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少年兵士 剣斗

ここは大和の国。この列島には今大小100の国々や部族がその覇権を争っていた。列島の中央に邪馬台国という国があった。予言者である女王卑弥呼が治める国で、この国が今大和国で最も大きな国だった。この物語の主人公はこの邪馬台国の兵士で名を剣斗といった。剣斗は十五になったばかりの若輩者で剣術も体術もまだまだまるでなってなかった。それにガリガリに痩せていたので周りから骨っ子剣斗といつもからかわれていた。しかし剣斗は心根が良かったので先輩たちから何かと可愛いがられてもいた。

「剣斗。今日もばっちり鍛えてやっからな」

「はい!よろしくお願いします!!」

剣術、体術の鍛錬に勤しむ剣斗。

「あー終わった。今日も散々しごかれたな。でも全然上達しないや。俺、兵士に向いてないのかなぁ」

寝泊まりする兵舎に帰る道すがら、何やら道端が騒がしい。5、6人の少年たちが何やら騒いでいる。少年といっても剣斗とそう大差ない年齢で、半分くらいは剣斗より体が大きく、喧嘩になったら負けてしまいそうだ。とにかく何の騒ぎだと近寄って見てみると、少年たちがよってたかって子ぎつねを蹴ったり叩いたり棒きれでつついたりしてイジメていた。何で逃げないんだ?と思ったが理由はすぐに分かった。子ぎつねの後ろ脚が鉄製のカギ罠に挟まれている。あれでは逃げられない。

「ほれ、狐ならネズミにでも化けて逃げてみな」

「人間さまにでも化けてみれば見逃してやるぞ」

そう言って少年たちはいたぶり続ける。正義感の強い剣斗は怒りを覚えた。そして少年たちの後ろから怒声を上げた。

「おい、お前たち。いい加減にしないか。自分よりも弱い者を大勢でイジメて何が楽しい?お前たちみたいなカスがいるから戦や犯罪がなくならないんだ!」 そう啖呵を切っていた。少年たちは互いに呆けたように顔を見合わせた。

「なぁんだぁ、コイツ。俺たちをカス呼ばわりしやがったぜ」

「いるよなぁ、コイツみたいな、俺正義の味方、みたいな奴」

「やっちまうか」

「あぁやっちまおう」

「でもコイツ剣持ってるし、宮廷の兵士みたいな服装してるぜ。さすがに武器使われちぁな」

ここで少年たちは突然大笑いした。

「剣を持ってるだけでひるむとでも思ったのか」

まだ小さな少年がしゃしゃりでてくると 威張って言った。

「お前、俺が誰だか知って喧嘩売っているのか?俺の父は宮廷の右大臣田狭朝臣たさのあそんだ。お前みたいな下級兵士の出る幕じゃぁないんだよ」

右大臣だとぅ。その息子。これは絶対に手を出せない。万が一怪我でもさせたら首が飛ぶのは確実だろう。いや、こうして対立しているという事実だけで命の危険を感じる。

「狐イジメは飽きたな。コイツをやっちまえ」

そう言うなり全員が踊り掛かってきた。腰の剣は剥ぎ取られ、力の強い奴に羽交い締めにされると、後は殴る蹴るのリンチが何時果てなく続いた。内臓をやられたか、大量の血を吐いた。「うぉ、これ以上やるとコイツ死んじまうぜ」「しょうがねぇな、ここら辺で勘弁してやるか」一通り剣斗をいたぶった悪ガキどもは「身の程を知ったか。これに懲りたら正義の味方ごっこはやめるこったな。ガリガリ君」

とあざけ笑いながら去って行った。

「ちくしょー」

剣斗は地べたに這いつくばって、滝のように涙を流した。口の中もいっぱい切っていたので口の両端からドロリドロリと血が流れ落ちていた。体中が痛い。口の中が血で一杯で息が出来ない。しかしこの痛さや苦しさより何より、情けなかった。大臣の息子だからといっても悪いのはあちらの方。もう少し毅然とした対応が出来なかったものか。しかし若干十五歳の剣斗にあの場面をくぐり抜ける上手い手を考えつけという方が無理というもの。これはこれでしょうがなかったのだ。むしろ命があっただけでも儲けものだったかもしれない。しかし、それでも、剣斗は悔しくて悔しくて堪らなかった。涙が次から次へと溢れ出て止まらなかった。しばらくして落ち着くと今自分が真っ先にやるべきことに気付いた。子ぎつねを助けることだ。その為にこんな傷だらけになって、自己嫌悪にも陥っているのだから…。剣斗は涙を袖でゴシゴシと拭った。「待ってな。今逃がしてやるからな」

剣斗はカギ罠を外してやり、さらに子ぎつねの後ろ脚の傷を懐から取り出した手拭いで包帯代わりに巻いて止血してやった。そこで力尽きた剣斗は地べたに突っ伏して意識を失うのだった。

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