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シンデレラと魔法使いの契約

育ての親である彩子さんは私が中学生になってから、家に帰ることが少なくなっていた。

でも、弁護士が会いに来てからは、毎日のように家に帰ってくるようになっていいる。

ーーーーー心配されている、と思う。

でも、だからこそ言えなかった。

彩子さんは、財閥が破綻した事や本当の父母の事を知らない。

私が捨てられたいらない子どもだったって事も。


その事を知られたくなくて、弁護士にはお願いをして駅前のファミレスで話をする事にしてもらった。


そして、ついにその日が来た。

具体的な事は何も考えていない。何も考えられなかった。

アイディアなら、たくさん考えたけど。どれも役にたたなさそうだった。

現実味に欠ける。・・・・・宝くじを当てる、とか。


ファミレスで席に座って待っていると、すぐに弁護士の姿が見えた。

手を挙げて合図をする。


「こんにちは」

軽く会釈して、弁護士は席に座った。

注文を取りに来たファミレスのお姉さんにコーヒーを頼む。あ、私はいいです。

お冷やがあるんで。嫌なお客だなと思う自分。

弁護士は追加でイチゴパフェを注文していた。今流行りの甘党男子。


「早速ですが、」

ファミレスのお姉さんが行ってしまうと、弁護士は話し始めた。


「これが、あなたの抱えている負債です。」

覗き込む。


198665256


約2億。


ゼロが一個も無いところに、現実味を感じた。

一円単位までしっかりと明記されている。


「これ、で全部ですか?」

財閥の負債というから、もっと大きな額を想像していた。

でも、二億。宝くじを一回一等当てれば返済できる額だ。

なんとかなりそう?これ以上増えなければ。


「はい」

にこ。


「本当ですか?」


「ええ」

にっこり。


怪しい・・・・・本当に?


「どうして、そんな事聞くんですか?」


「あの、これ以上の金額を支払うつもりでいたので!!」


自分じゃないみたいに、声が震えていた。

私は、この借金を返す方法もまだ考えついていない。

こんな借金を背負わなくてはいけないという不安もある。


ぶはっ。

弁護士が噴き出した。空気を。

そのままプルプルと体を震わせる。口元を押さえて俯いた。


そのタイミングでファミレスのお姉さんが料理を持ってきた。

そのお姉さんは、弁護士の笑顔を見て頬を染めた。

そして、私を見てにっこりと笑った。ーーーー素敵な彼氏さんですね。

そんな声が聞こえた。

私はその言葉に否定も肯定もせず。ただ見返した。

ファミレスのお姉さんは、微笑んで向こうへ行ってしまった。

「・・・・・・・・・」

黙ってそれを見送った。

借金を背負ってしまうと、あらゆる感情が鈍くなってしまうようだ。二億の力。

もう、どうでもいい。実際は違うし。弁護士も弁護士でそれどころではないようだ。


私の顔を見て、にこにこと笑っている。

何が面白いのか、思い出し笑いをしている。

この人は、よく笑う人だ。そういう人なんだと思うことにする。


何も感じない。


ただ、お冷やを飲む。冷たくて美味しかった。


弁護士は気を取り直してーーーーにこにこと。


借金について話し始めた。

私が、この金額を少ないと感じたのは間違っていなかったらしい。


弁護士は、説明する。

「まず、安心して下さい。借金はこれ以上増えることはありません。きちんと私が手続きをしておきました。」

にっこり、笑う。何故か背中がゾッとした。


「そして。あなたが負うことになるこの借金は、三原財閥破綻の負債ではありません。三原氏ーーーあなたのお父さん個人の借金です。」


「え?」

二億が?


