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きみは一輪の花のように  作者: 名上 叶人
2/5

第2話 ~ 平常心ってなんだろう ~


 んな~ん


「猫?」


黒い影の正体は、黒い猫だった。もの言いたげな金の瞳が妖しげにきらめく。


男は眉をひそめた。この窓は外開きのため、外からは開かられないはずなのだ。昨日の夜、たしかに鍵をかけた記憶がある。


「お前、どっから・・・、ってこら!」


どこから来た、と黒い猫に問おうとして男は目をむいた。机の上に転がっていた祖母の指輪を、その猫がくわえたからだ。

指輪を取り返そうとと伸ばした男の腕をするりと抜けて、タイミングよく出現した怪しげな黒いうずのなかに黒い猫は飛びこんだ。すると、黒い猫の姿は一瞬でかき消えてしまった。

男は渦を見て首を傾げた。


「この渦は、なんだ?」


男の目の前に現れた、黒と紫の15センチほどの渦は、生き物みたいにぐるぐると渦巻いている。


 男が手を伸ばして触れると、あっという間にその身体(からだ)ごとのみこまれてしまったのだった。



 * * *



 耳元で風がごうごうとうなり、身体に強い風が吹きつける。男は、渦に飲まれたとき反射的に閉じてしまった目をおそるおそる開いた。


何が起こったのだろうか。


 目を開けた刹那せつな、強い光に包まれ、気づくと森の中にいた。しかし木々がやたらとばかでかい。

「木」というよりは「樹」といった感じで、その幹も太さも草木も近所の山の2倍はあった。


ここは一体どこなんだ?


 時折聞こえる美しい鳥のさえずりは初めて耳にするもので、男の不安を助長させた。むせ返るような緑のなか、望んで来たのであれば美しいはずのこもれびのなかで、男の眼尻に涙が浮かぶ。


 そうだ。まずは獣に出会わないように歌でもうたって、人里を目指そう。


右手の奥の方にひらけた場所が見えたので、とりあえずそこに移動することにした。けれど、気が動転していたとしか思えない。


「ある~日、森の中、くまさ~んに、出会~った♪」


思わず「森のくまさん」を口ずさみながら、そこを目指す自分がいた。


この歌以外にも歌はたくさんあるのに、どうしてよりにもよってこの歌なんだ!?


けれど、歌い始めてしまった以上途中で止めるのは何かちがう気がして、なんとなく3番まで歌い切った。


本人(やせいのくま)登場とかマジ勘弁な!


「森のくまさん」を歌うだけでこんなに疲れたのは人生初である。



―――――――――ふふふ、平常心ってなんだろう。



ひとは、大切なものを失ってはじめて、その大切さに気付くという。しかし、それが平常心や平和な日常だなんてだれが想像しただろう?


次はもっとほのぼのとした曲にしよう。


男は気を取り直して「犬のお巡りさん」を歌い始めたのだった。




サクサクサクっと♪

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