賭けと彼らの決断
けもみみだいすき
「おはようございます、王様」
王室の扉を開け、そこに立っていたのは中国などの武人が持つ刀に似ているそれで、明らかに殺傷力のある武器を片手に持った大臣だった。
(くっ、遅かったか…)
アキトは逃げるため脚に力を入れるがやはり上手く立てず、今度は前のめりに倒れる。アキトは地べたに這いつくばった状態になる。
大臣が来た、それを意味するのは言わずともわかるだろう。片手に握っている武器がその証拠だ。大臣はゆっくりと、しかし確実にこちらに歩を進める。
(こんなところで…)
激痛に耐えてなんとか力を入れようとするも体がそれを拒む。大量の冷や汗をかきながらもアキトは諦めずにいた。
「王様、私たちで勝手ながらですが王様のことについて衆議の者達で話し合いをさせてもらいました」
「そ、それ、で?」
なんとかアキトは声を絞り出し大臣に答える。その間もずっと動こうと必死に頑張るが筋肉が引き攣るだけでただひたすらに痛い。
「僭越ながら皆のものの意見が一致したことをお伝えに来ました」
「け、結果を聞いても?」
「はっ、では結果をお伝えいたしましょう」
アキトは生唾を飲む。体が動かない以上なんの使用がない言霊を使おうにも両者が無事でいられる言葉が見つからない。脅せば俺の負けなのだ。妥協点を、何か妥協点を探さないと。
「全員一致で、いまここで終わらすとのことで」
「っ!」
賭けは負けた。意思を用意して投げつけてきた頃には勘づいていた。イアには見えていたが彼らにはスフィアが見えていなかった。これは推測だが、イアはあくまでも俺のことを信じてくれた。そしてスフィアは俺の物になったと言えば聞こえは悪いが俺に憑いたのだ。イアは俺のことを許していたかだろう。だからスフィアが見えた。けど、彼らには俺のことは最大の敵としてか見えていなかった。きっと、その憎しみが彼らの目を曇らせた。それゆえにスフィアが見えていなかった。あくまでも推測だが…。俺はその賭けにも負けてるのだ。負け続きのこの賭けに、残る切り札はもう無い。こうして、死を待つのみだけなのか…。
(怖い、死ぬのは怖い。勝手に殺されて転生させられて、あっちでやることはあるにはあった。それを全部くるめて言うなら後悔というのだろう。そしてまたここで殺されるのか。それは悔しい。けど、それ以上にスフィアの思いを台無しにするのが一番悔しいに決まってるだろ!)
俺は半ば意志だけの力で立ち上がった。そんなアキトの様子にイグニスが驚く。アキトは人だ。あれだけの石をぶつけられてなおかつ気絶だけで済んだ。いや、体の方はボロボロだが生きてるのだ。それは尋常じゃない。しかも、生きていたとしても体は半年以上は動けないはずなんだ。それをアキトは無理矢理にでも立ち上がらせた。
「王様、あまり無茶をされては…」
「するさ、俺は、まだ、こんなところで死ねないんだ!」
力の限りアキトはそう叫んだ。その様子にイグニスは黙り込む。
汗が頬を伝う。体が痛いどころではない。もう感覚すら消えてきている。立っていることのほうが不思議だ。それでも、アキトは抗う。この国のために、スフィアのために。
体が悲鳴をあげようと、体がいくら傷んでいたとしても。やらなくちゃいけないんだ。500年以上もの黒歴史に終止符を打つために。彼女達の平穏を手に入れるために。ケモミミという名の天国を守るために。
「それ以上は身体に障りますぞ」
イグニスがより一層鋭い目で俺を睨む。徐々に刀を構えながら。すでに獣人族の射程内に捕えられたのだ。まだ5mほど空いてる。しかし、それは大臣が一瞬で俺を殺すのに問題のない距離なのだ。
「構わ、ない。俺にはやり遂げたいことがあるんだ!」
その叫びに大臣は目をそっと閉じ、アキトが一歩踏み出す前に動いていた。
「では、今すぐに終わらせましょう」
「っ!?」
アキトの視界が霞む。大臣がその場から消えた。否、目の前にいた。その剣をかかげて。
(終わった、のか…)
次の瞬間、腹部に強い衝撃を受けて目の前が真っ暗になる。
けもみみだいすき




