5.極秘指令
5.極秘指令
夕暮れ時も近づいた頃、プレイルームには負傷して運ばれていったウィルメッタ・バーカー以外のパイロット全員が集まっていた。諜報部幕僚のアーサリンだけでなく、AM整備長のトマサまでが呼ばれている。
「まず、帰ってきたばかりの三人に紹介するわね。この子はアーサリン・ロイ・ブラウン上級曹長。司令部からの特別指令を受けて今日任官してきたの」
ルネの紹介を受け、アーサリンが帰還した三人に向かって敬礼する。三人もまた無言のまま敬礼を返した。
「アーティちゃんが持ってきた指令書によると、現在敵軍の拠点になっているクリンバッハ城でなにか……とんでもない新兵器が開発されているという情報が諜報部の極秘調査で分かったらしいの」
「とんでもない新兵器……もちろん詳細は不明なのですわよね?」
分かりきったことではあるが、と言わんばかりにジョルジーヌが確認する。
「ええ、でも……もしそれが完成したなら、戦局を大きく変えるほどのものであることは疑いないらしいわ。なにせ開発者はあのアネット・フォッカーらしいから」
その名前を聞いて、アーサリンの傍にいたトマサが顔を曇らせる。
そもそもノースアメリカの技術者であったはずのアネットが現在ゲルマニアで兵器の開発者として辣腕を振るっているのは、かつてノースアメリカ軍で行われた第三世代型AMの制式採用機を決めるトライアルに端を発する。そのトライアルにおいてアネットの開発した軽量・高機動型のアルバトロスD.IIが、トマサの開発した重装甲・重武装型のソッピース・キャメルに破れたのだ。
その結果、ノースアメリカとRUKを中心とする連合軍ではキャメルが制式採用されることとなったが、アネットはそれを不服としてゲルマニアへと亡命し、自らの開発コンセプトの正しさを証明しようとしたのである。
天才の名をほしいままにしていたとはいえ、当時まだ十一歳の少女にすぎなかったトマサが最前線の基地で技術者として従軍することを志願したのは、そのことに責任を感じていたからでもあった。
「敵がそんなものを開発しているという話の時点でもう分かると思うけど……指令の内容は、クリンバッハ城に接近してその新兵器の詳細を調査してくることよ」
ルネの言葉に、パイロットたち全員が体を強張らせる。
「その新兵器とやらがそんなにヤバいもんならさ……もし敵がそれを使ってきた場合、あたしらが最初の実験台にされる可能性が高いってこと……だよな?」
エダがふざけた調子で呟くが、誰も返事をしない。
今ですら両軍の戦力は拮抗し、ウィルメッタの負傷によってAMパイロットの人数も同数となっている。そのうえアネット・フォッカーが開発した新兵器が敵の戦力に加わるとなれば、その天秤が一気に傾くことになるかもしれないのだ。命知らずのエースたちとはいえ、尻込みをせずにいられる者はいなかった。
「フ、フン……いつもは威勢がいいくせに、今回はずいぶんと臆病なことをおっしゃるじゃありませんの。国家のために命を捧げることこそ軍人の使命でしょう?」
シャルロットが精一杯強がってみせるが、内心の動揺は隠せていない。
「勘違いしないでちょうだい。肝心なのはまず“情報を持ち帰る”こと。新兵器の正体を見極めたうえで、生きて帰還することこそが最大の任務よ。この任務に参加する子は誰一人、絶対に死ぬことは許しません」
ルネがいつもの優しげな雰囲気からは考えられないほど厳しい表情で、ぴしゃりと言い放った。その言葉に勇気付けられたのか、隊員たちの顔からは恐怖が幾分和らいだようにも見える。
「作戦としては、唯一撮影用のカメラを積んでいる複座式のパップで出撃することになるわね。諜報部のアーティちゃんには撮影手として乗ってもらいます。そのパップを、私を含む五機で護衛する形で行きましょう」
「「「はい!」」」
その場にいた全員が力強く返事をした。
「アーティちゃんを乗せるパップを操縦するのは……ジョルジーヌさん、お願いできるかしら?」
「た、大尉にそんな運び屋みたいな真似を!? いいえ、そんな任務は私にお任せください少佐!」
「シャルロットちゃん、さっきも言ったでしょう? この任務は生きて情報を持ち帰ることが一番重要なの。特に写真を撮る役目のパップを生還させることがなによりもね。だからこそ、私が最も信頼しているジョルジーヌさんにお願いするのよ」
「いいのよシャルロットさん。お任せください少佐。しっかりこの子犬ちゃんをエスコートして差し上げますわ」
そしてその夜、情報収集のための偵察部隊が編成された。作戦の要となるパップを中心に隊長であるルネとノースアメリカ軍のエダ、そしてRUK軍からはアルバータ・ボール中尉とジョルジアナ・マクエロイ中尉、ロベルタ・リトル中尉の三人がキャメルで護衛に就くという布陣だ。攻撃パトロールから帰還したばかりのアルバータたち三人が選ばれたのは、機体の補給・修理のついでに装備の換装をやってしまおうという理由からである。
出撃は翌日未明と決まった。