*皇子
「邪魔をする気か」
男の1人がソフィアを睨み付ける。
「あななたちのやってるコトは許されるコトじゃない」
「皇族など消し去ってしまえばいい」
男たちは低く発して鋭い視線を向けた。
「! 反皇族派か」
レオン皇子は狙われた事に納得し身構える。
「心配ない」
「え……」
安心させるためにベリルの口調を真似ると、レオン皇子は目を丸くして彼女を見下ろした。
「動かないで!」
声を張り上げたあと、身を低くして目の前の男に素早く駆け寄る。
「!?」
驚いて動きを止めた男のナイフをすかさず蹴り上げ、その痛みで顔を歪めたそのあごに膝をお見舞いした。
高く上がったナイフを掴み、左にいる男の足に投げつける。
「ぐあっ!?」
「……」
なんて鮮やかな……と、感心しているレオン皇子の肩を別の男が掴む。
「!」
駆け寄ろうとしたが、レオンはその男の手を掴み返して地面に叩き投げた。
「ぐぇっ!」
痛みでもがく男を見下ろす。
「あれから体術を習ってるんだ」
フン! と鼻を鳴らす。
「わ」
ちょっと驚いた彼女にレオン皇子はニコリと笑いかける。
「は……」
ソフィアは少し笑って、残りの男たちを叩き伏せた。
「くっ、くそ!」
悔し紛れに言い放ち逃げていく男たちの背中を見送って小さく溜息を吐き、呆然としているレオン皇子に振り返る。
「あなたがレオン皇子だったなんて」
「?」
苦笑いを浮かべた彼女に少し首をかしげた。
「写真と全然、違うんだもの」
「そんなに上手く化けてるかい?」
「そうじゃなくて……顔つきが」
「? そうかな」
キョトンとしているが、彼女から見れば写真とは別人で温厚そうな青年だった事に驚きを隠せない。
「とにかく無事で良かった」
「俺を助けてくれたのか。君は……」
「あたしはソフィア」
手を差し出すと青年はそれに応えながら問いかける。
「君は……傭兵?」
「! どうして?」
聞き返されて微笑む。
「俺の知ってる人に似てるから」
それに、やはり彼の事を覚えているんだと聞き返した。
「ベリルのコト?」
「!?」
驚く皇子にクスッと笑う。
「君は一体……」
「あたし、彼の弟子の1人よ」
その言葉に青年は納得した。
「あたしはリリパットだけどね」
「リリパット?」
「義賊のコトよ。彼に憧れて傭兵になろうと思ったけど、リリパットの方が向いてるって言われて転向したの」
ちゃんと弟子として認めてもらった訳じゃないけど、リリパットとしての基本的な技術は彼から学んだんだから間違っちゃいないわよね。
心の中で勝手にそう納得付けた。
そんな彼女を見て、青年は少し愁いを帯びた瞳で微笑む。
「彼を好きになったんだね」
「! 解っちゃう?」
周りから見ればやっぱりバレバレなのかな?
「彼に憧れて少しでも彼の近くにいたくて門を叩いたけど、ダメだったわ」
ペロリと舌を出す。
「辛かっただろうね……」
感情のこもった声に、少し眉をひそめた。
「なんか……随分とリアルな言葉ね」
「聞いてないんだ」
怪訝な表情で発した彼女に苦笑いを浮かべたあと、耳を疑うような言葉を発する。
「俺はベリルに求婚したんだよ」
「!?」
プロポーズ!? マジで!?
「ホントに……? でも同性愛は重罪で……って皇族はOKなんだったわね」
先に法律の方が気になった。いや、もうホントにそれくらいしか反応出来なかったわよ。
「うん。あの時ほど、皇族に生まれて良かったと思ったことはなかったね」
この国では同性愛は皇族のみが許される特権であり国民は重罪となる。
「……」
しれっと言ってくれちゃってるけど……まあ確かに、ベリルが相手ならプロポーズしたって不思議じゃないとは思える。
そこがまた不思議なんだけどさ。
「もしかして、あなたが変わったのはベリルのせいかしら」
自然にその思考が過ぎり、ぼそりと発した。
「! そんなに変わった?」
「別人なくらいよ」
肩をすくめて1枚の写真を差し出す。
「それ、いつの写真?」
差し出された写真を受け取って見つめている彼に問いかけた。
「多分2年くらい前のかな」
言って返すと、納得したように応える。
「髪の色や目の色を変えたくらいで、あたしたちが気付かないワケ無いもの」
リリパットしての自分の力量に胸を張る。
「……そうか。じゃあ、ベリルのおかげなんだろうね」
小さく笑って柔らかな笑顔を向けた彼に、なんだか呆れた。本当に写真とは似ても似つかない優しい微笑みで、頭の中がそっくり入れ替わったんじゃないかと思えるほどにはやっぱり驚く。
「でも、よく助けてくれる気になったね」
彼の言葉に小さく笑った。
「そうね。ここはあたしの生まれた国だし、ベリルからあなたのコトも聞いてたから」
その件については初耳だけど。と笑う。
「自分の国でそんな血なまぐさいコト……嫌だし。ベリルはしっかりこの国のコトも調べていたわ」
「! へえ……」
「確かに皇族の統治国家だけど、それ自体が悪い訳じゃない。それを物語るように不満に思ってる人はごくわずかだわ」
ベリルから聞いた事を反芻するように発した。
「全ては人間次第。彼はそれを教えてくれたの」
「うん、そうだね……」
2人は彼の姿を思い浮かべるようにしばらく沈黙した。
「ここで立ち話というのもなんだから、うちに来ない? 綺麗な庭でお茶でもしよう」
軽くナンパするような口調に眉をひそめる。
「……」
うちってお城じゃない。さすがに城に行くのは躊躇した。
「拒否したら正式に皇子として招待することになるよ」
牽制するようにニコリと微笑んだ。





