19.早すぎた襲来
19.早すぎた襲来
数十分後、十一機のサラマンダーが滑走路の上に集結していた。それを扱えないアーサリンとウィルマ、そしてトマサの三人は無線機の置かれたテーブルを前に山を見上げている。
「アーティさんとウィルマさんにはもーっと凄い機体を用意してありますから、期待しててくださいね」
「あ、あれよりもっと凄いのがあるの?」
「はいっ。アーティさんたちのように胸が小さい人でも空を飛べるようにと考え出した、私の最高傑作です」
「あぅぅ……胸のことは言わないで……」
「ふふふ、いつもそっぴーちゃん扱いされているお返しです」
「それでそっぴーちゃん、どんな機体なの?」
「むぅ……ウィルマさんには全然通用しないみたいですね。うーんと、地上からでも一気に空へ上がれるぐらい上昇力のある機体です。そのうえ飛行速度も百三十キロ以上は出ると思うので、空に上がれば多分無敵だと思いますよ」
「す、凄い……」
「でも、まだユニットが完成してないんです。サラマンダーのと基本フレームは同じなんで、あとは翼の可動部分を調整するだけなんですけどね。今も作業班の人たちが頑張ってくれていますが……あと四時間ぐらいはかかるかも」
「十分早いよそっぴーちゃん。そんな凄い機体をたった十日とちょっとで完成させるなんて、さすが天才だよ!」
「んっふふふふふ、そうでしょうそうでしょう♪」
トマサがもの凄いドヤ顔でブリッジでもするかのように背中を反らせる。そんなとき――
―― ザーッ……ザザッ…………『少佐! ……フォンク少佐!』 ――
テーブルの上にあった据え置き式の無線から声が聞こえた。シュトゥットガルトからの通信だ。
―― 『はい、こちらルネ・フォンクよ』 ――
山上にいるルネの声も聞こえてきた。
―― 『少佐、すぐにシュトゥットガルトへ帰還してください。東のアウクスブルク地方へ哨戒に出ていた部隊より、敵の飛行船がこちらに向かって来たとの報告がありました』 ――
「「「……!」」」
滑走路の上でその通信を聞いた全員が息を呑んだ。ついに敵が決戦を挑んできたのだ。
「ちくしょう! まだ飛行訓練に入る前だってのに」
「こうなったら、ぶっつけ本番で覚えてもらうしかありませんわね」
ジョルジーヌの機体が滑走路の端から三メートルほどの位置に立ち、ルネたちのほうを振り返った。
「いいですかみなさん、右の操縦環のすぐ下に赤いボタンがあるでしょう? それが履帯に回している動力をプロペラ側に切り替えるスイッチです。こちらに向かって全速力で走り、私のいる位置で動力を切り替えれば、後は惰力で飛び出して飛行に入れますわ」
「い、いきなり飛べってのかよ。ていうか、そんなざっくりとした説明だけで大丈夫なのか?」
「トマサさんを信じなさい。空に上がってから必要な操作は飛びながら教えます」
「く…………ええい! こうなりゃヤケだ!」
「ビビってる場合じゃないしな!」
エダとアルバータが真っ先に走り出し、その後に他のメンバーも続く。
「私……この戦争が終わったらお姉ちゃんと一緒にギター作りを……するんっ……だあぁーーーーーーーぁぁぁっ!!!!!」
いつものゲン担ぎを叫びながら、エダの乗ったサラマンダーが滑走路から飛び出す。そしてアルバータやルネたちの機体もそれに続き、全てのサラマンダーが大空に舞い上がった。
「「「おぉーっ!」」」
山の上と下で同時に歓声が上がった。下で見ていたアーサリンたちと、飛び出したパイロットたち本人のものだ。
「すっげぇ……本当に空飛んでるよ」
「エダさん、感動するのは後回しですわよ。すぐに旋回や上昇、下降の仕方を教えますから、二時間ほど練習したらシュトゥットガルトへ向かいましょう」
「たったの二時間か……」
「アウクスブルクからシュトゥットガルトまでは直線距離で約百四十キロというところですが……今までの敵の動きから考えると、途中にある町にも攻撃を加えてからこちらにやって来るはず。こちらは三十分もあればシュトゥットガルトに戻れますから、飛行船の速度と空爆の時間を考えればギリギリで間に合いますね」
ジョルジアナが素早く時間を計算し、敵の襲来と会敵するまでの見通しを立てる。
「そういうことですわ。この二時間で基本的な操縦さえ身につければ、あとは敵AMの上をとって戦えます」
「分かったよ。じゃあ、スパルタな特訓を頼むぜジョルジーヌ大尉!」
「では、レッスン開始ですわ!」
そうして、パイロットたちの飛行訓練がはじまった。完全な操縦を身につけるにはあまりにも時間が足りないが、飛行速度の遅いサラマンダーでシュトゥットガルトに駆けつける時間も計算すればそれが限界だ。
「あわわ……どうしよう。私たちにもなにかできることは……」
サラマンダー部隊は上空で飛行訓練に入ったが、山の下ではアーサリンが慌てた様子であたりをキョロキョロと見回していた。
「アーティさん、落ち着いてください。あなたたちの機体の調整が済むまで、どんなに急いでもあと三時間半はかかります。敵が来るまでの時間を差し引いても一時間……遅れて作戦に加わるにしても、飛行訓練をしている時間はないでしょう」
「つまり……少佐たち以上にぶっつけ本番で挑むことになるってことだよね」
アーサリンとは正反対にウィルマは落ち着き払っている。彼女は全てにおいて達観しているというか、あらゆることは『なるようにしかならない』と思っているのだ。
「はい、ですから今は無線でジョルジーヌさんが言ってることをしっかり聞いておいてください。少しでもイメージを掴んでおくんです。みなさんがお二人の力を必要としたとき、すぐ飛べるように」
「……うん」
「そうだね」
「駄目だなあ私……そっぴーちゃんより年上なのに、全然お姉さんらしくできないや」
「そりゃあ私は天才ですから。でもアーティさん、あなただってゲルマニア軍の二大エースを撃破した奇跡のルーキーじゃないですか。ほらほら、くだらないことで落ち込んでないで、ジョルジーヌさんの講義を聞き逃さないようにしてください」
「うんっ!」
上では飛行訓練、そして下ではアーサリンたちのイメージトレーニングと機体の整備が続く。
ゲルマニア軍がシュトゥットガルトに襲来するまで約二時間半。連合国とゲルマニア帝国の命運を賭けた両軍の決戦は、刻一刻と近づいていた。




