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*永遠の孤独

 呼び鈴を鳴らすと、何の反応もなくドアの鍵がカチリと音を立てた。

「!」

 同時にガレージのシャッターが閉まる。相変わらず無駄のない動きに苦笑いを浮かべ中に入った。廊下を抜けてリビングに続くドアの無い入り口に踏み入れる。

「大事ないか」

 目が合うと静かにそう応えた彼はティカップの乗せられたトレイを持ってダイニングキッチンに立っていた。

「……」

 その姿が酷く懐かしく感じられしばらく無言で見つめる。そんな彼女に微笑んで、紅茶の煎れられたカップをリビングテーブルに乗せ再びキッチンに向かった。

 持ってきたものに目を丸くする。

「もしかして……それも試作?」

 その質問に苦笑いを返した。

「隣にね」

「ああ……隣か」

 何から話していいのか迷い、目の前に置かれている生クリームケーキにフォークを立てた。

 隣のお嬢さんがもうすぐ誕生日だからケーキを作ってほしいと頼まれたのだそうな。

 紅茶はブルーベリーだった。甘酸っぱい感覚が口の中に広がり、ケーキの甘さを引き立ててくれる。

「おいし……」

 ソフィアはホゥ……と溜息を吐き出し、少し宙を見つめた。

「ベリル……あの」

「ん?」

 ティカップを上品に傾けていた彼が目を向ける。

「フォシエントについて、何か聞いてない?」

「暗殺計画の事か」

「!?」

 無表情で口を開いたベリルを凝視した。

「以前にも出くわしたが、反皇族派は地下に潜っているため根絶は難しい」

「えっ? 出くわしたって?」

「ちょっと出向いた事があるのだよ」

 以前にフォシエント皇国を訪れて反皇族派が雇った殺し屋と闘った事を彼女に語った。国にいた時は時折、そんなニュースもテレビで流れてはいたけれど……実感なんか無かった。

「あたしの国……だめなのかな?」

「何故だね?」

「だって……っ」

 喉を詰まらせて不安げに見つける彼女に目を細める。

「反対派など、どこの国にも存在するものだ。フォシエントは珍しい統治国家だが、国民はさほど不満を持っている訳ではない」

「そうなの……?」

「政治に関心を示す者が多くはない事からも解るだろう」

「そう……なの?」

「国民が政治に関心を示す度合いで、その国が平和かどうかの1つの判断基準になる」

「そか……」

 そういえばあたし、住んでて不満なんかなかった気がする。思い出すように少し上を見上げた。

「フォシエントは良い国だ」

「! ホント?」

 嬉しくて声が少しうわずる。そしてケーキをパクリと口に含んだ。

「いつまでいるのだね?」

「え、一週間くらいいてもいい?」

「その情報について私からも調べてみよう」

 それに笑顔を浮かべる。

「ホント!? ありがとう」

 彼の持つ情報網はリリパットと同等か、それ以上だとルーシーが言っていた。これほど心強い味方はいない。

「あ、今日はあたしが夕飯作るね!」

 キッチンに足を向けた。それを一瞥し、脇に閉じていたノートパソコンを開いてキーを打つ。

「……」

 カウンターキッチンからその後ろ姿を見つめた。

 ベリルが不死という事を知ったとき、初めに思った疑問……それをルーシーに訊ねた事がある。

『彼が不死というコトに、みんなは抵抗とか無かったんですか?』

 そんな彼女の質問に柔らかな笑顔を浮かべ、ルーシーはささやくように発した。

「確かに彼は死なないけれど、誰よりも命というものを大切にしているわ」

 その瞳はどこか哀しく切なかった。

「不死の彼が、どうして自分の父親より先に飛び出さなかったんだろうと怒りには感じているかもしれないけど」

「! そんなコト……思ったコトありません」

 その言葉に、少しホッとしたように小さく笑んで続けた。

「彼は死なないけれど痛みは私たちと同じ、何も変わらないわ。だから──」

 だから、カークは彼を押しのけて自分が駆け出した。

「! 父が……!?」

「彼は、死ぬことの無い自分を盾にすることがあるの……傭兵たちは少なからず色んな傷を負ってきた、その痛みが分からない訳じゃない」

 カークは、もう彼の苦しむ姿は見たくなかったのでしょうね。

「人間、1人の力なんてたかが知れてる。私たちにはベリルの力が必要なの、彼がいてくれるからこそ自分の命を賭けることが出来る」

「でも……それならどうしてベリルはそう言ってくれなかったの……?」

「カークの意図を察することが出来ずに、彼を死なせてしまった自分に責任を感じているのよ」

「……」

 どうしてそこまで優しいの……? うつむいて涙を流した。


「そんな人を、あたしがどうして責められる?」

 まな板の上に乗せたタラの切り身を見つめてつぶやいた。

 痛みも、苦しみも、全部を背負って生き続けなければならない人を……あたしが責められるワケがない。

 ベリルは、父さんの死も背負ってしまったんだ。

「──っ」

 ソフィアの潤んだ瞳から、ポタリと雫がまな板に落ちる。

「どうした」

「!」

 振り向くと彼が怪訝な表情で立っていた。

「なんでもない!」

 気を取り直して包丁を手にする。

 彼きっと苦い顔をしているだろう。でも、彼の顔は見ない……見たら泣いてしまうから。

「自分の責任だったのだから」と言うのだろう。もうそんな言葉を彼に言わせたくない。

 3日後、ソフィアは20歳を迎える。

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