王様
けもみみだいすき
「よく集まってくれたな」
アキトは目の前にいる大勢のケモミミもとい獣人族に声をかける。その中にはこの王城で働いている人はもちろん。大人や子供、老若男女問わずにここにいる。アキトがそう命令したから。そして、それを命令したアキトと獣人族の間には石が山積みにされていた。アキトの後ろにはイアとスフィアがいる。しかし、ウルナと大臣は石の向こう側にいた。もっとも、向こう側には俺に対してだが、獣人族の中には牙を向いて今にもアキトに襲いかからんばかりの者達もいる。
「今日はみんなに言いたいことがあって集まらせてもらった」
そう言ってアキトは獣人族に1歩ずつ近づく。
「俺の意思を知ってほしい」
ちょうど、石から三メートルほど離れたところでアキトは立ち止まる。
「俺たち人族は獣人族に対して過去、数え切れないほどの悪虐非道をしてきた」
その言葉を聞いて獣人族達は唾を飲み込む。
「こんなことでは足りないだろうけど、今俺が獣人族にしてやれる示しはこれぐらいしか思いつかなかった」
アキトはその場に座り込む。
「俺のことを信じてほしい!けれど、きっとこのままじゃ俺のことをみんなに理解してもらえない。だから、気の済むまでその石を俺に投げつけてくれて構わない」
ざわっ、獣人族の間に驚きが走る。なにせ、自分たちの考えていたようなことが起こらなかったのと王が自らに攻撃していいと言ったからだ。そんな驚愕が勝っているせいか誰1人として石を投げるものは現れない。しかし、そんな中でも少し経てば石をとるものは現れた。そいつは。
「俺は、俺は親友を自分の手で殺した。お前達人族のせいで俺は、俺は大事な親友を失ったんだ!」
野犬見たいに荒く、そして強い毛並みを持った若い獣人族が一人、石を手に持った。
「お前達のせいで!くそっ!ここからでていけ!」
その言葉とともに獣人族は石をアキトに向かって投げつけた。全力で。その石がガンッ!と頭にあたる。最初にここに来た時にも子供に石を投げられたがその時とは威力の桁がちがう。石もそこそこの大きさで俺よりも年上のしかも人間よりも数十倍もの基本的なパラメーターが上のやつに投げられた石だ。正直死ぬかと思った。頭からは血が流れる。一瞬意識を飛ばされるもなんとか耐える。
「っ!」
後ろではイアが口元を抑えてる。まるで何かを溜め込むように。
「くっ…」
思った以上に当たりどころが悪かったせいか周りがぼやけて見える。たぶん、脳震盪を起こしたのだろう。大きく頭を打ち付けられたせいでまともに思考が回らない。まさか昔の公開処刑を自分の身でやるとは思わなかった。
(テレビやアニメの時代劇でたまに見たことがあるが、実際やられるととんでもないな)
そんな朦朧とする頭でアキトはボヤく。頭が回らなくてもやることは一つだと決まっている。とにかく、獣人族全員の気が済むまでこれから降ってくるであろう石に耐えることだ。ただそれだけだ。
「そ、そうだ!人族なんていなければ俺たちは平和に過ごせたんだ!」
「そうよ!あなた達のせいで私は、私はっ!」
泣き叫ぶもの、怒り狂うものもいる。獣人族の感情は既に負の感情で満ちていた。最初の一人をきっかけにみんなそれぞれ石を持ちアキトに投げ始めた。それは石の雨となってアキトに降り注ぐ。小さいものから拳1個分ぐらいの大きさまでアキトに当たる。
「うっ!ぐっ…はっ」
体のあちこちを鈍器で殴られたみたいに鈍く痛む。なかにはゴキッと音が鳴った場所もあった。おそらく何本か骨が折れたであろう。左肩は脱臼でもしたのかだらーんとぶら下がっていた。あまりの痛さに涙さえも出ない。死にそうだ。いや、既にもう危ないかもしれない。口を切ったのか血の味がする。顔は血が滴り既に目も片方を閉じたままにしている。それでも容赦なくふる石の雨。一体その投げられた石にはどれほどの憎悪が満ちているのか。アキトには計り知れなかった。俺は片方の目も石が入らないように瞑ることにした。
(これは、こんなことしても無駄だったか?)