「実は財閥破綻していません。三原氏がーーーー三原氏の家族が。財閥から排除されただけです。」


「え?」

何ソレ、初耳です。

そう言って、弁護士はスマホを取り出して。

そうやって見せられたのはとある有名ブラウザが提供しているニュースページだった。

記事には、デカデカと三原財閥のトップ交代について書かれている。


「会社は残っているけれど、その社長が入れ変わったって、事ですか?」


「はい」

弁護士は答えた。


「・・・・・良かった・・・・」

「え?」


弁護士から話を聞いた後。


私は、考えた。

ものすごく考えていた。

財閥が破綻して、負債があるって事は。

たくさんの人が失業した事になる。たくさんの人々が、生活に困ってしまった。

路頭に迷う人もいるはずーーーーもしかしたら、家族がバラバラになってしまったり・・・・・した人もいるかもしれない。

そんな事が想像できて。そんな事をしてしまった原因が、自分に父親である事が。


・・・・・私、土下座したい。


謝りたい。


一人一人に頭を下げて、土下座でもしなければ、いけない。

お父さんは、「あんな男」だ。

あんな男の娘に、頭を下げられても困るだろう。

心から謝罪をしたい。ごめんなさい、と。


でも、それだけじゃダメだ。

彼らが生活に困らないぐらいのお金も一緒に渡さなければ。

ーーーーーその為には借金を必ず、まず払う。


そう考えていて。


でも。

財閥の負債の額も分からない、

生活に困らないぐらいの額がどれぐらいなのかも、具体的には分からない。


だから、弁護士あなたに相談しようと思っていた、そう話した。


「良かった・・・・です」

そんな人たちが、現実にはいない事が分かって。


じゃあ、この二億を、必ず返せばいい。

今まで私の本当の父親は、人に迷惑をかけていたのだろう。

この借金を返す事で、少しでもその穴埋めができれば。


「あなたは、嫌じゃ無いんですか?」


「え?」


「いくら父親だといえど、顔も知らない、しかも育ててもらったわけでも無い。しかもあなたは捨てられていたんですよ?都合のいい時だけ利用されて、連帯保証人にされてーーーーこんな額の借金を背負わされてーーーー怒ってもいいんですよ?」


「どうして怒るんですか?」

私が、怒る?どうして?

それよりも何故か、私よりもあなたが怒っている気がする。


目の前にいる弁護士は、絶句した。


「それに、怒るとか考えたこともなかったです。それにあなたが私に借金の返済をして欲しいって会いに来たんですよ?」


ちゃんとした理由がなければ、借金を背負ってはいけないのだろうか?

元はと言えば、私の父親が作った借金だ。父親が借りて使ったお金。

これを、私が「父親が借りたお金で私が返す必要がないから返さない」と言ったら、貸した人にお金は帰ってこない。

貸した人にとっては、こんな酷い話はない。

だったら、私が返さなきゃいけない。これは、誰かが背負わなくちゃいけ無い事だ。

それが、たまたま私だっただけの事。


だから、


「私、マグロ漁船でも、闇の世界でもどっちでもいいです!!絶対に返済してみせます!!心配しないで下さい!!」


私は立ち上がると、弁護士を指差して宣言した。

頑張りますよ、二億の返済!!

財閥破綻によって、路頭に迷った人がいないって素晴らしい報告も聞けた。

今なら、なんでも出来そうだ。


「ちょっと、待って下さい!!ここで何叫んでるんですかっ!?」


あ。見るとファミレス店内にいる人が立ち上がった私と弁護士を見ている。


ちょうどいちごパフェを運んできたファミレスのお姉さんは、弁護士を生ゴミを見るような目で見ていた。

そう言えば。弁護士をスーツで、誤解を受けやすい格好をしている。


「落ち着いてください。マグロ漁船に乗る必要もない、闇の世界?ーーーーあ、いや夜の世界で働く必要もありません!」


焦る弁護士。微笑みが崩れた。その代わりにファミレスのお姉さんがにっこりと私に笑いかけた。

ごめんね、さっきは誤解しちゃって。と耳元で囁く。謝られた。知らぬ間に誤解が解けたらしい。

最後に、弁護士を睨むとーーーーーあのお姉さん、度胸あるなぁ。

他のテーブルに向かった。


女性にあんな目で見られたのは初めてです、と弁護士は胸を抑えた。弁護士さんは美形だから。


そして、弁護士はひとつの提案をした。

私が、マグロ漁船に乗る必要もなければ、夜の世界で働く必要もない、ある提案を。

弁護士は、それを「契約」と言った。


契約。

そう言われると、なんだか悪魔と契約しているような気になる。

私は差し出された紙に、サインをした。


「ああ、それと。私の名前は柏木隆道かしわぎたかみちです。長い付き合いになると思いますから、よろしくお願いしますね」


そう言って、柏木はにっこりと微笑んだ。

思わず、見とれてしまうぐらいに魅力的な笑顔だった。

微笑の悪魔?


悪魔はファミレスのお姉さんに、じと目で見られていた。

柏木さんは、私にいちごパフェを差し出した。


「甘いものは、嫌いなんです」

じゃあ、なんで頼んだんだろう?

もしかして、ファミレスのお姉さんに睨まれているから食べずらいのだろうか?

甘党男子は、苦労すると湊都に聞いたことを思い出した。


そう思って、スプーンに掬ったいちごパフェを食べてもらう。

ファミレスのお姉さんの誤解が解けた。

いちごパフェは、甘くて美味しかった。



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