第4話 ~ エルフの男 ~
やっと山場に到着です。
「これの持ち主を知らないか?どこにいるか知っていたら、教えてほしい」
そういってエルフの男が差し出したのは、そのこぶし。にぎっていた手を上に向けて開くと、その掌にはあの祖母の指輪が乗っていた。
男は驚いて声をあげた。
「どうしてあんたがそれを!?」
これを持っていた黒い猫はどこに行ったのか。
男は慌てて湖から上がりエルフの横に立った。
んな~ん
慌てる男の足元で猫の鳴き声がした。男が声のした方を見ると、エルフの足元にいるあの黒い猫と目が合った。
どうやら無事だったらしい。ひとりほっとする男をよそに、黒い猫は濡れてしまった自らの毛皮を必死になってなめている。
男は黒い猫を指差しながらエルフに尋ねた。
「そいつ、あんたのペットなのか?」
「いいや、部下だよ。ちなみに人の姿にもなれる」
その証拠に、エルフがぱちんと指を鳴らすと、一瞬で黒い猫は18歳くらいの青年の姿になった。黒い猫は一度きれいなおじぎをしてから、また猫の姿に戻った。
感心した男が拍手をすると、エルフは得意になったようだ。
「まあ、これくらい大したことない」
男が感心したのは黒い猫に対してであって、エルフに対して感心したのではないが、そこは言わぬが花だろう。
男がそんなことを思っていると知らないエルフは、こほんと咳払いをして話題を元に戻した。
「わたしは部下に「この指輪の持ち主を連れて来てほしい」と伝えた。しかし部下である彼は、指輪の持ち主ではなく、この指輪だけをわたしのところに持って来たんだ。君はこの指輪の持ち主が今どこにいるか知らないか?」
会ったこともないこのエルフが、男に一体何の用があるというのだろうか。
男は不思議に思いつつも、このエルフが悪い妖精には見えなかったので、エルフの質問に正直に答えた。
「この指輪の持ち主はぼくだよ」
「そんなはずはない。これはある女性が持っていたはずだ」
「たしかにその指輪の前の持ち主は女性だよ。以前はぼくの祖母のものだったんだけど、祖母は昨年亡くなって、今はぼくが持ち主ってわけ」
「・・・彼女の名前は?」
「祖母の名前は「立石 洋子」」
男がそう言うと、エルフの顔がくしゃりとゆがんだ。
「・・・ヨーコは、昨年死んだのか」
エルフの目から、一粒の涙がこぼれ落ちた。男が気づいたときにはもう、エルフの涙が滝のようにあふれていて。エルフは胸を押さえ声をあげて泣いた。
男は慰め方などわからず、戸惑いながらエルフに尋ねていた。
「ぼくの祖母のこと、どう思ってたの?」
「・・・ヨーコは、大切な、ひと、だった。愛していたよ!
結婚して、一生、いや、死んでからだって一緒にいたいと思うくらいに!」
エルフは泣きながらそう叫んで、それなのに・・・、と言葉を詰まらせた。エルフは涙に濡れた宝石のような瞳で指輪を見つめた。
「この指輪は、わたしとヨーコをつなぐ橋だったんだ」
指輪を見つめるエルフの横顔があまりに切なくて、男は胸が痛くなった。
もっと短く終わる予定が、意外と長引いている事実・・・。