あまりの数の多さと罵倒の多さ。甘かった、そりゃそうだ。500年もの間虐げれ、好き勝手されたんだ。それがこの一瞬で蹴りがつけられるほど穏やかな思考の持ち主はいないだろう。このままだと死にそうだ。選択を間違えた。そう思った。
永遠と終わることのないと思える石の雨は唐突に降り止んだ。来るはずの衝撃が来なくなり不思議になって瞑っていた目を開ける。そこには
「うる、な?」
喉にも石が当たったのか少し掠れ気味の声で目の前にたっている美少女の名を呼んだ。白銀色の毛並みに狼を思わせる尻尾と耳。それに、ここまで綺麗な毛並みをしている人物はアキトは一人しか知らない。
「な、んで?」
アキトの意識は限界をとっくに超えていたのかもしれない。今にも倒れてしまいたいくらいだがそれはだめだ。今ここで倒れてしまえば耐えた意味が無い。俺は気合いだけでその場とどまりウルナに問うのだった。
アキトに最初の石が投げられそれが頭に当たった時。イアだけではなかったのだ。それをみて「嫌だ」と感じたのは。ウルナもそうだったのだ。石の向こう側、何故か私はお父さんと共に連れてこられた。私は慌ててお父さん、イグニスの方へ向くと。
「…なんと」
イグニスは有り得ないものをみたっていうくらい驚いた顔をしていた。それは、恐らく攻撃がほんとに当たったことと。アキトが本気でそれを言っていたこと。にわかに信じ難い光景なのだ。これは。
私でさえも信じられなかった。けど、こうして私たちの、獣人族の攻撃が当たったということはいまここでアキトを殺すことが出来るのだ。アキトはそれを許したのだ。つまり、獣人族たち自らの手で王を殺せる。絶好の機会だということなのだ。そのせいか、周りの人達は怒りまかせに石を投げつける。狙いは正確にアキトに向けていた。信じられないことはもう一つある。みんなには見えていないのか、その後ろにいるのだ。イアではなく、もちろんイアもいるけれどそうじゃない。神様が見えるのだ。獣人族の一にして全。自分たちを作り上げた存在がそこに。ウルナには見えていた。それに…。
「なぜ神様があの人間のそばに…」
イグニスにもそれは見えていた。ありえない。なぜ、自分たちの神様が人間のそばにいるのか。何故こちらではなくそっちにいるのか。その時、ウルナは初めて気づいた。
(これ、は!?)
なぜ、私たちはこちらにいてイアが人間の方にいるのか。なぜ、石でここは分かれているのか。その意味がわかった。
(これはいまの状況…)
そう、今この状況こそが現在の状況だった。それを要する意味は…。
(イアは彼を信じたの?)
これは現状を模した見取り図だったのだ。上から見たらアキト達が右、ウルナ達が左と。そして、その数は圧倒的にウルナたちのほうに傾いていた、これが今の国の状況。王に味方するのはイアと神様。この国の姫でもあるウルナに味方するのは当然のその国民。石を投げつけている彼らなのだ。つまりこれはこの国の新たな王と獣人族の姫との戦争なのだ。そして、王は堂々と私たちの前で獣人族の仲間なのだと訴えているのだ。イアと神様がそれを証明しているのだ。でも。
「…っ」
今この中、それに気づくものはいない。みな復讐心に心を奪われ負の感情で心を満たされ報復の赴くままに王を殺しにかかってるのだ。ウルナは知っている。彼は普通の人間だ。だからこそこのままにしておくと確実に死ぬ。
「かはっ!うぐっ…」
考えてるあいだに王は傷だらけになる。血が地面を濡らす。顔からの出血が酷い、体も何箇所か動いてない。これ以上は危険だ。後ろではイアが目を瞑っている。なんで、親友はこちらではなくあっちにいるのか。それもわかった。彼は信じるに値する人物だと判断したのだ。それは神様が証明してくれている。しかし、彼女達は決して王を守ることは出来ない。それでは王が、アキトがこの意味を証明する意味が無いから。私は知っていた。最初、アキトにあった時に私の心は彼を殺すことしか考えなかった。そしてそれを実行した。けれどあえなく失敗。だから私は自分の体を支払いそれでこの国の平穏を手に入れようとした。でも、彼は何といった?
