2/10
記憶<失恋>
忘れたい記憶は いつまでたっても消えないのに
忘れたくない笑顔は いつのまにか薄れていく
愛してる
と
告げたその声は
いま
誰の名前を呼んでいるの?
そっと頬に這わせた指先で
いま
誰に 触れているの?
会えなくなって 悲しくて
機械越しの声だけが 縋れるもので
逃げたのは 私
終わりを待つのが怖くて
終わらせたのは 私
終わっていなかったのに 終わらせたくないと言ってくれたのに
私は あなたを 断ち切った
離れていくのを 見たくなかった
厭わしく思われるのを 待ちたくなかった
不安は 希望も記憶もすべてを飲み込み
ただ 一つ
苦しさからの逃げ道を 私に示してくれた。
逃げたら 何も 終われないことに 気付けずに。
愛してる
と
告げたその声は
いま
誰の名前を呼んでいるの?
そっと頬に這わせた指先で
いま
誰に 触れているの?
私は いま。
ひとり。