黒い過去
ケモ耳大好き
さて、あれからいろいろと自分なりに調べてみたんだが。どうも、手掛かりとなるものがないしそもそもここがどこかもわかってない。まぁ、わかったことといえばここがケモナーである俺にとっての天国であるってだけだな、うん。いやね、なんでそんなに怯えているのか聞いたんだけどみんな教えてくれないのよ。いやまぁ、明らかに俺に怯えているのはわかってるんだよ!?だけど、その理由がなんなのかわからない限りどう動こうにもわからないし。うーむ…。とりあえず、いま俺はまたあの玉座に座っている。周りのみんなは怯えている。はぁ、心折れそう。そいえば、俺がこの国の王様とか言ってたな。そしたら…。
「大臣」
俺が口を開くたびにみんながより一層怯えるので俺としては一刻も早くこの状況をどうにかしたい。まじで。ちなみに大臣とはあの俺に最初に話しかけてきた覇気のある老人だ。どんなことしてるのか聞いてみると結構重要なことをしていたから大臣と呼ぶようにした。とくといって異論はなかったから俺はそれからそう呼ぶようにしている。
「何でございましょうか?王様」
「王室とかあるのか?」
「もちろんですとも」
「なら、そこに案内してくれないか?」
「かしこまりました」
王室なら前の王様がなにか残してくれているはず。俺は最後にそれにかけるのだった。大臣は立ち上がり王室へと案内する。俺もそれについていく。ちなみに大臣にもきいたんだが話をそらされてしまった。ちょっと歩いたところで大臣は立ち止った。
「ついたのか?」
大臣は首だけをひねってこちらを見る。俺はその眼光にすこしたじろぐ。
「えと、どうかしたか?」
「いえなんでもございません、王室はこちらです」
「お、おう」
大臣は何事もなかったようにまた歩き出す。なんだろうな、居心地がほんと悪い。早く何とかしないと。
「ここが王室でございます」
「ここが…」
完全にアニメとかでみたあのきらびやかな装飾が施されているあれをそのまんま持ってきた感じだった。俺は王室に入っていろいろと探ってみると机に一冊の黒い日記みたいなものがあった。俺はそれを手に取るとなにか悪寒が走った。
「なんだこれ…」
しかもご丁寧に開くところにカギがかけてあった。
「大臣、これのカギはどこにあるんだ?」
「ここに」
なんと大臣が持っていた。それにこんなわかりやすいところにおいてあるということは前の王様が残したものなんだろう。
「どうぞ」
「おう、ありがと」
俺は礼を言って大臣からカギを受け取る。たいていみんなに礼を言うとなぜか驚かれたりされるが大臣は違った。最初は驚いていたものの今ではそんなに驚かなくなった。俺はさっそくカギを使って日記を開く。最初に説明みたいなものが書いてありそれをかるく流し読みして次のページを読むと。
「なんだこれは…」
「どうかなされましたか?」
「いや、大臣はこの日記は読んだことはあるのか?」
「いえ、その日記は代々王様しか見てはならないものでして。王様以外の者が見ればその者は死すという言い伝えがあるのでございます。それ故に、王様以外の者はその日記を読むのはおろか触れたことさえありません」
「そうか…」
確かにこれは他のものには見せられないだろう…。これはあとでじっくり読もう。
「大臣、これのほかにもっとこの世界のことが分かるような本とかはないか?」
「すみません、王様。あいにく我ら獣人はあまり字などは読まないほうでして、それ故に本もあまり…」
「そうか、ならいいんだ。すまなかったな、無い物ねだりして」
「いえいえむしろこちらのほうこそ申し訳ありません」
「そっかぁ…」
今のところ情報がつかめそうなものはこの日記ぐらいか。なら、これにかけるしかないな。
「これからどうなされますか?王様」
「そうだな、ひとまずはこの日記をよむことにするよ。すまないが、それまで一人にさせておいてくれないか?」
「かしこまりました、従者の者たちにもお伝えしておきます。それでは、夕餉の時になりましたらまたおよび致します」
「あぁ、悪いな」
大臣はそういうと静かにドアを閉めて立ち去って行った。さてと、完全にこの日記が、おそらく今のこの状態のキー的存在だろう。さっさと全部読み切らないとな。と言ってもこの厚さである。読み切るには時間がかかるだろう。俺はさっそく机に座って日記をめくるのだった。
★
