転入の理由
突然過ぎる悠那の行動に周りは唖然とする。秋葉は思い出したかのように「号令」と日直に言った。悠那は小さく「バイバイ」と言って空席である自分の席へ戻っていった。
HRが終わると悠真、悠那の席にクラスメートが押し寄せる。悠真はうんざりと空を眺めているが悠那は嬉しそうにクラスメートの質問に答えていく。
(………出るか)
悠真が空からドアへ視線を移すと教室の廊下には他のクラスや学年の生徒も見に来ていた。これでは外に出る事が出来ない所か、捕まれば質問攻めに合いそうだ。
「……ハァ」
短いため息を漏らし悠真はもう一度空を見つめる。
「………」
そんな悠真を見つめる悠那は少し微笑むと席を立ち上がる。クラスメート達の視線を浴びるが気にしない。囲んでいる生徒達を避けながら悠真の席に行く。悠真は少しだけ悠那を見る。
「……ねぇ、お兄ちゃん。二人だけでお話ししよっか」
そう言って悠那は悠真の腕を掴むと無理矢理席を立たせる。
「おい!」
「へへっ。ディ・フェウス・ウィード」
悠真と悠那の足元に赤い魔法陣が展開する。あっという間に構築が完了し、何本もの炎の渦が二人を囲むとすぐに姿が消えた。
「え、悠那ちゃん魔法使っちゃったぜ」
「ヤバイよな」
「………悠真」
二人が消えた跡を見て朱里はそう言った。何故か胸が張り裂けそうな程、悲しかった。
悠那の魔法で移動した場所は屋上だった。空は雲一つ無い快晴で春の風が暖かい、居心地の良い風だった。
「……何故、こんな所に」
「それはお兄ちゃんが知ってるんじゃない?……何で私がここに居るのか、とか知りたいんでしょ」
悠那は屋上に設置してあるベンチに座り微笑んだ。春の風が悠那の髪を揺らす。
「そうだったな。悠那、お前はあの人に言われて俺を連れ戻しに来たんだろ」
するとさっきまで微笑んでいた悠那の表情が変わり驚くような表情をした。
「あはは、いきなり核心突くんだもんなぁ…うん。お兄ちゃんの言うとおりお祖父様に言われて来たの」
「…………」
悠真は無言だ。悠那はこのやり方に負い目を感じていた。いくら一族の為とはいえ一度追い出し、再び連れ戻しに来たと言われればさすがにキレる所だ。
「……悠那が連れ戻しに来ようが俺は帰らない。言っておくが復讐なんて考えてない…ただ、俺の場所はあの家じゃないという事だ」
(やっぱりキッパリと否定された…か。それなら)
「…ふぅん。それじゃ仕方ないか、私も古株寮に入るね」
「……っ!」
案の定、悠真はビックリしているがそれを見て悠那は笑う。
「あは、はは。ふっ、何度見ても悠真のビックリした表情笑える」
言った後で自分がやってしまった事が分かった。
「…やはりな。お前は俺を"お兄ちゃん"と呼んだ事が無いからな……一族にそう言えと言われたのか?」
悠那の表情が曇る。どうやら本当のようだ。
「…うん。悠真も"悠人"の事もお兄ちゃん、悠人は様付だけどね、そう言うように言われてたの」
(…悠人)
「あっ、ごめんね!悠真…悠人の事苦手だったもんね」
「別にいい」
そう言って悠那の頭を撫でる。すると顔を真っ赤にさせて微笑んだ。
「あ、私ね悠真と間違えられた事があったんだ!嬉しかった」
「…そうか」
妹の前だけに見せる悠真の表情は兄としての表情だった。




