No.002 I tried to talk at the Student Council.
コチ、コチ、コチ、コチ……十六時三十分。
放課後、空き教室。
初口、六条茜。
「今日もいい天気だねー。ね、紬くん」
「あぁ、もう夕方だけど、ホント快晴だなぁ。相変わらずゾンビさん達は増えているっぽいけど」
「何処から来て、何処へ行くんだろうね」
「……いや、何にも考えて無いだろ。死んでるし。今だって、ほら、当ても無くウロウロしてるだけだしさ」
「そうだねー。考えていないのに、どう言う意図があって動いているんだろうねー。同類同士は襲わない理屈も良く分からないし」
「アイツ等はアイツ等同士、仲間意識でもあるのかも…………」
「おっはよー、お二人さん」
「ヒトミ先輩、おはようございます」
「もうそろそろこんばんはだぞ、ヒトミ」
「別にいいのよ。あたしの生活はこれから開始なんだからっ! 二人は何してたの? あ、もしかしてえっちな事でもしてた?」
「お、お前なぁ…………」
「食欲も満足に満たせない、睡眠欲はいくらでもこの世界なら満たされる、後他に欲求を満たせる事と言ったら、えっちな事しか無いじゃない、ねー?」
「そうですね」
「六条……ヒトミの言う事に乗っかるのは止めるんだ…………」
「あたし、実物って見た事無いのよねー」
「…………おい、僕を見るのは止めろ」
「無いのよねー。大事な事だからもう一回言ってみた」
「だからと言っても、何もしないから……」
「えー、いいじゃないのよぉ。減る物じゃないんだし。あ、もしかして……こんな、だとか?」
「その親指よりはあるわっ!」
「ちょっとあかねっち、聞いたっ?! ナオの〇〇〇〇、これよりあるってっ!」
「普通に言うなよっ!」
「え? 言うなって何を? 何処の事? 〇〇〇〇?」
「だーはっ! 平気な顔して二回も言うなっ!」
「大事な事だから、二回言ってみたのよ? 恥ずかしがる素振りでもしながら言えばいいわけ? でも、こんなの普通よね。ねー? あかねっち」
「んー、そうですね。女の子同士なら普通に会話しますよねー」
「マジかっ?!」
「何? 男子って好きな子の会話をしながら、〇〇〇見たいとか言わないわけ?」
「言うかっ!」
「嘘ーっ! あたし達なんてしょっちゅう言ってるのに」
「ヒトミ先輩、紬くんは友達がいなかったから、会話だって満足に出来なかったんで、聞かないで上げて下さい」
「そう言う優しさは心を抉ってくるんだよ!」
「ナオ、寂しい学生生活を送っていたのね。〇〇〇〇とか〇〇〇とか言う事が無いなんて」
「そんな言葉が出てるのが異常なんだっ!」
「異常じゃないわよ。普通、至ってノーマル。ねぇ、ユナもそうじゃなかった? 〇〇〇〇って女子同士なら平気で会話していたわよね?」
「ええ、まぁ、そうですね」
「……ユナ、お前は、お前だけは、僕が思っている女子像だと思っていたのに」
「ナオさんは理想が高過ぎるんじゃないでしょうか?」
「紬くんの場合、女子はトイレにすら行かない、なんて思っているんだろうね」
「それは無いからっ!」
「ナオは知らないだろうけど、あまりにも暑い日なんて、女子はノーパンで過ごしているのよ?」
「…………」
「あのぉ、紬くん。私の下半身をジッと見るのは、ちょっと止めて欲しいかなぁ」
「でも、自宅で自分の部屋にいる時なんかはしませんでしたか?」
「あたしはしてた」
「まぁ、そうだねぇ。たまにしていたかなぁ」
「…………」
「だからね、紬くん。私の下半身をジッと見るのは止めてくれないかな? ちゃんと穿いているし、期待には応えられないよ?」
「たぶんナオさんは今、脳内補完をしているのだと思います」
「こんな世界になっても、やっぱりえろと言う欲求の前には、人間、逆らえないのよ」
「そこで私が紬くんの視線を一身に受けるのは、遠慮したいですけど」
コチ、コチ、コチ、コチ……十六時三十四分。
放課後、空き教室。
初口、六条茜。
「この教室って、生徒会と風紀委員が一緒なんですね」
