No.011 Today is the end of one section.
コチ、コチ、コチ、コチ……十六時三十五分。
放課後、空き教室。
初口、六条茜。
「紬くん、おはよー」
「あぁ、六条。おはよう。今日もほぼ定刻だな」
「そうだね。でも、そろそろこの生活も終わりなのかな」
「だな。みんないなくなったしさ、明日にはここを出ようかと思うけど、六条の意見は?」
「紬くんが決めたのなら、それでいいよ。準備はだいたい終わったんだよね?」
「あぁ、必要な物は詰められるだけ詰め込んだから。バッテリーの充電もバッチリだよ」
「うん、分かった。じゃあ、明日になったら出発しよ?」
「だな」
「それで、運転技術は向上したのかな?」
「もちろん。まぁ、オートマだからギアとアクセルとブレーキだけ覚えれば、誰でも運転出来るしさ。各ボタンについても覚えたし、運転にしてもバッチリだ」
「練習もたくさん出来たもんね」
「その辺にゴロゴロ転がってるからなぁ。ありがたく使わせて貰ったよ」
「どうせ使ったって持ち主は不在だもんね」
「そう言う事」
「安全技術装置も付いているし、何よりガソリンだけじゃなくて、電気だけでも走れるって言うんだから、どの先生かは知らないけど、いい車持っていてくれて助かったよ」
「へぇ、凄いんだね。電気もまだ活きているし、ガソリンだって、まだまだ入れられるから、当分の間は大丈夫、と思っていいのかな?」
「うん、そのはず。でも、いつかは電気もガソリンも無くなる時が来ると思う。だから、出来るだけ早く、安全に住めそうな場所を探さないと行けない」
「だよね。出来れば湧水が出ている場所があると助かると思ったから、色々調べてメモしておいたよ」
「さすが六条。優等生」
「スマートフォンもいつ使えなくなるか分からないし、出来るだけたくさんメモを書いたから、一つずつ回って行ってみない?」
「むしろそうしよう。断る理由なんて無いよ」
「良かった。そう言ってくれると思ってた。あ、そうそう、頼んでおいた野菜なんかの種は手に入れておていくれたかな?」
「かなりの量を乗せてあるよ」
「ありがとう。それなら水の場所さえ確保出来れば、どうにか生きていけそうだね」
「みんなの分まで、しっかり生きるって約束したからな……」
「うん……頑張ろうね。二人で、ちゃんと生き延びようね」
「あぁ……」
「…………」
「なぁ、六条。外、最近増えたと思わない?」
「やっぱり、そう思った? 私もそう思ったよ。でも、二カ月も経ったから、増えてしまうのは仕方ないのかも」
「……それもそうか。アイツ等が動くのは、生きていても死んでいても関係無いんだもんな」
「うん……」
僕は教室の窓を開けて、外の世界を一望する。
とても穏やかな風が吹き、夕日が空を真っ赤に染めていた。
僕達がいるこの世界は…………つい、二カ月前に……崩壊した。
その時を境に、六条、彩瀬名、リカ、露霧と僕を含めた五人はこの空き教室へ集まって、二次元世界によくあるシチュエーションで会話をして、面白おかしく日々を過ごす事に決めていた。
なぜ、そんな壊滅した時から始めたのかって?
バカバカしくて冗談のような話をするけれど、僕の住む町だけじゃなくて、市、県、国、世界中、ありとあらゆる場所、人間のいる地域には、通常とは違う人間が溢れかえる世界に代わってしまった。
もったいぶらすに要点を話せ?
なら、話すけれど、要するにゾンビパニック。
おいおい、よくもまぁ、何番煎じか分からないってのに、そんな馬鹿な話を出来るよな、と思うだろうけれど、実際起こってしまったのだから、どうしようもない。
ほら、今だって、校舎の外に、ウロウロしている元人間がたくさん蠢いているじゃないか。
こんな馬鹿げた二次元世界によくあるシチュエーションが起こってしまったから、皮肉を込めて、僕達五人は『二次元世界によくあるシチュエーションで会話』を始めたってわけ。
ホント、皮肉なもんだろ?
