*戦闘服は純白で
「ベリルやルーシーのおかげです」
そう言ったソフィアに電話の向こうの声は嬉しそうに笑った。
<ベリルには知らせるの?>
「! もちろん、そのつもりです」
あたしの全てを変えた人。そして全てになる人と出会わせてくれた人……感謝してもしきれない。
<きっと彼も喜ぶわ>
「はい」
そう応えた脳裏には彼の微笑みが浮かんでいた。
それから仲間たちからの祝福メールや電話が幾つも来て対応に追われベリルに連絡する暇もなく、あっという間に挙式数ヶ月前──
「ベリルには招待状、送るよね」
「うん」
招待状の管理をしながらレオンが問いかける。
「来てくれるかな……」
「それは解らないけど、彼ならこれで解ってくれると思うから」
苦笑いを浮かべた。
結局、タイミングを逃したという事もあり未だにベリルに連絡出来ずにいた。
彼が怒らない事も、2人を祝福してくれる事も充分に解っている。ベリルはそういう人なのだ。
レオンが招待状を封に入れソフィアがそれを閉じた。
それから数週間経ってもベリルからの返事はなく……なんとなく解っていた事に彼女は小さく溜息を漏らす。
「あああ~やっぱり怒ってるのかなぁ……もっと早く連絡出来てれば良かったのに……」
レオンは部屋の中をうろうろと落ち着きなく歩き回っていた。
「予想はしてたコトでしょ? 皇子がそんな顔しないの」
「そうだけどさぁ……」
ホント可愛いんだから。とクスッと笑った。それから庭園に視線を移し、小さく溜息を吐く。
確かに予想はしてたけど、やっぱり少し寂しいよ……ベリル。
結局、彼から何の連絡もなく挙式当日になってしまった。
挙式は厳重な警戒態勢で城の近くにある大きな教会で行われる。参加者はボディチェックを入念にされ教会の外で2人を待ち、出てきた2人を祝福するのだ。
2人は祭壇の前に立ち司祭の言葉を聞きながら決まった儀式を終え、いよいよ国民の待つ外に出るため扉の前に立つ。
「やっぱり来ないのかな……」
「あら、あなたはまだ彼のコト解ってないのね」
心配そうにしているレオンにニコリと笑った。
「どういうこと?」
「フフ、すぐに解るわ」
彼はきっと何かをしてくれる。彼女はそう信じていた。
少しだけでもいい、顔を見せてくれるよね? 心の中で発してキリリと前を見据え、開かれていく扉を見つめた。
白いローマ神殿を思わせる造りにソフィアの純白のドレスが映えて、背中まで伸ばした輝く金髪が上品に風に揺れる。よく晴れた雲のまばらな青い空も2人を祝福していた。
赤いじゅうたんの敷かれた白い階段から降りてくる2人を、通路の脇で国民たちが祝福の声を上げ2人は互いに見合って微笑んだ。
あと3段という処で──
「キャーッ!?」
「うわっ!?」
「!?」
後ろの方から叫び声が聞こえて2人は前を向いた。
そこに現れたのは、白いミリタリー服に身を包んだ数人の男たち。
「はい……?」
辺りは騒然となるが、ソフィアはその姿に眉をひそめる。
純白のミリタリー服なんかで攻撃をしかける者などいるのだろうか……? 誰しもが違和感を覚える服装に、さすがの国民たちもその姿を確認すると戸惑っていた。
腰には銃身の太いハンドガン、信号弾などを放つのに使われるものだ。しかし、ピンクに塗られたソレがさらなる違和感を与える。
それ以外の武器は持っていないように窺えて、男たちを1人1人確認していった。
「!」
ソフィアはその中の1人に声を上げる。
「ダグラス!?」
「お」
ダグラスと呼ばれた青年は天使のような笑顔で彼女に駆け寄り、丁寧にひざまずいた。
「ど、どうしたの?」
「皇子さま、そして皇女になられる方にはご機嫌麗しく。これは、さる方からの贈り物です」
ウインクして発したあと一礼し、しずしずと淡い緑の布にくるまれた20㎝ほどの縦長のものを彼女に差し出した。
「?」
それを受け取り、布を払っていくと──
「!? これ……」
「末永くお幸せに。とのことです」
再び一礼し、立ち上がって他の男たちに軽く手を挙げる。
すると男たちは持っていた太い銃口のハンドガンを空に向けて引鉄を引いた。
「おお! これは素晴らしい」
軽い音と共に、紙吹雪が空に舞う。
レオンは感嘆の声を上げ、ソフィアは手の中にあるものに視線を落とした。
「! それは?」
レオンは彼女の手にあるものに問いかける。
「素晴らしいダガーね」
彼女の手の上には、ふた振りのダガー……護身用として隠し持てるサイズだ。ナイフと呼ぶには芸術的な、装飾のほどこされた短剣に目を細める。
「!」
ふと、ダガーがくるまれていた布の角に目が留まった。
「! どうしたんだ?」
涙を流して笑っている彼女に驚いて問いかける。
「ベリルからの最高のプレゼントだわ」
「! ベリルから?」
そこには──上に刃を向けた剣の柄に一対の翼とその後ろには簡略化された盾が描かれたマークが記されていた。ベリルのエンブレムだ。
色んなコトを思い出す。
泣いたコトや笑ったコト、恋をしたコト……全てがとても大切で、これからの人生に活かせるものだと確信していた。
きっとこれからの方がもっと大変なんだと思う。
でも、手の中にあるふた振りのダガーが「心配ない」と背中を押してくれている……そう思えた。
ストールを抱きしめ「ありがとう」とつぶやく。
END
*最後までお付き合いいただき、ありがとうございます。
読んでくださった方が少しでも楽しんでいただけたら幸いです。