ってやつだよね」
「上手く纏めましたね。さすが六条先輩です」
「予定調和の件を作って、会話を根本的にずらした張本人だけどな……」
コチ、コチ、コチ、コチ……十六時三十七分。
放課後、空き教室。
初口、紬ナオ。
「放送委員についての会話が全然進んで無い気がするんだが……」
「やっぱりさ、せっかく放送するんだからもっとこう、エキサイティングな放送が欲しわよね」
「式葉先輩が考えるのは、嫌な予感しかしないんですけど……例えば?」
「ランチ実況。毎日適当に誰かのランチを実況生中継するのよ」
「それ、忙しないお昼になりそうだな……」
「おぉっと、A君、B君、C君揃ってまずは白米から行ったーっ! これは日本人の鑑っ! 誇りですっ!」
「私もまずはご飯かなぁ」
「日本人の鑑、そこかしこにいるじゃん」
「なんとそこへ、お米神のD君が緊急参戦っ!」
「お、お米神っ?!」
「さすがのお米神の登場に、A君、B君、C君が協力体制っ! ここで必殺のデルタアタックが炸裂っ!」
「おい、必殺技が登場してるぞっ?!」
「と思いきや、お米神のD君、それを意図も簡単に振り切ったーっ! 鑑っ、誇りっ! お米神のD君っ! 人呼んで米D-っ!」
「ヨネディーって…………ネーミングセンス、酷いですね……」
「全くだな……」
「だがしかしっ! 三人協力攻撃のデルタアタック! じわじわと効果が発動っ! ヨネディー、お米を口へ運べないっ! さぁどうするっ?! どうするヨネディー!」
「ヨネディー、定着しつつあるね」
「D君に取っては不本意だろ……」
「んんっ?! ヨネディーが箸を置いた?! 諦め…………いや、諦めていませんっ! ヨネディーここでお米から……コッペパンへ転向ーっ!」
「おいぃぃっ! お米神だったんだろ?! 鏡と誇りは何処へ捨てちゃったのっ?!」
「神の名が泣いているでしょうね」
「そして、一気にコッペパンを口へほうばるっ! これは『米が無ければパンを食べればいいじゃないっ』精神でしょうっ! ちなみにどちらも炭水化物っ、炭水化物ですからっ!」
「そこ二度言うところなのかなぁ?」
「……言う必要無いだろ」
「みなさんもお米が無い時はパンをっ! ぜひともパンをほうばってくださいっ! 生徒会長のあたしと約束だぞっ!」
「職権乱用ですね」
「そして紬くんは、『だぞ』の可愛さに悶えだしたんだね」
「くそぅっ! ヒトミにきゅんきゅんしちゃったじゃないかぁっ!」
「このままでは、A君、B君、C君はランチが進みませんっ! デルタアタックを解除しない事には、お昼休みが終わってしまいますっ!」
「……いったいどう言うルールなんだ?」
「たぶん、いかに早く食べるか、なんじゃないでしょうか?」
「え? そしたらヨネディーはパンなんて食べないで、おかずを食べればいいと思うんだけど。違うかなぁ?」
「さぁ、早くもパンを軽々三つ平らげたヨネディー」
「食い過ぎだろっ!」
「ここでまだ開けていなランチボックスの蓋を開けたその中身は…………ご飯っ、ご飯がでたぁぁぁあっ!」
「そっちにもご飯あるだろっ?!」
「デルタアタックで食べれないご飯だよね」
「そしたら今開けたご飯だった食べられないのでは?」
「開けたばかりのご飯を……一気に口へっ!」
「なん、だと?! デルタアタックはどうしたっ?!」
「えーっと、今情報が入りました。ヨネディーが食べているあのご飯は……なんとおかずっ! おかずだそうですっ! もう一度言います、あのご飯は……おかずっ!」
「な、なんだってー!」
「ご飯はおかず、だね」
「じゃあ、ヨネディーさんのおかずとなるご飯はどちらに?」
「……あのご飯がおかずって事は、全てが…………ご飯、と言う事かっ?!」
「さすがお米神っ、ご飯をおかずにご飯を食べるっ! これこそがお米神たる所以っ!」
「いや、さっきパン食べたじゃんっ!」
「三つもね」
コチ、コチ、コチ、コチ……十六時四十一分。
放課後、空き教室。
初口、紬ナオ。
「…………」
空き教室の窓から、夕暮れの外の世界を見る。
ヒトミ、ユナと同じ制服を着ている人間では無い、人の姿をしたモノ。
あの中に、ヒトミとユナの知り合いもいるのかもしれない。
僕はすでにその可能性がある事を知りながら、何体かの死者を……殺した。
いや、すでに死んでいるから、動けなくした、と言うべきなのか。
以前、六条とリカの二人が揃った時に『ゾンビ映画における選択武器』の会話をした事があったけれど、リカがあの時『武器なんて。骨董品屋で刀の二、三本奪ってくればいいのよ』と言っていた。
だから僕はその次の日、日課の食料確保と共に、自分の町にある骨董品屋へ行って、四本の刀を一緒に持ち帰って来た。
「ホント、これ以上無いくらい良い選択だったよ、リカ」
名刀なのか分からないけれど、刃こぼれ一ついまだに無いのだから、ゾンビの俳諧する世界において、刀は最強の武器なのかもしれない。
「紬くん、ご飯だよー」
「あぁ、ありがとう。さて、今日のご飯は?」
「ご飯の上に、ご飯を乗せたご飯」
「ヨネディーネタを引っ張りだすな……」
「冗談だよ。今日はご飯と冷凍シュウマイをチンしたメニューだよ。二人とも待ってるから行こう?」
「だな。早く行かないと、ご飯だけしか残っていなそうだし……さすがに僕はお米神にはなれない」
「遠慮しなくてもいいよ? おかずにご飯が欲しいなら、出してあげるからね」
「全力で遠慮するわ……」
次回予告 ゼンイ
「それは本当に本心からのゼンイだと、あなたは信じる事が出来ますか? その裏に隠された真実が悪意である事に、あなたは気付くことが出来ますか? と言う話ではないけれど、未定」
「それでは次回も、崩壊した世界の放課後に会いましょう」