「おー、さすがあかねっち。よく気付いたわね。うちの学校は生徒会と風紀委員が一緒だったの」
「へぇ、珍しい学校だね」
「生徒会と風紀委員がくっついて、ものすっごい権力があって、先生達ですら手に負えない、なんて事になってたんじゃ……」
「いいえ、そんな事は無かったですよ。何処の学校と同じように、詰まるところ雑務が中心でしたから」
「……え、そうなの…………なんか拍子抜け……」
「ナオは二次元に毒されてるものねー」
「けれど実際、紬くんが思ってるような生徒会だったり風紀委員があったりしたら、どうなっちゃうのかな?」
「恐怖心を与えるくらいの影響力があるって事ですよね? 行動が目に余ると退学処分とか」
「ナオ、どうなのかしら? ユナの言う事って二次元ではあり得るものなの?」
「有り得ると言うか……よく有ると言った方がいいくらい。まぁ、だいたいはその後、色々あって仲良くなってるんだけどさ」
「凄い話だよね。退学処分の決定権まで生徒が持っているって」
「本当にそんな事になっていたら、学校の体制崩壊してますよ」
「実権を掌握しているってのに、先生達からは絶大な信頼を寄せられていて、何でもまかり通る設定になってるんだって。だから崩壊してるなんて事は決して無いんだよ」
「生徒からは猛反発があるんじゃないのかな?」
「いやぁ、それがさ、何を言い渡されるか分からないから逆らえないんだって。せいぜい陰口を言うくらい」
「けど、取り締まれる事ってそんなにたくさんあったりするかしら?」
「ヒトミは即目を付けられるだろうな……」
「なんでよぉ?」
「放送禁止用語をあれだけ連呼すれば当たり前だっ!」
コチ、コチ、コチ、コチ……十六時三十八分。
放課後、空き教室。
初口、式葉ヒトミ。
「じゃあ、何回までなら大丈夫だと思う?」
「やはり、仏の顔も三度まで、なので三回まで、じゃないでしょうか」
「ええっ! あたし十分後には退学処分されちゃうじゃないのっ!」
「はやっ! 言い過ぎだろっ!」
「だってえろ同人見てると、たくさん出て来るワードだし」
「見るなよっ! その前に声に出して読むなっ!」
「と言いながらも、心なしか嬉しそうに見えるのは、気のせいじゃない、よね」
「そうですね。突っ込み方のニュアンスがとても嬉しそうに聞こえました」
「ぷーくすくすくすっ! ナオのえっちー、すけべー、ヒキヒートー」
「ヒキニートは全く関係無いだろっ!」
「どうなのかなぁ? 学校には居るけれど授業受けているわけじゃないし、だいたい校舎内に籠っているし、その通りなのかも」
「ナオさん、ヒキニートは卒業すべきですよ?」
「みんなも同じような生活してるしヒキニートじゃんっ!」
「でも、可愛いは正義だから、ヒキニートでもいいのよ」
「ぐぬぬぬ…………み、認めたくは無いが、認めざるを得ないから悔しいっ! でも、ヒトミっ! お前は喋ると残念美少女だからなっ!」
「でも、ちゃんと美少女である事は認めているんだね」
「可愛いは正義、には逆らえないって事ですね」
コチ、コチ、コチ、コチ……十六時四十一分。
放課後、空き教室。
初口、宮原橋ユナ。
「回数は三回だとして、理由にはどんなものがあるのでしょうか? 定番で言えば、遅刻とか?」
「こわーい女子生徒の風紀委員がいてさ、朝見張ってるのがよくあるパターンだ」
「何だか詰まらない理由よね。例えばさ、一日の内に『先生』と三回言ったらリーチが掛かるなんてどうかしら?」
「目を付けられるような悪い事してないだろっ!」
「それは大変ですね。呼ぶ時に困りそう。佐藤先生を三回先生と言ったら、以降『Mr.佐藤』って呼ばなくちゃいけないよね」
「え? 佐藤Teacherじゃダメ?」
「式葉先輩。英語で呼ぶ時は『Mr、Mrs、Msの後に苗字』になるんですよ?」
「そ、そそうだったわねっ! うん、そうだったわっ!」
「…………」
「ヒトミ先輩の今の態度だったら、いつもならツッコミを入れる紬くんが何も言わないって事は、ヒトミ先輩と同じようにTeacherと呼ぶんだろうなぁ、って思ってたわけだよね」