☆
「なんで…。あなたは本当に王様なのですか?」
自分の治療された手を見てウルナはアキトに言った。ありえない、今までこんな事例はぜったいになかった。あるはずなんてないって思ってた。だから、口から素直に疑問が出ていた。
「さぁな、王としてここに召喚はされたらしいけど」
「しらばっくれないでください!」
「いや、そういわれてもな…」
「…構いません」
「?」
「私のことは好きにしてもらって構いません!王様の好きなようにしてください!私の身も心も王様に差し上げますから!だから、どうか、この国の人たちには手を出さないでください!」
私は迷いながらも、この国を守らなきゃという意識だけで言葉を吐いた。言ってしまった。もうもどれない、怖い。何をされるのかわからない。けど、この国を守るにはこれしかなかった。そんな私に彼は笑って見せたのだ。優しく微笑むように。
「それはとても個人的に嬉しい提案だけど断らせてもらうよ」
思っていた言葉とは違う返事と善意がきてウルナは戸惑う。しかし、諦めるわけにはいかなかった。
「なぜですか!?」
「なぜっていわれても…」
そう、目の前の王様は困ったように悩む。そんな王様の反応を見てウルナは必死になる。
「お願いします!私は何されてもいいですから!だから、だから…。この国の人たちには…」
「そう、それだよ」
「?」
「君はこの国のために犠牲になるつもりだよね?」
「私一人の命で済むのなら」
「ならその命は大切に自分で持っておいてくれ」
「どういう、ことですか」
「要するに、はな」
そう、目の前の王様は一言区切ってからいった。過去の王様ならそれは最悪の言葉にしか聞こえなかったであろう言葉を。
「俺はこの国がだい好きだと思っているからさ」
王様は優しい顔で、そう微笑んだ。
☆
あの時の言葉は本物だった。それでも信じられなかった。だから、きっと私はこうしてここにいるのだ。彼が言った言葉は全て本当だった。現に王様は私にも、イアちゃんにも何もしなかった。この一週間弱、ひどい仕打ちを受けた者は誰ひとりとしていなかった。行動でも王様は示してくれていたのだ。なら、今私はどうすればいいのか。それは自然とわかっていた。私の体は勝手に動いていた。私は王様、アキトの元へと駆け寄り両手を広げ、降り注ぐ石から庇っていた。
「ウルナ、さま…?」
「どうして…」
私がアキトを庇うと同時に石は降りやんだ。
「ウルナ…」
「お父様…」
イグニスは駆け出した娘を1度は止めようとした。しかしその手は阻まれた。イグニスでさえもあの王様に心のどこかで期待をしていたから。
「私は、私は王様を信じます!」
その言葉にみんながどっとする。誰もが驚いた。自らの姫が敵である王の側についたのだから。それはそうだ。なにせ相手は五百年もの間、自分たち獣人族を卑下に扱い殺され好き勝手されて。いっその事死んだ方がましだと思えるほどの。そんな仕打ちばかりを受けてきた。それなのに、自分たちの支持する姫様が王の元についてしまったのだから。
驚きだった。ウルナがこうして自分の前に立ち、自分側につくと言った事に。アキトでさえ予想だにしなかった事だ。
「な、かはっ」
もう1度、なぜなのかを問いかけようとして吐血した。すでに体のダメージは限界を越えていた。喋る体力も気力も当の前に枯れ果てているのだ。俺はそのまま地面に倒れ意識を失った。
けもみみだいすき




