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introduction
名前を呼ばれているような気がした。それが誰の声なのか、わかるようでわからない。
その声には感情というものが一切含まれていないように思えたが泣いているようにも思えて、泣かなくてもいいのだと言いたかった。
傍にいるはずの声の主の顔を見ようとしたが瞼は重く、眠りから覚めることができない。
それが恐ろしくてもがく汀の体を誰かが抱き寄せた。
先程までの恐怖はとたんに消え失せ、無理に目覚めなくてもなくてもいいのだという奇妙な安堵が体の力を奪っていく。
ひやりとした感触が額に触れ、瞼に触れる。唇に触れて初めて口づけされているのだと気がついた……誰がそんなことをしているのかはもう、どうでもいい。
この腕に抱かれて眠り続ける事ができたらどんなに幸せな事だろう。