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魔砲世界の絶対剣士  作者: 藤崎悠貴
第一章
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第一章 その9(終)

  9


 フィギュアが見つかるかどうかは偶然――あるいは運命に任せるしかない。

 すぐに見つかる場合もあれば、なかなか見つからない場合もある。


 ユイは三年待った。

 三年待ち続け、もう諦めようと思った。


 どれだけ素質があっても、フィギュアがいないのでは魔砲師にはなれない。

 一人前の魔砲師になればひとりでもある程度の魔砲は使えるが、それはフィギュアと協力して魔砲の訓練を積んだ成果であり、どれだけ素質があってもはじめからひとりで魔砲を使えるようになるのは不可能だった。


 憧れの魔砲師。

 英雄と呼ばれた祖父のようになりたかった。


 それは結局、子どもが見る無謀な夢だったのだと決めつけるところだった。

 もしあのとき決断し、学校をやめていたら、こうしてフィギュアに出会うことはなかっただろう。


「あ、お兄ちゃん、ユイさん泣かした!」

「お、おれか? おれが悪いのか!? あ、あの、なんかしたならごめんなさい……」

「ちがうんです――ちがうんです」


 そう答えるのが精一杯だった。

 この三年間、一歩も前に進むことができなかった三年間の悔しさや思い出が一気に溢れてきて、いままで抑えこんでいたのがふしぎなくらいに次から次へと涙が出てくる。


 悲しいわけではなかった。

 よろこびでもなく、ほっと安堵して、はじめて自分がとてつもない重荷を背負い、ここまで厳しい道を歩いてきたのだと気づかされたようだった。


 もう苦しむことはない。

 もう、ひとりじゃない。

 だから自然と涙があふれて止まらない。


「――よかったね、ユイさん」


 リクはそっとほほえみ、眼鏡をくいと上げる。


「そう、ふたりにも説明しなくちゃいけないね。魔砲師になるには、ただ素質があるだけじゃだめなんだ。もうひとつの重要な要素、フィギュアがないと、魔砲師にはなれない」

「ふぃぎゅあ?」

「相棒、というのかな。魔砲師は、ひとりだけでは魔砲を行うのに力が足りないんだ。昔はそんなこともなかったって言われてるんだけどね、時代を経るにつれて魔砲師の数が増えた分、魔砲師としての血が薄まって、昔ほど能力を持つ魔砲師はいなくなってしまった――ま、そんなことは置いておくとして、現代の魔砲師は常にふたりで一組になる。その組み合わせ、相棒を、フィギュアと呼ぶんだね。相棒、フィギュアは、だれでもいいというわけじゃない。むしろ、相性が重要なんだ。ある魔砲師とフィギュアになれる相性がいい相手は、世界中にただひとりしかいないとも言われている」

「せ、世界にひとり? そんなの、どうやって探すんですか」

「見つかるんだよ、自然に。ふしぎだろう? どういう原理なのかは未だにわかっていないんだけれど、魔砲師になりたいという人間は、必ず自然とフィギュアになる相手と出会えるんだ。いつ、どこで出会うのかは、だれにもわからない。知り合いなのかもしれないし、まったく知らないだれかなのかもしれない――でも魔砲師になる人間は必ずフィギュアと出会う」

「へえ――なんか、運命の相手みたい」


 夢見るように玲亜が言った。

 リクはうなずいて、


「そう、たしかに運命の相手なんだ。ま、それが異性とはかぎらないけどね。同性の、それも自分の親くらいの年ってこともあり得る。でもフィギュアになれるのはその相手とだけなんだ」

「じゃあ、あたしたちもその相手を探さなきゃいけないってこと?」

「探すというよりは、見つかるのを待つって感じになると思うよ。フィギュアは探しても見つかるものじゃない。逆になにもしていなくても、見つけるべきときには見つかるものだからね――それでまあ、どうして彼女が泣いたのかって話だけど」


 リクはちらりとユイを見た。

 ユイはようやく涙を拭い、うなずいて、自分で口を開く。


「わたしがこの学校に入学したのが三年前――それからずっと、フィギュアを待ってたんです」

「さ、三年間、ずっと? フィギュア探しってそんなにかかるもんなの?」

「三年もかかるのは珍しいよ。ふつうは、早ければ入学したその日に、遅くても一年以内には見つかるものなんだけどね。彼女の場合はそれが遅かったんだ。フィギュアがいないと、どれだけ素質があっても魔砲師になることはできない――だからユイさんは、ちょうど将来のことで悩んでいるところだったんだよ」

