42.激突! ガンブレラVSガンランス
42.激突! ガンブレラVSガンランス
「よくも今まで好き勝手やってくれやがったなぁぁっ!」
「食らえぇぇっ!」
―― ズギャギャガガガガガガァン! ――
―― ダキュキュキュキュキュキュキュキュキュゥン! ――
ルネの号令とともに全員のガンブレラから弾丸が放たれる。よく狙って撃ったわけではないので当たりはしなかったが、ゲルマニア軍のエースたちは思いもよらぬ反撃に肝を冷やした。
「や、やつら撃ち返してきましたわよ?」
「な、なんですって!?」
「あいつらがこっちを撃てるなんて聞いてないわよぉ!?」
常に騒々しい問題児二人はともかく、いつもは冷静なエーリカまでもが動揺している。完全に予想せぬ不意打ちだったというのもあるが、もしも今の攻撃が翼に当たって穴でも開いていたらどうなっていたことか。それを考えれば、彼女たちがゾっとしたのも無理はない。
「隊長、先ほど火を噴いたのは、やつらが持っている傘の柄です!」
「あれはただの防具ではなく、こちらを攻撃するための銃だったのか……全員、傘の先端の射線上に入らぬよう気をつけろ! 常に敵の傘が向いていないほうへと回り込み、そちらから攻撃するのだ! 今の攻撃を見る限り、おそらく敵は我々の姿を完全に捉えているわけではない。ただ攻撃の来た方向に傘を向けて銃を乱射しているだけだ!」
マルグリットの言ったことは半分正解だが、半分は間違いだ。たしかにガンブレラを構えながらだと、小さな覗き窓から敵機が見えた一瞬を狙うことしかできない。今の攻撃にせよ、ちゃんと敵を視認せず適当に撃ったので当たらなかったのだ。だが敵の動きそのものは可動式のバイザーカメラで自在に追うことができるので、飛ぶ方向さえ見極められれば自機の動きを合わせ、地上を高速移動する敵を撃つのと同じように攻撃することはさほど難しくはない。
「このノロマなドン亀ども! 調子に乗るんじゃないわよぉ!」
ヘルミーネがもの凄いスピードで上空からジョルジアナの背後を取る。だが次の瞬間、キャメルの頭部に装着されたバイザーカメラが真後ろを向き、ヘルミーネの姿を完全に捉えた。
「そういえば、あなたにはバーカー中尉を負傷させていただいた借りがありましたね。ゲーリング」
ジョルジアナは傘の柄を肩で支えながら軽く角度を変え、前のほうに向けていたガンブレラを一瞬にしてヘルミーネのほうへと向け直す。そして覗き窓とガンブレラの先端で完璧に照準をつけると、手元の引鉄を引いて発砲した。
―― ズキャキャキャキャキャキャキャキャキャゥン! ――
「きゃうっ!?」
ヘルミーネのアルバトロスが両肩と顔面に被弾し、バランスを失って大きく高度を落とす。
アイカメラや翼に当たらなかったのは不幸中の幸いだった。ガンランスを正面に構えていたおかげで外側に反った槍が弾を逸らし、コックピットのある胴体への被弾を防いでくれたのだ。
「ちょ、ちょっと大尉! あいつらちゃんと私たちの動きが見えてるみたいなんですけどぉ?」
「なんだと?」
「……って、あれ?」
ヘルミーネの表情に困惑の色が浮かぶ。いくらレバーを動かしても、両腕がだらりと下がったまま反応しないのだ。指はしっかりとガンランスを保持しているので動力ケーブルは繋がっているようだが、どうやら今の被弾で肩から先を動かすための骨格にあたるシャフトが折れてしまったらしい。
軽量のアルバトロスD.IIは敵の弾を避けることを前提にしているため、被弾した場合の防御力はほとんど考慮されていない。さすがに命に関わるコックピット周辺のフレームには装甲が施されているが、この打たれ弱さこそがアルバトロスシリーズ最大の弱点なのだ。
「大尉ー、私の機体、両腕ともイカれちゃったみたいなんですけど。このままじゃ役に立ちませんから、離脱の許可をいただいても?」
「ちっ、許可する! さっさと退がれ!」
「それではお言葉に甘えて退がらせていただきますわ。悪しからず」
ヘルミーネのアルバトロスはひらりと方向転換すると、おそらく今マクシーネたちが向かってきているであろうケッフェナッハの方角へと飛び去った。
敵に対しては蛇のように執念深いヘルミーネの性格からすれば意外なほどあっさりとした撤退のようにも思えるが、これは彼女なりに損得を計算した結果である。まさか敵があのような武器を持ち出してくるなどとは想像もしていなかったし、無理をして自分が撃破されてはなんの意味もない。それに今の情勢ならばマルグリットが撃破されて死亡するか、少なくとも大失態を演じて失脚してくれる可能性も十分にありうる。そう考え、彼女はまず自分の安全を最優先したのだ。
