conclusion
黒髪の青年が汀を見ている。見慣れた姿だが青花ではないということは一目でわかった。
青花はあんなに優しく笑わない。
やがて青年の傍らに白い獣が二頭出現する。犬神と化猫であることは一目瞭然だ。
青年は獣たちに何事かを言い聞かせているようだったが、頭を撫でると汀に近づいてきた。犬神は青年とは反対の方向へと駆けていく。
「猫をよろしく」
立ち止まった青年は明らかに汀に向けて言うと去っていく。青年を呼び止めようとした汀は何かが足にまとわりつく感触に動きを止めた。
化猫が頭や体を足にすりつけ、二股に裂けた尻尾を絡ませている。抱き上げるとぐるる、と獣の低いうなりが聞こえた。
振り返ると青年の姿は消えていた。しばらく、青年が去ったと思われる方角を眺めていると化猫が何かを促すかのように汀を尻尾で軽く叩く。
汀も犬神が去った方へと歩き始める。どこへ、どこまで歩くのかはわからないが化猫と一緒なら大丈夫だ。どこまででも歩いていける。そう思って視線を落とした汀は先ほどまで腕に抱いていた化猫の姿が消えていることに気づいた。
一体どこに、とうろたえる汀の手を冷たい手が握る。見上げると青花が隣に立っていた。
「行こう」
白く柔らかな髪に獣の大きな耳、きらきら光る宝石のような色違いの目。人の姿であろうがあやかしの姿であろうが変わらない冷たくかすかな笑み。
「はい……!」
手をつなぎ、青花と汀は歩きはじめた。
死神の娘・完
「死神の娘」は以上で完結です。
化猫と人の娘はこの話以降も悩んだりもごもごしたりする予定ですが、離れることは無いのだと思います。
書き手としてはお互いの手を離すことなく、同じ道を歩いてくれたらいいなと思います。人の娘にとっては棘の道かもしれませんが、死神が言うように「幸せであればそれでいい」のだと思っています。
長々とお付き合いいただき、ありがとうございました。