「魔砲師になるか、フィギュアが見つからないまま諦めるか――もう、諦めようと思ったんです。このまま待っていてもフィギュアは現れないかもしれないって。でも――」

「……もしかして、さっきの指輪の反応が?」

「ペアリングは素質を測ると同時に、フィギュアを探すための道具でもある。フィギュアが近くにいるとペアリングが熱を持ち、リング同士をくっつければ反響音が響く――それがフィギュアの証なんだ」

「ってことは、三年間も待ってた相手がおれ――ってこと?」


 桐也は自分を指さし、目をぱちくりさせる。

 そしてなにを言うのかと思えば、


「な、なんか、ごめんなさい……」

「どうして謝るんですか?」


 ユイはくすくす笑い、言った。


「わたし、誇らしいです――キリヤさんが、フィギュアで」

「う――」

「……お兄ちゃん、いま、かなりぐらっときたでしょ」

「そ、そんなことないぞ――お、おれもその、誇らしいというか、まだよくわかってないけど、とりあえずフィギュアってことで、その、まあ……こ、こういうとき、ふつうはなんて言うんだ?」

「さあ、わかりません。わたしもはじめてですから――でも、きっと、みんなこんな感じなんだと思います」

「そ、そうか、そうだよな――なんか、照れくさいけど」


 桐也は頭を掻き、ユイはまだ赤いままの目をこすりながら笑っている。

 なんとなく、初々しいお見合いのような雰囲気だった。


 玲亜は横目でじっと桐也を見つめていたかと思うと、その脇腹をつんつんと突く。


「お兄ちゃん、剣士じゃなかったの? でれでれしちゃって」

「で、でれでれなんかしてない――剣士たるものいつだって凛としてだな」

「でも、美人でよかったね。しかも、本物のネコミミだし」

「いやほんと美人でよかった――って誘導尋問だ!」

「誘導してないもーん。えー、でもお兄ちゃんは魔砲師としての素質なしなんでしょ? それなのにフィギュアって成り立つの?」

「い、言われてみれば、たしかに――そのへん、どうなんですか?」


 たしかにそうだな、とリクも思い、うーんと考え込んだ。

 未だかつて、魔砲師ではない相手とフィギュアになったという話は聞いたことがない。

 しかしペアリングが反応したということはエレメンタリアの相性がいいということで、フィギュアにはちがいなく、まあ、そのあたりはふたりでなんとかしていくしかないのだろう。


 リクはぐっと親指を立て、言った。


「がんばれ、若者よ!」

「それだけ!?」

「いやーしかし、ユイさんにもフィギュアが見つかってよかったよ、本当に。こればっかりは他人がどうこうできるもんでもないからねえ。いやあよかったよかった、大団円だね」

「いやいや、ぜんぜんなにも解決してない――け、結局、おれはどうなるんですか? 魔砲師としての素質はないけど、ユイのフィギュアで、え、魔砲師としての素質ないのに入学ってできるんですか?」

「本当なら魔砲師としての素質がないなら入学は無理なんだけど、そのへんはなんとかしよう。大丈夫、入学できるようにしておくよ。入学したあとはきみの努力次第だ――もちろん、ふつうに入学するより大変なはずだよ。授業は座学のほかに実技もあるし。でもまあ、きみなら大丈夫だろう」

「絶対適当でしょ、それ――い、いやまあ、剣士のおれに不可能はないですが」


 もはやどういう態度で臨めばいいのかよくわからなかった。

 しかし、まあ、どうやらこの世界でやっていく道筋はついたらしい、と思うことにして、桐也はユイに向き直る。


 ユイも、まっすぐじっと桐也を見ていた。

 流れるような黒髪に、そこからぴょこんと生えた一対の耳――。

 よく見れば、目は大きく、口はちいさく、肌など透けるように白くて、控えめに言っても美少女にちがいなかった。


 そんな美少女、フィギュア。

 フィギュア、という言葉がよくないのだ、と桐也は思う、なんだか卑猥な響きがあるし――。


「と、とにかく!」


 ごほんと桐也は咳払いし、ユイに向かい、深々と頭を下げた。


「ふつつかものですが、何卒よろしくお願いしたく候……」

「お兄ちゃん、それ、立場逆だよ」


 はあ、と玲亜がため息をつくなか、ユイも笑いながら頭を下げた。


「これからよろしくお願いします、キリヤさん」



  *



 逃げ込まれた先は厄介だったが、しかしこの世界へ逃げ込んだ以上、もはや手中に収めているようなものだ。


 必ず、手に入れる。


 そして再び栄光のときを取り戻す――魔砲師たちが世界でもっとも力を持っていたあの時代を。

 サルバドールの意思は、まだ死んではいないのだから。



  ――第一章、了

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