「探偵のようにぐうの音も出ない説明は要らないんだよっ!」
「……ナオ、あんた」
「僕の肩にそっと手を乗せていかにも、自分は知っていたアピールするなっ!」
「し、知ってるって言ってるじゃないっ!」
「式葉先輩、ちなみに大学の先生はどう呼ぶのか知っていますか?」
「ちょっとユナ後輩…………そこはもういいんじゃないかしら……?」
「……ヒトミ、お前」
「ナオに憐れみを受けるなんて一生の不覚っ!」
「えっと、ちなみに『Professor鈴木』になるからね」
「六条……今、一体誰に説明したんだ?」
「ん? そこはほら、察して貰えると嬉しいと言うか助かると言うか」
コチ、コチ、コチ、コチ……十六時四十四分。
放課後、空き教室。
初口、六条茜。
「”あ”を三回発言したらリーチ」
「全生徒即リーチだよっ!」
「その代わり、”ほ”を三回言ったら一回分免除されるの」
「生徒会や風紀委員総出しても見張っていられないだろっ!」
「お互いに数えていて、後で告げ口しちゃうのよ」
「そんな殺伐とした学校へ入学したく無いっ!」
「告げ口した人は三回分言ってもいい回数がプラスされる、と言うのはどうでしょう?」
「あ、宮原橋さん、良い事言うね」
「何処がっ?! みんなが知り合いを売る為に目を光らせているって事だろっ?! 嫌過ぎるっ!」
「いいじゃないの。ナオ、友達いなかったんだから、罪悪感も無く告げ口し放題じゃない」
「友達がいないから真っ先に僕は潰される側なんだよっ!」
「ナオさん…………私は一応後輩ですけど、友達として付き合って上げますね」
「じゃあ、一応私もそう言う関係でいいよ」
「あたしは〇フレでよろしくー」
「一応って何っ?! それに最後の全く意味が違うだろっ!」
コチ、コチ、コチ、コチ……十六時四十六分。
放課後、空き教室。
初口、式葉ヒトミ。
「ね、あかねっち。ナオって今までもこんなだったわけ?」
「そうですね。今までもずっとこうですよ」
「要するにナオさんは総ツッコミ係だった、と」
「ナオ、あなた…………どれだけの女の子に突っ込んで来たのよ。ヒキニートのくせになかなかヤるじゃない」
「ヒトミの発言は意味が深過ぎるんだってっ!」
「それなら紬くんだけ、三回ツッコミをしたらリーチ、でどうかな?」
「数行もしないうちに僕リーチになっちゃうじゃんっ!」
「三回かぁ…………凄いわね。たった三回でイっふぐぐぐぐ」
「式葉先輩、少しは自重してください」
「ユナ……ありがとう。僕の代わりに突っ込んでくれたんだな」
「いえ、私には付いていないので突っ込めないですよ」
「お前もそう言うキャラだったのっ?!」
「あぁ、でも、おもちゃを使えばいけますね」
「いけますね、じゃないってっ! ヒトミみたいになっちゃダメだっ!」
「仕方ないなぁ。それなら、私が宮原橋さんの代わりをしてあげるからね。おもちゃってのは必要になるけど」
「優等生なんだから、六条は特にそう言う発言禁止だっ!」
「ナオさん、すでにリーチが掛かりましたよ?」
「…………だ、誰のせいだと思ってるんだよ」
コチ、コチ、コチ、コチ……十六時五十分。
放課後、空き教室。
初口、紬ナオ。
「く……何だかとても疲れた」
「そりゃあんだけ、あたしやあかねっち、ユナの三人へ一人でツッコミまくっていれば疲れるでしょ? いやはや、若いって素晴らしいわねー」
「ヒトミが発言すると何でもかんでもえろく聞こえるから発言禁止だっ!」
「何よっ! えろく聞こえるように言ってるんだから、そんなの当然じゃないっ!」
「ならせめて六条とユナを巻き込むのは止めろっ! このえろ魔王っ!」
「あたしはえろ魔神よっ!」
「神だろうが王だろうが似たようなもんだっ!」
「ナオなんてヒキニート魔王じゃないのよぉ!」
「あぁっ?! 魔王なんてやっすい存在じゃないっ! 僕はヒキニート魔神だっ!」
「どっちも同じでしょぉっ?!」
「六条先輩」
「何かな宮原橋さん」
「この二人、世界が崩壊する前、同じ学校じゃ無くて良かったですね」
