生き物
怖いと言うよりは悲しくなる。これは同情ではなく、悠真の瞳の奥に隠した悲しさなのだろうと朱里は思った。
悠真は朱里を睨み、拳を強く握る。殴られると思った朱里だがそれは違った。
「……そんな奴だったんだな」
発せられた言葉は悲しみや飽きれが含むような朱里にとっては重たい言葉だった。何とか反論しようとするがショックで口が回らない。
そんな事をしている間に悠真は行ってしまった。
「…わ、私はただ………悠真の事をもっと知りたかっただけなのに」
朱里の瞳からポタポタと水滴が落ちる。みるみる畳を濡らしていく。そんな朱里に見かねた時雨は朱里に数歩近付く。
「相手を知ろうとするのは悪い事ではありません……ただ、今回は立ち聞きという形でしたから悠真も怒ったのでしょう」
泣いている朱里に対して時雨は優しく声を掛ける。他から見れば時雨は普通の人間に見えるだろうが実際は(半)妖怪だ。
「はい…………私。悠真に謝ります」
「きっと許してくれますよ。 そうそう、朱里さん少し手をお借りしても?」
すっかり涙が枯れた朱里は本来の明るさを取り戻していた。それを見ていた時雨は手を差し出すように言う。
「え? は、はい」
「ありがとうございます…………」
笑顔で礼を言うと時雨は差し出された朱里の左手に自分の手を重ねる。と同時にポワンと暖かい何かを感じた。
不思議に思っていた朱里だが時雨が手を離したのでもう終わったらしい。
「あの……さっきのは?」
「龍王様の屋敷は広いですから。ここに来るのもやっとだったでしょう…迷惑を掛けてしまった償いだと思って下さい」
ホストのような笑顔を浮かべる時雨に思わず苦笑いだった。
「あ、そうだ。 この子が居なかったらここにたどり着けませんでした」
そう言って側にいた生き物を抱え上げる。
「…おや、紫焔ではないですか」
生き物を見た時雨の表情がより穏やかになる。
どうやらこの生き物も妖怪らしい。




