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シンデレラと制服

新入生オリエンテーションに行ってきた。

お金が無いから、進学する。

一見矛盾しているように思えるが、世の中には奨学金がある。


うう、オリエンテーションにいた人たち、全員お金持ちみたいだ。

高そうなスーツを着て、香水の匂いがした。何だか、着ている服も高そう・・・


私は、その奨学金で学校に通うんだ。

だから私がここにいても、いいんだ。

その気持ちだけで、乗り切った新入生オリエンテーション。

まわりがみんなお金持ちにしか見えない。実際にそうなんだろうけれど。

私みたいに借金を背負ったからここに入学する人間なんて、この会場に私ひとりだけだろう。


ああ、なんて場違いなんだろう。私!!

視線を感じる。


でも、頑張る。ここにいます。


場違いどころか、別世界だった。

リムジンが数台止まっていた。街中ではまず見かけない髪型や服装に遭遇した。

セットにお金をかけているんだろうなぁ、着ている洋服も高そう・・・・


そして、気づいたーーーー制服問題。

制服は高い。中学校(普通の市立)の時の制服だって、高かった。

それを、このお金持ち学校の制服に置き換える。絶対高い。


・・・・私、制服を着て、学校に通えるのかな?


制服は・・・・・制服のお店・・・・・・資料に目を通す。

そこに書かれているのは、・・・・お店、というよりはブティック。

おばちゃんが制服を作ってくれるような所ではみたいだ・・・・。


そして、どこを探しても制服の値段が書かれていない。・・・・恐ろしい。

都心の一等地にあるお店で「お金が無いんです---」と言い出す勇気は無い。

あっちも迷惑だろう・・・・・ブティックで働くお姉さんに信じられないものを見るような目で見られる自分ーーーー嫌だ。


庶民的な所に行きたい。出来ればおばちゃんがやっている様な。

きちんとお話すれば、分割払いにしてくれる様な!


学校のパソコンでそのリストを調べていく。

どれも都心の一等地にある。入る勇気が無い・・・・。

リストが徐々に下がっていく。

もういっそ制服なしで通おうかな・・・・でも、目立つだろうな・・・目立ちたくはない。平和に過ごしたい。だから制服は必須。

学校に制服は必須なのだー!

・・・そんな事を思い始めたその時。

あ、あった!!

ここなら、分割払いおばちゃんがいそうだ。

住宅地のど真ん中にあるお店。


ここにしよう。そう決めた。

不定期期営業と書かれていた所は不安だったけれど。


・・・・・不安は、的中した。


お店を訪ねるのは何度目だろう、いつも開いていない。

今日も、開いてないんだろうな・・・・・


チリンチリン、ドアを引くとベルが鳴った。


「開いた」


開いてるのあわぁ!?


転んでしまった。地味に痛い。


私、何もしていません。

まさか開くとは思わなかったんです・・・・・っ。


店内を見上げると、暖色の照明で統一された店内。

制服店というよりは、どこかの小物屋さんのような雰囲気だ。

目の前には、薔薇が飾られていてお花の良い匂いと新品の布の匂いがした。


「こんにちは、お待ちしておりました」

現れたのは前髪をピン留めた「いかにも仕事が出来ます」風の女性だった。

手首にまち針の山があるのが印象的だった。


「こ、こんにちは」


女性は、私の格好に驚いたように眉を上げた。

は、はい、すみません、立ち上がります!!


「・・・・・先生、お客様がいらっしゃいました」


女性は店の奥へと呼びかけた。ごそごそと、何かを準備している音がする。


「少し、お待ちください」


・・・・もしかして、キツイ三角メガネのおば様が出てくるのかな。ありそうだな。

もしくは、ゴージャスモデルみたいな人が出てくるのかな?


どっちでもなかった。


男、だった。


モデル体型の。顔が暗くてよく見えないが、お洒落な人だというのが一目見て分かった。纏っている雰囲気が違う。格好が違う。


まともだとは思っていた。口を開くまでは。


「あんらまぁっ。可愛い子~~~~っ」

いい声、だった。低いテノールボイス。

でも、女口調。


「!?」


出口!!出口はどこ!?

