柊 愁生
目の前に居る人物は息を切らしていて肩が上下に動いている。見た目は二十代前半ぐらい。一面紫の中に咲く白い紫陽花の着物を着て、とある人物を見据えていた。
「悠真!」
そう言うのと同時に悠真に抱き付く。
当然周りは訳も分からない状況だ。
「…愁生…さん」
悠真の言葉に更に驚く。
それは悠真がさん付けで呼んだ事だ。余程心を許してるのだろう。
「なぁ、おっさん誰?」
「こらっ朝日」
「ん?あははは。別に良いさ……俺は柊 愁生、序列は四位だ」
朝日におっさんと言われたが怒る事もなく笑い返した。さっきまであった愁生と朝日達の壁は崩れ去った。
「…愁生様!
何かの伝達ですか」
「あははは。
よく分かったな?悠真、当主がお前を呼んでる」
当主という事は悠真を追い出した本人だ。悠真も本当は会いたくないだろう。
「………分かりました」
「待って! 行っちゃダメ」
立ち上がる悠真を止める朱里。その眼は今にも涙が溢れ落ちそうだった。
「離せ。
序列は絶対だ。呼ばれる事は既に覚悟出来てた」
「………なら、彼女も付いてくると良い」
優しい顔付きでそう言う愁生。
嬉しい気持ちの朱里だったが心配にもなる。
当主に呼ばれたのは悠真だ。そこによそ者である自分が入っても良いのかと。
「心配なら要らない。本人が望むなら友達と一緒でも大丈夫だそうだから」
「良かった」
「…………」
応接間を出て最初に入った玄関から外へ出る。
当主が居る場所は違う所らしい。
「さぁ、こっちだよ」
愁生を先頭に本邸の林の中を進む。
林の中はきちんと整備されていて歩きやすい。
しばらく歩く本邸にも負けない程の立派な和風の屋敷が見えて来た。
「見えました、そこに見える建物が本当の本邸。
当主も中にいらっしゃいます」
真剣な顔付きに変わる愁生に朱里の心臓はバクバクだった。




