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シンデレラのお父さん

「気が、変わった」

そう呟いた弁護士。


え?

なんの気が変わったのだろうか?


・・・・何故か、怖い。


「・・・・・・・・」


スルーする事にした。

世の中には、触れてはいけないものがある。


またもや沈黙が私たちの間に落ちた。

・・・・・打開しなければ。辛い。


「あのっ、どうしてあなたはお父さんをよく思ってないんですか?」

さっきから、あんな男のだの・・・・と。思い切って、聞いた。


「・・・・・・・」

弁護士の顔が歪んだ・・・ように見えた。

実際は何も表情が浮かんでいない。常に浮かんでいた笑みも消えた。

空気が凍った。


・・・・地雷?

まさかの地雷を避けて地雷を踏んだ。


「・・・・・・ご、ごめんなさい」


「いいえ。・・・あなたは何も知らないんですよね。」


にこり。


は、はい。頷く。首が勝手に動いた。


にこっ。


許してくれたようだ。次はないです。


「聞いていてくださいね、ちゃんと。」

にこり、笑う背後に般若が見えて。


何を聞けばいいのか分からないけど。


「・・・・・はい。」

震えが止まらない。


弁護士は、説明した。


「三原財閥」は、戦後、造船を中心とした重工業で成功した新興財閥です。

三原財閥は、新興財閥ながら堅実な経営と独創的なアイディアでそれなりの財を成していました。

あなたの父親。三原景司みはらけいしに会社が渡るまでは。


みはら、けいし。

私のお父さんの名前。三原景司。


三原景司氏ーーーー三原氏の会社経営は杜撰なものでした。

株で大損するわ、新規事業に手を出し、失敗の連続。

典型的な甘やかされて育った坊ちゃん。問題児。

あなたのお祖父さんは、会社を大きくする才能はあっても、後継者を育てる才能は無かったみたいですね。

各方面でも様々なトラブルを起こしていました。

特に顕著だったのが、女性問題です。

三原氏は他の財閥からもらった本妻もいましたが、その他に何人もの女性を囲っていました。

財産目当てで出産した女たちもいます。

子供は全部で、八人。

全員異母兄弟で。腹違い。


不意に出てきた、私の「きょうだい」の話。

私には、「きょうだい」がいたんだーーーーー。


私の顔を見て弁護士は。

ああ、勿論仲は良くありませんでしたよ。

全員、三原財閥の財産狙いでしたからね。誰が当主になるかで年中揉めていました。


「きょうだい」の関係について教えてくれた。

どんな人達なんだろうか、もしかしたら仲良くなれるかな?と思っていた心が折られた。


三原自身は、また凝りもせず女遊びに耽っていました。

女遊びもそうでしたが、一番は浪費と無能な経営ですね。

当然の如く会社は傾いていき、ついには破綻したんです。


ああ、ちなみに財閥が破綻した時に、女達は全員三原の元から去って行きました。

去っていった、と言っても去り際はあまりにも酷いものがありましたがね・・・・・・あの女達は、財閥よりも自分の身の安全とばかりに資産を総取りしていきました。


そう弁護士はそう言って、笑った。自業自得だと。


「・・・・・・・・」

私の想像していた「お父さん」像が音をたて崩れ落ちていった。

言葉が出ない。

思い描いていた「家族」や「夫婦」の姿も崩れ落ちていった。


そして。

依宮紫苑よりみやしおんーーーー私の本当の母親についても説明された。


彼女は三原の愛人のひとりだった。

財産狙いで三原と付き合い、そして私を出産したものの、すでにいた愛人達との争いに負けーーーーーちなみに、母親は私を出産するまで他の愛人の存在は知らなかったらしいーーーーー本妻の存在は知っていたらしいけどーーーーー不倫して財閥夫人の座に収まろうとしていた母は、他の愛人たちとの争いに負け、私を連れて三原家を出ていったらしい。

そしてすぐに、私を捨てた。

実の母親にとって私の存在は、財閥夫人の座に収まる為の道具にすぎなかったらしい。


ーーーそして依宮紫苑は、以前関係のあった男に、子どもを押し付けたようです。


弁護士は、そこで言葉を切った。


押し付けられた男は、押し付けられた子どもを彩子さんに押し付けた。

彩子さんに聞いた、雨の日の男は、それだろう。

その子どもが、私。


話が繋がっていく。

自分が想像していたのと、全く違う現実。

現実だというように、全ての辻褄が合う。

パズルのピースが、はまるように。


そして、気づいた。


弁護士の声が聞こえる。


「あなたが十年以上も行方不明だったのは、何も見つからなかった、からではないんです。ただ、探されなかっただけです、あなたは三原氏にとってどうでもいい存在だったんです。」


じゃあ、

「どうして・・・・・・」


私は、見つかったのか。

言葉を口にするのが、怖かった。


「・・・・・・もしかして。私は、財閥が破綻した借金を背負う為に?」


見つかったの?

ずっと探していた、んじゃなくて。

ただ、負債が出来たからその埋め合わせのために探されて、見つかったって、事なの?


「はい」


そんなのって、ない・・・・・

意図せずに知った、私の血の繋がった本当の家族の話。


「・・・・・はぁ・・・・」

弁護士は、深い深いため息をついた。


そして、私を見た。

固まった私と、目が合う。


にこり。


「明後日、また来ます。ーーーーーー予定、開けておいてくださいね。」

有無を言わさず。


「ね?」

にこり。


「え・・・・・・・」


そう言って弁護士はすぐに帰った。今までと同じように。

私には、弁護士を呼び止める事が出来なかった。


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