退却!退却を!!


だが、ここまでなんども足を運んだ経験が足を止めた。

ずっと、開いてなかったお店。

・・・・・・私にはお金が無い。これで他のお店に行って、分割払いなんて言い出せる?


無理だ!

ここは覚悟を決めて…


「こ、こんにちは。」


「まぁ、いらっしゃい」


テノールボイスと女口調がガリガリの違和感として聴覚と視覚を削る。

「あら、おひとりできたのかしら?」

男は、私の背後を気にしている。

あ、もしかして。

新入生オリエンテーションの時に見た、大名行列を思い出した。

あの時は、お金があってもそんなのいらないと思ったけど、私も大名行列欲しい。ここが魔物の洞窟のように見えて、奥に進むのが怖い。

私の後ろに何もない事を確認して。


「どうぞ、中へ」

男が出てきてから、影のようになった女の人に勧められる。


う、怖い。


でも!

行くしかない、覚悟は既に決めた。ここしかないんだから!


店の奥では、洋服がいっぱい並んでいた。

入口の方とはだいぶ雰囲気が変わって、白で統一された部屋。

センスの良さが滲み出している。

目を引いたのは、数体のマネキン。


赤、黒、紺、ベージュ。

いろんな色の制服があり、デザインがすべて異なる。

そして、何故か、どの制服にも朱青藍の校章がついている。

どうして?


まさか。


もしかして、全部。朱青藍学園高校の制服なの?


そういえば、貰ったパンフレットには制服の事についてなにも書かれていなかった。

写真すらなかった。


その事を質問すると、朱青藍は制服で通う事は原則であるものの、用意されているものから、自分で自由に選択して着こなす事ができるらしい。

リボンひとつとってみても、赤、ピンク黄色、と十二色。

夏用のニットベスト、冬用のセーター、ブレザー、ブラウスなど・・・・。

もちろん、色々条件があって校章が胸のところに入れなくてはならない、などの決まりはあるらしい。ただ、自由だとは言っていた。ひとりひとり違う、オーダーメイド。


あ、の。

どうしよう、自由度が高すぎて、決められない・・・・安かったら、なんでもいいんですけど・・・・


「うんうん、良いわねぇ。」


男は、顎に手を当てて、私を見ていた。

居心地が悪い。


でも、その視線は入学オリエンテーションの時で慣れている。

じっとしている事が一番。


ルルルルルルルルルル・・・・・

不意に電話が鳴った。

電話の後。私を最初に出迎えた女性は、男に何かを耳打ちした。


「・・・・・じゃないのね・・・・」


えっ。

なんとなく、アウェーな空気を感じて振り返る。


もしかして、追い出される?

そんな事を思った。そんな雰囲気だ。


ひやり。こんな所まで、お金持ち差別されるんだろうか。


別世界に来てしまったんだ。

オリエンテーションの時にも感じた、アウェー感を感じる。

でも、この高校に通うしかないのだ。制服必要。気持ちは背水の陣。


まっすぐに目を見る。男は何を考えているのだろうか。

私を追い出そうとしている?


「うふっ、じゃあ、迷い込んできたのね・・・・」


静かなお店では、男の言った小さな呟きでさえ聞こえた。


あれ?

・・・・追い出されるのだろうか?

出て行ったほうがいい?


でも、その前に!!

「あのっ、私っ、制服を作って欲しくて!!」

事情を説明する。

朱青藍に、特待生で入った事、そしてお金がないので分割払いにして欲しい事。


これで追い出されるのなら、仕方がない。やりきった。

そう思って顔を上げた。


彼の顔を見てその心配はないと思った。


少なくとも、追い出される事はないだろう。

だけど。

どういう事だ。・・・・身の危険を感じる。


「ええ、いいわっ。うふふふふ。」

ひとり納得している。


そして、私の顔に手を伸ばした。

握手を求めるように、手を伸ばされ。


そして。


ガッ!!!


あごっ・・・・・っ。顎がっ。


掴まれた顎が悲鳴をあげた。顔を近づけられる。

私の顔が映っている姿が、男の瞳に映っていた。


・・・・た、食べられる?

