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*確実なる儚さ

 その言葉に怪訝な表情を浮かべた。

「でも、他の仕事を探すって……」

「傭兵が必要の無い世界ならね」

 少し伏せた瞳は愁いを帯びていた。

 戦いの無い世界を描いてみても結果は徒労に終る……そんな思考を繰り返す。

『争いなど終らない』

 何度も突きつけられる現実──それでも、ベリルは進み続ける。

『ならば、私の出来る限りを尽くそう』

 終らない時間、許されない安らぎの訪れ……それでも彼は、そう思う。

「ベリルは強いのね」

 戦い続けなければならないベリルを思う時、ソフィアは自然と涙がこぼれていた。

「強くなどないよ」

 涙を拭う彼女に静かに微笑んで応えた。

「誰の心にも強さと弱さは存在する。そうでなければ厳しさと優しさを知る事も、与える事も出来ない」

 人は、優しさだけでも厳しさだけでもだめなのだから……そう発した彼をジッと見つめる。以前、ダグラスが少しだけ彼の不死になった原因を教えてくれた。

 出会った少女が偶然、不死の力を持っていて瀕死になった彼に使ってしまったとか。たった一度だけしか使えないその力で、その人はベリルを助けたんだ。

 その人じゃないけれど、解る気がする。彼を死なせたくなかったんだというその気持ちが……


 その夜──ソフィアはベッドで寝ころびながら考えていた。

「弱い処……ベリルにあるのかしら」

 頭の後ろで両腕を組み、天井をぼんやりと眺める。

「……」

 何故か、チクリと胸が痛んだ。

「あたし……彼を苦しませているのよね」

 ダグラスの言葉と彼の表情を思い出す。

 しかし、彼は何も変わらず接してくれる。

「あたしは……ベリルの優しさに甘えてるだけなのかな……」

 そしてふと、彼の姿を思い起こす。

 そこに確実に存在しているハズなのに、どこか儚い。あんなに強烈な存在感なのに、いつの間にか消えてしまいそうな微かな恐怖。

「永遠って……そういうものなのかな」

 ポツリとつぶやいた。


 次の朝──リビングに降りてくると、ベリルがいつものようにキッチンで朝食を作っていた。

「!」

 しかし、何か違和感があった。

「……?」

 飲み物を取りに来てふと見ると、準備されている食材の多さに少し驚いた。

「おはよう」

「あ、おはよう」

 昼食の分も下準備してるのかな? そう思ってジュースを手にリビングに戻る。

「ソフィア」

「! なに?」

 下準備を終え、ティカップ片手にリビングのソファに腰掛けた。

「嫌いな食べ物は無いか」

「え? うーん……無いと思う」

 それを聞いて、納得したように目を一度閉じた。

「今の皇帝はムカネル皇帝なんだけど、50歳っていう高齢なのよね」

 そして話題をフォシエントに切り替える。

「うむ。第一皇位継承者はレオン皇子、20歳だ」

 レオン皇子の写真を手渡す。それを受け取って少し眉間にしわを寄せた。

「それは数年前のものだが、今はもう少し顔つきが変わっていると思われる」

「レオン皇子……」

 皇族の住む城のある首都に家があるソフィアだが、レオン皇子を間近で見た事はない。テレビで皇族の番組が定期的に流れる程度で、彼女にはさしたる関心はなかった。

 初めてマジマジとレオン皇子の顔を見つめる。

 肩までの黒髪と切れ長の黒い瞳──整った顔立ちだが、その挑戦的で不敵な笑みが妙に苛つかせる。

「ベリルは彼に会ったコトがあるのよね」

「うむ」

「どんな人物なの?」

 問いかけた彼女の目に一瞬、瞳を曇らせ彼が映った。

「? なんかまずいコトでも?」

「いや……そういう訳ではないが」

 濁らせるような物言いに小さく首をかしげる。

「! ん……」

「どうしたの?」

 手に入れた情報に眉をひそめる彼に問いかけた。

「レオン皇子は最近、隠れて街に出かけているらしい」

「! お忍びで?」

「それを狙った犯行かもしれん」

 発しながらキーを打つ。そこから導き出される答えは──

「ふむ。まだ計画の遂行日時までは決まっていないようだが……実行する者たちの情報も掴めん」

「反皇族派なのは確かよね」

 ムカネル皇帝にはもう1人、娘がいる。皇帝として継ぐのは基本的に男性だが、その代に男がいない場合は女性が継承する事も可能だ。

 しかし、女性が継いだ事はあまりなくレオン皇子が他界すれば国が一時的に混乱する事は明らかだ。

 それに乗じてクーデターを起こすつもりなのかもしれない。

「信じられないわ」

 今の処、フォシエントに不満を持つ国民は少ないというのに……ソフィアは反皇族派に嫌悪感を覚えた。

 自分たちが正しいのだと思うのは構わない。だけど、人を傷つけて成すべき事なのかどうかを考慮しつくして余りあるハズだ。

 自身の都合の良い社会にするためのものならば……それは間違っていると思う。理想と幻想と妄想を一緒くたにされても、巻き込まれて傷つくのは多くの国民だわ。

 その苦しみに、彼女は胸の前で拳を強く握る。

「暗殺成功と同時に何か事をしかける可能性もある。連携を取らねばならんな」

「連携?」

 2人は飲み物を口に運び彼が続ける。

「レオン皇子が街に出た時に仕掛ける事は確認した。街中のため計画を実行する者は数人だろう」

「! そうか。レオン皇子の保護と、その組織の壊滅を同時にしなきゃならないのね」

「計画した組織を捨て置く訳にはいかんからな」

「じゃあ、あたしがレオン皇子の保護に向かうわ。ベリルは組織の壊滅をお願い」

 彼はそれに少し目を細めた。

「大丈夫よ! もうすぐルーシーが立会人になるのよ」

 この世界では一人前になるとき、立会人のもとで形式的な儀式が行われる。

 といっても、堅苦しいものでもなければ準備が必要なものでもない。「一人前になる」という心構えのために行う程度のものだ。

「!」

 立ち上がった彼に、壁に掛けられた時計に視線を向けると昼近かった。

 ああ……昼食の準備か。思って、手伝うため自分も立ち上がる。

「あれ?」

 変ね、さっき準備してたのと違う……手慣れた手つきで出来上がっていく料理に怪訝な表情を浮かべた。

 じゃあ晩ご飯かな? 出来ていく料理をダイニングテーブルに並べた。

 お昼はスープスパゲティ。ホワイトソースが、あさりの旨味を吸って溜息が出るほど美味しかった。

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