シンデレラの憂鬱
完全なる私の勘違いだった。
自分が実は「財閥令嬢」である事を知らされた時。
自分がシンデレラーーーーみたいだと、浮かれていた。柄じゃないけれど。
あんな夢を見てしまうぐらいには。
そして、このことを伝えに来た弁護士は魔法使いに見えていた。
シンデレラを、王子様の元へ連れて行ってくれる魔法使いに。
王子様ーーーー私を十年以上も探してくれるような家族がいる。
会いたい、会ってみたいと。純粋に。そう、思っていた。
でも現実は、違った。
私は、会った事もない実の父親が作った借金を背負う為に見つかった「財閥令嬢」だった。
本当の父親と母親は何年も前に私を捨てていて。
「・・・・・・・葵?」
心配そうな声に顔を上げた。
まだ仕事が残っているらしく、育ての親である彩子さんは書類と向き合っていた。
安定の社畜だ。
「え・・・・どうしたの?お母さん。」
「大丈夫?」
「大丈夫だよ。」
お母さん。彩子さんには迷惑はかけられない。
私はまだ、彩子さんに事情を話していない。
怖かった。
いきなり借金を背負った娘。
しかもそれは自分とは血も繋がっていない、赤の他人の子ども。
当たり前に恩返しも考えていたし、ずっと遠くの事だと思っていたが、将来の事だって・・・・・実感はなかったけど。ぼんやりとは考えていた。
でも、こんな借金を背負ってしまった。
そんな当たり前の事が出来ないかもしれない。
母に迷惑をかけるかもしれない。
そんな娘。
普通だったら、嫌だ。自分自身が母親だったら。
間違いなく迷う。見捨てるかもしれない。だって彩子さんと私は実の親子じゃない。
血の繋がっていない他人なんだから。
ーーーーーーお母さんに拒絶されたらどうしよう。
捨てられたら?
私は、この居場所を失いたくない。
だから、言えない。
言いたくない。
「葵~~~~~~~?葵ってば?」
「えっ」
湊都が、顔を覗き込んでいた。
「葵、さっきから呼んでるんだけど・・・・聞いてた?」
「あっ、ご、ごめん。湊都」
学校。今は三限目だ。
「大丈夫?熱でもあるんじゃないの?」
おでこに手を当てられる。
うーん、熱は無いみたいなんだけど。
「あ、湊都、だ、大丈夫だから!!」
「本当に?もうすぐ受験なんだから、体調には気をつけないと!」
「う、うん」
ごめんなさい。湊都。
ーーーーーー頭の中は借金のことでいっぱいだった。
高校受験に向けて、問題を解いている。
でも、
どうしたらいいの?
「・・・・・」
目の前の問題よりも、これから。
これからどうしようか。どうするべきなんだろうか。
私はまだ中学生。
お金を稼ぐ事も出来ない。
稼げたとしても、財閥が破綻した借金を返せるほどは稼げない。
こんな事、誰にも言えない。
問題を解く手が、止まった。
何も、無いんだ。私には。
借金を背負うとしても、まだ何も出来ない。
すぐに就職しても、財閥が破綻した分の負債なんて支払えるはずが無い。
まだ詳しい額なんてまだわからないけれど。それぐらい分かる。
湊都や来栖、お母さんにも心配されながら、でも。誰にも相談することが出来ずに。
とうとう弁護士と会う日がやってきた。