「くそっ! まさか敵があんな武器を開発していたとは……やはり総攻撃をかけるまでにここまで間を空けるべきではなかったか。我々はトマサ・ソッピースを甘く見すぎていた!」
マルグリットがコックピットユニットに拳を振り下ろす。
たしかに彼女の言ったとおり、全てはトマサ・ソッピースに対策の時間を与えすぎたのが原因である。もしもあと数日でも早く攻勢をかけていたなら、少なくともここまでの猛反撃を受けることはなかっただろう。そういう意味では、まだ勝負が決していないのに戦勝祝いのごとき叙勲式を行なったファルケンハインの差配は完全に裏目だった。
「(どうする? このまま逃げ回れなくもないが、時間を稼いで敵の弾切れとインメルマン少佐の別働隊が敵基地を攻撃するのを待つか? ええい、まさかこちらが時間稼ぎを考える羽目になるとは!)」
マルグリットがそう考えている間にも、連合軍のAM部隊による攻撃は的確にゲルマニア軍のパイロットたちを追い詰めつつあった。アーサリンとシャルロット、エダとフランチェスカの四機などはお互いが背中側をカバーし合うようにガンブレラを構え、ぐるぐると回転しながら撃つことによって全方位への攻撃を行なっている。まるでネズミ花火だ。
「そらそらそら! 落ちろ蚊トンボども! 私のニューポールXIの頭をこんなにしてくれた恨みは貴様らの命で償ってもらうぞ!」
「まだそれ気にしてたのかよ……」
「フン、敵が弱すぎてつまらんな。こうなったらこのまま私がクリンバッハ城を落としてやろうか?」
完全に調子に乗ったフランチェスカが隊列を離れ、ヘルミーネの逃げたケッフェナッハの方角へと向かおうとする。
「おいこら! 調子に乗って一人で突っ込むんじゃねえ!」
「フランチェスカちゃん、戻りなさい!」
「大丈夫だ。このフランチェスカ様にかかればよゆーよゆー♪」
ガンブレラを頭上に掲げ、すいすいと地面を滑ってゆくニューポールXIの姿は、まるで雨の日に長靴を履いてはしゃぐ園児のようだ。
「む……やつら、まさか隊を二分してショーネンブール通りへと向かう気か? いかん、あちらに行かれてはインメルマン少佐の別働隊に気付かれる! 全機、あの赤いニューポールXIに集中砲火だ!」
―― ズギャギャギャギャギャギャギャン! ――
「のわぁぁぁっ!?」
「だから言ったんだこのバカ! さすがに全機から集中砲火を食らったら防弾傘がもたねえぞ!」
「待ってエダちゃん。今の敵の行動、少し妙だわ」
「なんですか少佐?」
「いくら隊列から離れた機体だからって、全員で一斉に襲いかかるなんてちょっとやりすぎよ。西側から城を攻められるのを恐れたにせよ、私たちが今戦ってる相手を放ってここを離れるわけもないのに……」
「たしかに、上の連中を放っておいたらこっちの基地が攻撃されますよね」
「多分、私たちをあっちに行かせたくない理由があるんだわ。リヒトホーフェンの部下だけでも三機足りないし、インメルマンの地上部隊も見当たらない……ということは――」
「別働隊がいるってことか!」
一見愚行に見えたフランチェスカの行動だが、結果的にゲルマニア軍の作戦を連合軍に気付かせるファインプレーとなった。ガンブレラの威力を目の当たりにしてさすがのマルグリットも動揺していたのか、敵の動きに対して普段なら見せない過剰反応を示してしまったのだ。
「少佐、インメルマンの部隊がくるなら俺たち三人で行かせてください。やつらには借りがある」
無線からアルバータの声が聞こえた。
「分かったわ。けど、相手がインメルマンならあなたたち三人だけじゃ駄目。私も一緒に行くわ」
「しょ、少佐が!?」
あまりにも意外な提案に、アルバータの声が裏返る。
「私だってクリスちゃんをやられたこと、怒ってるんだから」
「(少佐が自分から『怒ってる』なんて言うってことは……相当だな)了解、お供します!」
「ラモーナさん、ここはお願いね」
「はいっ、お任せください」
ルネのスパッドとアルバータたちのキャメルが隊列を離れ、西へと向かおうとする。
「くっ……やはり西へと向かうつもりか」
「大尉、私がインメルマン少佐の後詰めに行きます」
「ラインハルト中尉か、頼む!」
「了解!」
ルネたちに続き、ヴィルヘルミナの機体も西へと飛ぶ。
「(あれはミーナちゃんの……)コリショー大尉! 敵がもう一機離れて少佐たちを追っていきます!」
「別働隊の援護に向かう気か……」
「私が追いかけます!」
「ま、待て准尉! 貴官だけでは……!」
アーサリンはラモーナの制止も聞かず、ヴィルヘルミナのAMを追って全速力で走り出した。




