紫音
「ぐっ……エロじじいは恐らく来ない。ここは俺達が何とかするしかない」
苦しそうに数歩あるいてそう言う。どうにかしなければいけない。頭では分かっていても行動に移せないでいた。それは相手が強すぎると、皐月達がボロボロという理由だ。時雨の力は悠真にも分からない。絶対絶命だ。
「…なぁ、晴人。 俺達も加戦した方がよくないか?」
「………そうですね、我々も入りましょう」
長い沈黙の間、晴人は静かにそう言った。加戦と聞いて張り切る朝日と見るからに不安そうな氷乃。不安な気持ちは分かる。だがやらなければいけないのだ。
「…うっ……あれ」
(…私、いつの間に倒れて……え?)
まだ意識が朦朧とする中、朱里は前を見据える。最初の優しい印象である時雨とは別のものとなっていた。チクチク刺されるような殺気。自然と体が震える。今の状況は分からないがボロボロの悠真達を見て何となく分かる。危機的状況にあると。
(私、眠ってたんだ……どうしたら時雨さんに勝てる?)
朱里は目を閉じて考える。過去に話をした事を一つ一つ思い出していく。二手に別れた時…いや、もっと前だ。森の中を歩いてる時?いや、違う…………そうだ。森に入る前に龍王さんが言ってた事だ。
「確か――――光に弱い、的な?」
「ほうほう いい考えだがほしいな、若い女性よ」
突如、後ろから聞こえた声にドキッとした。力が入らず立ち上がれないままだが頑張って後ろを見る。そこには見るからに危ない人が立っていた。表裏赤と黒のマントを付け、吸血鬼のような格好をした男だ。危険過ぎる。
「お前は光属性なのか?」
「は、はい」
危険な男の質問に思わず答えてしまった。後悔と疲れで地面に頭を付ける。男はというと、うーんとうねっている。そう言えば大切な事を聞いていなかった。
「って、あなたは誰ですか!」
指をさしてそう言うと男はフ、フ、フ、フと笑い始めた。そう言えばさっきから私ばっかり喋ってる気がする。辺りを見回すと皆チラチラとこっちを見ていた。そこで気付いた。知らないふりをした方が良いと。
「よくぞ聞いてくれた。俺は紫音と言う。分かると思うがヴァンパイアと人間の半妖であり、時雨の(自称)ライバルだ!」
男は目立ちたいのか、いちいち声と動作が大きい。それにライバル(自称)と自分で言ってる事やヴァンパイアと人間の半妖という明らかに設定のある怪しい。ここは悠真に確認した方が早い。
「ねぇ、悠真ー! 紫音さんって知ってる?」
地面に横たわったまま悠真に訪ねる。悠真は心底めんどくさそうな顔をしているが顔はこっちを向かない。
「……ただのバカだ。気にするな」
「な、なぁんだとぉ!」
ただのバカ。何となく分かる。