そのまま、口を開けて頭から食われそうーーーーー


食べても美味しくないですよ!?

顎が掴まれているせいで、言葉にならない。

力が強すぎる。顎がそのまま粉砕されそうだ。


顎を片手で掴まれたまま、もう一方の手で首筋、肩、腕、腰、そして太腿を触られる。

け、警察。

いや・・・・・待って。時折メジャーで測定している事から、他意はない、だろう・・・

スカートの中まで見られたら、警察呼ぼう。

だが、後ろには女性が控えている。滅多な事ではなにも起こらないだろう。

多分。


そう思っている間に、終わった。


「ふぅん。」


何がふぅん、何ですか。

貧相な身体を馬鹿にしてるんですか。標準です。・・・・ウエスト以外。


「ええ、そうねぇ。」


顎が解放された。代わりに男は自分の顎に手を当てて何かを考え出した。

知らない単語がこぼれ出している。

多分、洋服の名前だけど・・・・・分からない。


こっちを時折見る様子。

格好良いんだけど、どこか女性的な所が気になります。


「よし、あなたにはこれと、これと、これね。」


制服を押し付けられた。

試着って事ですか?


その数、十枚以上。

女性も目を丸くしてこっちを見ている。

私もびっくりです。

多分、私たちは同じ顔をしている。


「え、あのーーーーお金が無いんですけど」

こんなに買えません、買わないのに、試着なんて。と言うと。


「ええ、いいわよ〜〜、気にしないで~~~~~その代わり、全部任せてもらっても良いかしら?」

もちろん、お金の心配はいらないわ。と続けた。


「あ、ありがとうございます」


でも、軽い、軽すぎます!

大丈夫なんですか?お金が無いとのたまったのは私ですが、悪いです。心が痛みます。

お願いです、あんまりお金は出せないんですが、ある分は出すんで出させてください!

と、押し問答をする。


「んー、じゃあどうしてもって言うなら、あなたの夏休みを頂戴。洋服を作るのを手伝って欲しいわ~~~~~~」


はい、もちろんです!!

裁縫は家庭レベルですが、今から修行します。

そう決意した。


男は鼻歌を歌いながら、私の体に制服を当てていく。

「うーん、これかしら?違うわねー、くるっと回ってみなさい、あら?運動神経はないみたい・・・・?」


「ほっ、ほっといてくださいっ。」

たった数分で秘密を暴かれ、動揺した。思わず口調が乱暴になってしまう。

そんなにすぐに分かるものなのっ!?


「んー、かわいいわー。」


「あ、顎はっうっ、やめてくださっぐぅっ。」


最初に出迎えてくれた女性、亜沙さんと仲良くなった。

亜沙さんは、男の弟子のような事をしているようで、男ーーー「先生」への尊敬がにじみでていた。


そして、値段を見て驚いた。想像以上のお値段だった・・・・もちろん最低限の買い物にしたのに、今持っている諭吉くんを全部出しても足りない。

私と諭吉くんの関係はマイナスだから、これは当然だったのだ・・・ばいばい。

そしてもちろん全部提出した。


「じゃあ、夏休みにねー!!」

「連絡しますね」

亜沙さんと握手をした。先生はご機嫌だった。お見送りまで、してくれた。


「ありがとうございました。」

しっかりと、3秒以上頭を下げる。


「ええっ!任せておいて!葵ちゃん!」と良い笑顔で言ってくれた。

その笑顔には破壊力がある。

そして、明るい陽の下で見た男の顔は直視出来ないほど綺麗な顔をしていた。

思わず顔が赤くなるのが分かる。反則だ。

慌てて。

「よろしくお願いしますっ。失礼します。」

そう言って、外に出た。


しばらくして、リムジンとすれ違った。


まだ見える位置にあった、あのお店の前にリムジンが止まり、大名行列が現れた。

護衛たちに囲まれてお店に入っていく誰かがいた。


・・・・・なんだかすごいものを見てしまった・・・・

これからの学校生活に不安を覚えた。


でも、制服問題が片付いてよかった。

あとは、引っ越しだけ!


あ、そういえば、引っ越し先はどこなんだろう?

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