一方そのころとある一室では。
「ウルナ、入るぞ」
「お父様!」
そこには白銀狼族の親子がいた。一人は年老いているにも関わらず屈強な体になにかを感じさせる覇気をまとっている。それも今は感じられないが。まぁお察しであろう一人は大臣である。そしてもう一人はその娘であるウルナである。いわずもがなその美貌は神さえも虜にしてしまうほどの美少女だ。そんなウルナはたった一人の家族である大臣、本名をイグニスという。そんな父親を心配して体にどこか傷がないか確かめる。
「お父様どこかお怪我は?」
「あぁ、今のところは大丈夫だよ」
「よかったぁ」
ウルナはその一言が聞けて安堵する。父親思いの実にいい娘である。父親なら誰しもこういう娘がいいなと思うだろう。そして、お互いの安否を確かめたあとちょっと話して二人とも落ち着く。そしてそんな落ち着いた時にウルナは聞いた。
「お父様、今度の王様はどんな人なの?」
「ふむ…」
そこでイグニスこと大臣は難しい顔をする。その顔を見てウルナの不安はより一層深まる。大臣はしばらく考えた後ゆっくりと口を開いた。
「正直、今回はわしでもどういう結末になるかはわからん」
「そんな…。お父様でもわからないなんて…」
「うむ、だからどいう結末になるかは覚悟しておいてくれ。いざというときはわしが何とかする」
「お父様それは!」
「みなのためだ、喜んでこの命くれてやる」
「…いや、私はそんなの嫌だ!」
それはそうだ、ウルナにとってはイグニスが最後の肉親なのだから。ウルナにとってはそんな未来は受け止められないだろう。このとき、ウルナは覚悟を決めた。父親であるイグニスを死地に向かわせるぐらいなら自分にできること、いままでの王様が飽きずに望んでいたもの。そう、すなわち自分の体だ。いつの時代の人族の王は飽きることなく女の体を望んできた。それは実験用モルモットだったり快楽のためだけに使われたりと様々だ。しかし、どれも例外なく女の体を望んできた。なら、女である私が父親を救うにはこの手段しかないだろう。私はそんな最悪の未来が来ないことを祈りながら心の奥底で覚悟をきめるのだった。
★
「うっ!」
俺はおもむろに手を口にやって込み上げてきた吐瀉物を必死にまた胃の中に戻す。
「なんだよこれ…。まさか、ここまでひどいものだったとは思わなかったよ…」
確かにこの日記はあたりだ。この世界のこととまではかなかったがいまこの国の現状は把握できた。
「なるほどな、そりゃ王様がそこにいるだけで怯えるっていうのはわかった」
それはなぜか。答えは簡単、ここの前の王様もその前の王様も、しいて言うなら人族。つまり、俺みたいな人が王様だった時代は全部が黒歴史だ。ひとつとしてまともじゃない。いや、邪気眼とかそういう系ではなくてね。全てが惨殺、実験、凌辱、などによる完全に帝国主義と何ら変わらないようなやり方をされていた。その年数はざっと五百年以上。獣人と人族が戦争をして獣人たちが負けてからずっと。これは、きっと人族の王様が過去に何をしたかを記した日記なのだろう。しかし、気になるのはそんな奴らは好き好んで日記なんてつけないだろう。これは一体だれが書いたものなのかだな。いまは、とくと言ってどうでもいいが。しかし、ほんとにひどすぎる。あぁ、それとここがいまどういう状況なのかもわかった。最初に流し読みした部分に結構重要なことが書いてあった。内容はこのようなものだ。
人族による支配条約
1、獣人の王は今後人族の囚人から選ばれる。
2、王のいうことは絶対である。はむかえばその者は即刻処刑。
3、獣人の食産物の半分は必ず人族に無償で輸出させること。
4、年に二回は女子供を百人以上こちらに送ること。
以上四つの条約が守れない場合は強制的に再度戦争させる。
というのが、いまここの現状である。そこに、また新たな王様になった俺が来たからみんな怯えてこうなってんのか。これは完全にやばいな。あ、あと思ったのが最初の一個目の条約がひっかかる。やっぱりこれはあれなのだろうか。特別的な何かなのだろうか。それだとうれしいな。とりま、今なにすべきかはわかった。さてとこれからがいそがしいな。いやでもここは俺にとっての天国なら今のこの状況は改善すべきだな!よし、さっそく明日から取り掛かるか。窓の外をみたら真っ赤な夕焼けが輝いていた。と同時にドアをノックする音が聞こえた。
ケモ耳大好き