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*顔合わせ

「君の事は皇室内ではもう知れ渡っててさ。早く紹介しろと父上がうるさくて……」

 照れたように頭をかきながら応えるレオン皇子に睨みを利かせる。

「だからって突然、会食はないでしょ!?」

 少し涙目に訴えた。

「まあ考えておいてよ。まだ先の話だから」

「こっちは一大決心なのよ!」

 苦笑いを続けるレオンにビシッ! と指を差した。


 とかなんとかごねていたソフィアだが、1ヶ月後──とうとう会食に向かう事になった。

「ああ……何を言えばいいのよ。どんな顔すればいいの?」

 レオン皇子がよこした車で城に向かう中、落ち着かなくてそわそわする。

「ご心配いりませんよ。皇帝はお優しい方です」

 運転手がバックミラー越しに後部座席の彼女に笑顔を見せた。

「ありがとう……」

 城はレオン皇子の招きで何度か訪れているが、今日はいつもとは違う。

 見慣れた皇族の私室のある方ではなく食堂や客間のある通路を、慣れないドレスとハイヒールで苛つき気味に侍女の後ろをついていった。

 客間のある通路は私室のある通路よりも豪華に飾られていた。

「……あはは」

 案内された部屋は、それはもうレオン皇子の私室の比ではない。

 煌びやかなシャンデリアと銀製の燭台しょくだい。1枚、数千ドルはしそうな食器……迎賓をもてなすために尽くされた数々に頭がクラクラした。

「ソフィア」

「!」

 聞き覚えのある声に振り返る。

「レオン皇子」

 ホッとしてレオンに近づいた。しかし、彼の服装は当り前といえば当り前だがいつもよりフォーマルだった。

「やあ、似合うよ」

「お世辞でも嬉しいわ」

 落ち着いた淡いピンクのシンプルなドレス。彼女らしいといえば彼女らしいドレスにレオンは柔らかに微笑む。

「もうすぐ父上と母上が来られる」

「!?」

 緊張で背筋を伸ばした。

「あら、似合うじゃない。意外ね」

 聞き覚えのある声に顔を向けると、そこにいたのはレオナ皇女が嬉しそうに立っていた。皮肉混じりの言葉だが、今の彼女にとっては安心出来る物言いだった。

 こんな処で、なまじお世辞言われた方が気持ちが悪いわ……とニコリと笑う。

 しかしレオナ皇女の服装には目を丸くした。いつものように派手なワインレッドにダイヤのネックレス。背中が広く開いていて一体、誰にアピールしているのか解らない。

 何せ、この部屋にいる男性はレオン皇子と侍従の数人くらいなのだ。

 レオナ皇女にとってはどれも範囲外だと思うのだが……そういうのとは関係無いのかな? と首をかしげた。

「!」

 扉が静かに開かれる──入ってきたのは、威厳のある老齢な男性と貴賓漂う女性。

「……わあ」

 テレビで見た姿に呆然と立ちつくす。

 50歳を過ぎたムカネル皇帝は落ち着き払った態度でまずレオン皇子とレオナ皇女に挨拶を交わした。

 暗い金色と黒の混じり合った髪は白髪が目立ち、あごを飾るヒゲも白い。しかしその姿は威厳を持ちがっしりとした体格は上品なスーツに身を包んでいる。

 リリア皇妃がその後に続く。

 レオン皇子は2人をソフィアの前に丁寧に促し、少しずつ近づく皇帝と皇妃に彼女の胸の動悸は治まらない。

「父上、彼女がソフィアです」

「! ごっ、ご機嫌麗しく。今日は会食に招待していただきありがとうございます!」

 たどたどしくも必死で言葉を紡ぐ彼女に、ムカネル皇帝は優しい眼差しを向けた。

「そんなに気を張らなくてよい」

「! あ、はい……」

「あなたがソフィアさんね」

 上品なラベンダー色のドレスに身を包んだ女性、リリア皇妃がソフィアの前に立つ。

「は、はい! リリア皇妃、ご機嫌麗しく……」

 流れるような栗毛をアップしているリリア皇妃は、ムカネル皇帝と違って彼女をあまり快くは思っていないらしい。

 挨拶もそこそこにテーブルに向かった。

「……」

 ま、解ってたコトだけどね。小さく溜息を漏らしレオン皇子に促されてテーブルに足を向ける。

 ピアノとヴァイオリンの生演奏に運ばれてくる綺麗な料理は彼女にとって全てが新鮮で緊張だった。

「う……」

 マナーなんかあんまり分かんない……目の前の料理に内心、悪戦苦闘していた。

 会食が決まって数日は自分で調べたマナーを必死に覚えていたが、どうにもならなくなってベリルに電話し彼から送られてきたデータを見ながらおさらい。

 そして今に至る。という訳だが、記憶にあったって実際にやってみるのとは違う。あまりの緊張に味も解らない。

「気にしないで」

 見かねたレオン皇子が彼女につぶやく。気にしないでって何を気にしないでいいのか解らない。頭はパニック状態だ。

 そんな時──侍従が運んできたピッチャーが視界の端で傾いた。

「わっ!?」

 どうやら手を滑らせたらしい。

「!?」

 ソフィアはとっさに飛びついてピッチャーを掴む。

 高級ガラスで作られたピッチャーは割れる事無く、少しの水を赤い絨毯じゅうたんに落としただけで済んだ。

「あ、ありがとうございます」

「いいえ……」

 と、ハタ! と気がつく。

「……」

 寝そべっているソフィアに一同の目が注がれていた。

「す、すいませんっ」

「さすがね」

 レオナ皇女は感心するように発して何事もなかったように料理を口に運ぶ。


 会食が終り、ソフィアはそこから続くバルコニーで庭園を眺めていた。

「!?」

 隣に大きな影──ムカネル皇帝だ。驚いて変な声が出そうになった。

「レオンがいつも貴方の事を楽しそうに話すものだから、会いたくなってね」

「! あ、いいえ……ありがとうございます」

 皇帝にかしこまって言われると強制的に連れて来たレオンに怒っている自分が少し情けなくなってしまう。

「息子は変わった」

「!」

「君のおかげかとも思ったのだが」

「えっ!? いいえ違います」

 ソフィアは驚いて声をうわずらせ頭を大きく振って否定した。そしてバラの咲き乱れる庭園に目を移し微笑む。

「きっと……ベリルのせいです」

「! ベリル? ああ、レオンの暗殺を阻止してくれたという」

「皇帝はお会いになったコトは……」

「無いのだ。残念ながら」

 会って礼を言いたいのだがね……と困ったように溜息を漏らす。

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