表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/53

シンデレラと魔法使いの秘密

私と弁護士がした契約は、秘密だ。


「ねぇ、葵。今日は久しぶりに放課後、来栖とあたしと・・・・・」

「ごめん、湊都、ちょっと用事があって。」


ごめん、湊都。

心の中で謝り、私は急ぐ。


私は、湊都と距離を置く事にした。

湊都を巻き込むわけにはいかないから。

湊都は、私の事を大切に思ってくれている大切な友達。

彼女は私が今しようとしている事を知れば止めるだろう。

だから。


「葵!」

湊都の誘いを断るのはこれで何度目だろうか。ごめん、ごめんなさい。湊都。

振り返り、ちらりと見えた湊都の顔は何かを我慢しているように見えた。

ごめんね、そんな顔をさせて。


ーーーーーでも、私は。


公立図書館で問題集を開く。

その理由は、私と弁護士の柏木さんと交わした契約の為だ。

今日も、柏木さんと交わした契約を達成する為に頑張る。


私と弁護士が交わした契約。

それは「私立しりつ朱青藍しゅせいらん学園高等学校への進学」だ。

私立朱青藍学園高等学校は、知らぬ者はいない超名門校。


それがなぜ、進学が借金返済の手段の契約内容に含まれているのか。


それは「奨学金」。

私立朱青藍学園高等学校は、多くの財閥子息令嬢の通う学校。

それ故に、支給される奨学金は他の学校と比較にならないほど高額で。

借金を背負った私にとって、勉強してお金が貰えるという願っても無い環境が提供されるのだ。


だが、その為には入試に合格しなければ。勉強しなくてはいけない。

もう中学三年の冬。

この学校に進学する為だけに勉強してきた人もいるほどだ。

こんな事にでもならなければ、地元の高校に進学しようと思っていた私にとって、問題の傾向も異なれば、レベルも全然違う。

今までやってきた受験勉強をすべてやり直し・・・・今の私では解けない問題も多い。


合格は、ほぼ不可能に近い確率だ。

でも、やるしか無い。これしか無いのだ。

この試験に合格すれば、不可能だと思っていた「周りの人間を巻き込まない事」「二億の返済」のメドが立つ。

この提案をした弁護士の柏木さんは、文字通り魔法使いに見えた。

だが、この提案には問題がある。合格しなければ。

これが出来なければ、二億もの借金を返済するなんて不可能だ。


文字通り、寝ずの勉強。勉強は今までもしていたほうだとは思うが、それ以上。

ひたすら、ひたすら。


そして、クリスマスは過ぎ。初詣も過ぎた。

そろそろバレンタインが近いある日。

受験は、もうすぐ。


湊都とは、柏木さんと契約を交わした後から距離を置いたままだった。

私と湊都の間に挟まれた来栖は、戸惑っている。

でも、直接何かを言ってくることはなかった。湊都が間にいなければ、来栖と話すことはあまりなかった。

クラスに漂う雰囲気も緊張感を増し、みんなどこか浮かない顔をしている。

笑っていても、次の瞬間にはどこかを見ていたりする。

・・・・・・・もうすぐ本番。


「・・・・・・」

雪が、降っていた。


限界は、すぐに来た。


「葵!!」


「今、勉強・・・・」


バァーーーーーーーン!!!

湊都が、机を叩いた。シャーペンが転がっていく。


クラスメイトは何事か、と私と湊を見た。


「葵、どういう事なの?今、聞いたら、葵、希望校変えたって。」


ああ、ついに来たか。


どうして、私に言ってくれなかったの?

私たち、友達じゃないの?

湊の目が、そう私に訴えてくる。


友達?


私だって。そう思ってーーー


ーーーーーーそうじゃないよね?

誰かが囁いた。


ダメ。言うの、私。


「湊には、関係ない。」


これは、禁句だ。

湊都は、友達である私の事を自分以上に考えて心配する子ような子だ。

そんな湊都だから、私は湊都と距離を置いた。巻き込みたくないの、ごめん。

湊都。私は。


ばぁーん、頬を叩かれた。

叩いた湊都の方が、痛そうな顔をしていた。湊都は泣いていた。


「私はっ、葵の事、友達だって思ってたのに!!」

そう言って、湊都は教室から出て行った。


思い出す。

「葵は私と一緒の高校に行くのよね~~~~~~~っ!!」

「うん、一緒の高校に行こう?」


湊都。


そこに、運悪く席を外していたらしい来栖がやって来た。

立ち去る湊都。頬を抑えている私を交互に見た。


何があったんだ、と訴えてくる。


「おい、葵ーーーー」

来栖は無視して、教室を出た。


ーーーーーだって。巻き込みたくない。これで良かったんだ。

湊都の事だ。私の事を心配してる。

そしたら。迷惑をかける。巻き込みたくない。


違う。これは。


巻き込みたくないからって。そんな理由じゃない。


私が朱青藍に行くと知ったら湊都は私と朱青藍を受験するだろう。

湊都は、成績がいい。頭もいい。私よりも。

そしたら、ーーーーライバルが増えるから。

奨学金が。お金が、貰えなくなるから。私は。


湊都に、朱青藍に来てほしくない。


巻き込みたくないから?

いい子ぶるんじゃない。

だだ、ライバルを減らしたいだけだ。


湊都の言葉を思い出した。

「葵って、いい子だよね。」


私はそんなに。いい子じゃ無い。


その事に、初めて気づいた。

ずっと、いい子にしよう、自分はいい子だって思ってた。


本当の私は、もっと、ずっと、どろどろしてて。

他人に、見せられない。こんな、私。


気がつくと、人気のない場所まで来ていた。

誰もいない。教室、廊下。私ひとり。


もう、ヤダ・・・・・。

どうして、こんな目に合わないといけないの?

友達まで。傷つけて。


ごめん、ごめんなさい、湊都。


どうして…………視界が滲んだ。

もう、嫌だ。やめたい。全部。

目が熱くなって、涙が落ちる。すぐに冷たい空気に触れて、痛みに変わる。


もう、やだ、やだ、やだ。

そう、心の中で思うたびに涙が溢れてくる。止まらない。


止めようと。ごしごしと、こする度にひりひりとした別の痛みに変わった。


う、ひっく、喉の調子までおかしくなる。

ダメだ。ここは学校。

こんな所で、泣くわけにはいかない。


授業には出ないと。

「・・・・・・大丈夫。」

呟く。

泣き腫らした顔は酷いものだった。

人気のないトイレの水道で、洗うと何とか見れる程度になった。


教室に行くと、クラスメイトの視線。見られている。

顔をあげた。

湊都はこっちを見ていた。私は目を逸らした。


俯いてしまう。


視線をあげた。湊都と目があった。逸らされる。

授業中は、もう目が会うことはなかった。


結局、そのまま湊都とは一言も話すことなく。

私は中学校を卒業し、そして朱青藍学園高校に合格を決めた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