ゾンビの徘徊する世界にいるってのに、わざわざそんな会話をして楽しんでいたんだから、皮肉以外のなんでも無い。
まぁ、滑稽、とも捉えられるかな。
どうして、そんな事になってしまったのか?
簡単に話せば、某国①がミサイルを発射。
それに対して、別の某国②がミサイルで迎撃。
そしてまた、某国①がミサイルを発射。
それを某国②が撃破。
遂には、某国①が細菌兵器を使い、某国②を攻撃。
某国②も負けじと、細菌兵器を使用。
細菌兵器は周囲の国々をも巻き込み、それらの国々まで参加。
そんな事が繰り返されたのち、細菌兵器同士が化学反応を起こしてしまって、死んだ人間を死んだまま動くゾンビへと変貌させてしまった。
ここからは誰もが簡単に予想が出来るだろうけれど、感染拡大パンデミック。
ゾンビはどんどん増える一方。
「なぁ、六条。あいつ等、治る見込みってあると思う?」
「さぁ、どうだろうね。たぶん無理だとは思うかなぁ。ワクチンなんて開発出来るような場所が残っているとは思えないし、それに……死んでしまっているんだから、元になんて戻っても……」
「動かなくなるだけ、か……」
「うん……」
ただ、死人が動き出すと言うだけなら、まだ分かり易かったのだけれど、生きている人間も影響が出てしまうところが、とても厄介だったりする。
露霧、彩瀬名、リカ……の三人が、もう眠くて限界と言っていたけれど、それが変化への印。
次、目覚めてしまったら、ただの動く死人と化している……。
だから三人は、僕達を襲わないようにと出て行ってしまった。
生きている人間が変化する、しないの理屈は分からない。
ただ、起きている時間が徐々に減って行く事だけは、これまでの傾向から分かっている事。
僕や六条ももしかしたら、眠りの周期が怪しくなって来るのかもしれない。
その時は、とにかく予兆が出始めて限界が近いと感じたら、自分から離れて行く……そう決めていた。
よく話し合った結果。
だから、三人がいなくなる時、僕は引き留めず、受け入れた。
正直辛かったけれど、五人で決めた事。
それは、二人になってしまった今も続く決まり事。
自分の友人を巻き込むくらいなら、一人でゾンビだろうと何だろうとなってやるさ。
「あ、そうだ六条。今日さ、食料探しに行った時、いいものを見付けたんだよ」
「へぇ、何を見付けたの?」
「これだよこれ。クーラーボックスへ入れておいたから、まだ冷えてるはず。ほら」
「…………おー、アイスクリーム」
「まだ電気が活きているから、冷蔵庫も動いているわけだし、盲点だったよ」
「確かに言われてみれば、非常食を集める事ばかりに気を取られるよね」
「だろ? だからいっぱい持って来た」
「えー、こんなに食べられないよぉ」
「まぁ、明日の朝には出発するし、それまで食べたいのがあったら、食べおけばいいって」
「そうだね、そうする。いつかは食べられなくなっちゃうだろうからね」
「だな」
さてと、僕達の『放課後、二次元世界によくあるシチュエーションで会話をしてみた』はとりあえず今日で終わり。
この先、僕達がどう生きていくのは、僕達自身も分からないけれど、またいつか、他にメンバーでも増えた時には再開出来ればな、と思う。
それまでは、しばらく……さようなら。
生きていたら、いつかその日に……またこうして話せる事を願って。
「じゃあ、私これ貰うねー」
「あぁっ、それ密かに狙ってたヤツなのにぃっ!」
「やっぱりね。目がそう訴えていたもん」
「それを知ってて頂いちゃうのっ?!」
「うん、だからこそ、余計美味しいんだよ」
「神も仏もあったもんじゃないよっ!」
お・し・ま・い