「そうだねー、全校生徒まで巻き込みそうだもんね」
「巻き込む元凶はヒトミ一人だってっ! 僕は絶対周りを巻き込まないっ!」
「まぁ、それはそうだよ。だって、ヒトミ先輩、この学校の生徒会長をしていたらしいからね」
「……え? マジで?」
「ふふふふっ、それがマジなのよっ! どう、参ったかしらっ! 全校生徒はあたしの言いなりっ! 下僕っ! 下部っ! 配下っ!」
「ユナ…………こんなのをどうして生徒会長に選んだんだ? ダメだろ?」
「たぶん、学食に有名スイーツ店のシュークリームを安く導入する、と言う公約があったからだと思います。全学年女子から絶大な支持を会得したようなので」
「やっぱりダメな選挙だっそれっ!」
「ふっ、勝ったモノ勝ちよっ! なんとでも言えばいいわっ! ほーっほほほほ、うはーっはははっ……わーっははははゲッフ、ゲフンゲフン」
「式葉先輩、慣れない高笑いなんてするからそうなるんですよ」
コチ、コチ、コチ、コチ……十六時五十二分。
放課後、空き教室。
初口、紬ナオ。
「…………」
一人教室の中に残った僕は、窓から外を見る。
夕日の中の隣町は、僕の町と状況は全く同じ。
そこかしこにウロウロと徘徊し、生きている人間を求めて蠢いている。
人間は結局行き着く先に行き着いて、自分たちの愚かさをもう後戻りが出来なくなってから、ようやく思い知った。
思い知ったてからでは、もう遅い。
対策なんてものは立てられるわけも無く、全世界、地球全体へと感染拡大はあっと言う間に行き渡った。
まだライフラインやインフラは活きているけれど、それだってもう後、どれくらい持つのかも分からない。
管理しなければいけないはずの人間が、今では極端に少なくなったのだから。
同じ人間同士、何故、仲良くする事が出来ないのか。
何故、お互いを尊重し、敬い、助けあって生きて行く事が出来ないのか。
それを実行出来るくらいの環境は、人間の世界にはあったはずだ。
豊かな国があれば、貧しい国を支援する。
困っている人間がいれば、手を差し伸べてあげる事が出来る人間がいる。
出来たはずの世界で出来なければ、こんな崩壊してしまった世界の中で、誰が他人を助ける為に動くだろうか。
まだ生きている人間達は、自分の身を最優先に考えて行動し、食料や水分、生きる為に必要な物は、自分ではない他の人間が手にしているのを見て、強奪を繰り返す。
それは、外へ出ればいくらでも目にする光景だ。
生きる為であれば、分からなくも無い。
もしかしたら、僕だっていつかそんな人間の一人になり得る可能性がゼロじゃないのだから。
「あ、紬くん。食事の用意出来たよ?」
「そっか、ありがとう。呼びに来てくれて」
「ヒトミ先輩と宮原橋さん、驚いてた。よくこれだけの食料や水を確保出来たねって」
「ん? あぁ、コツがあるんだよ。みんなは店舗だった店の中を調べて回っているんだろうけどさ、僕は店舗の倉庫や冷蔵庫を調べて回ってるから」
「おー、なるほどー。探す事に必死になり過ぎて、普通に考えれば思い付く場所だけれど、みんな盲点になっているって事なんだね」
「そう言う事。さてと、それじゃあ、今日のご馳走でも頂きますか」
「カップ麺だけどね」
「上等じゃん」
「ヒトミ先輩が味気ないから、女体盛りにして食べようって言ってたよ」
「…………あの人は。つゆが無いカップ麺なんて尚更味気ないっての」
「ヒトミ先輩はカップ焼きそばだから大丈夫みたい」
「ほほー、そうか。じゃあ、お湯を切った直後のあっつあつの焼きそばを盛って上げるとしよう」
「あ、紬くんのもカップ焼きそばなんだけど、ヒトミ先輩がお湯を切る前にソースを入れちゃったから、お湯、捨てないようにしてね」
「あのえろ魔神め…………くぉらー、ヒトミーっ! お前のを寄こせーっ!」
次回予告 ヘンギ
「あなたは、生きる為であれば、他人を平気でヘンギする事は出来ますか? と言う話ではないけれど、未定」
「それでは次回も、崩壊した世界の放課後に会いましょう」